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抗うカモメ

登場人物


神宮寺 玲  高校3年 メジャーデビューを目指す青年。ギター担当。作曲を担当。

       愛車はカワサキ叔父から貰い受けたGPZ900R。


御手洗 侑吾 高校3年 ベース。陽気。愛車はヤマハTW200。


マイコ    高校3年 ボーカル。漫画をこよなく愛すオタク。

       愛車はジャイアント アルミロード コンテンド。


コバちゃん  高校3年 ドラム。汗かき。

       徒歩、電車。

 終業式を終えたばかりの春休みの朝、といってもオフィスではOL達がランチの相談をし始める午前11時40分頃、僕は、ようやく重い瞼をこじ開けた。


 そして、完全に目の覚めぬまま、壁に取り付けられたギターフックからギブソンUSA レスポールクラシックを掴み取った。


 このレスポールクラシックは、スリムテーパーシェイプネックが採用されており、日本人のような小さな手でも握りやすい形状になっている。ゴールドトップのボディが、窓から差し込む光に照らされ艶やかに煌めいている。机の上に何枚か転がっている合成樹脂で成型された無機質なピックを一枚拾う。マーシャルのスイッチを入れるとボリュームのノブだけをほんの少し丁寧に回した。6弦開放をダウンピッキングで刻み歪んだ音を確かめる。


ゆったりとしたテンポで弾き続けていると、ぼんやりとした部屋の景色が色付いてくるのが分かった。幾つかの新しい曲の構想は頭の中にあったが、まだ形にならぬまま既に数日が過ぎ去っていた。


締め切りのない課題は遅々として進まない。


 これまでに作った曲とフレーズが被らないように、いくつかのメロディを弾きながら展開を考える。朧げな形が見え、スマートフォンに録音をしようとしたその時、玄関のドアの開く音が聞こえた。


 侵入者は予告なしに僕の部屋を開け、その隙間から瑠璃色の長い髪を覗かせた。


「ギターの音が外の駐車場まで聞こえてるよ。もうちょっと音下げてよ」


 姉の瑠衣だ。

「あー、帰ってきたん?」


「お父さんから聞いてない?ちょっとだけやけど」


「そうなんや」


「無理したらあかんで。病人なんやから」


「あー、」


「行ってきまーす」


僕の返事を聞く間もなくそれだけを言うと直ぐに振り返り、扉を閉めて何かを取ってまた出かけてしまった。


 曲作りの邪魔が入ってしまった僕は、カラカラに乾いた喉を潤わすためにリビングへと移動した。


 そして、冷蔵庫を開けペットボトルに入った飲みかけのエナジードリンクを一気に胃袋へと流し込んだ。


 ベランダから差し込む陽光が眩しく、左手でそれを遮るようにし外を眺めると、一羽のカモメが風に抗い不規則に上下しながら西から東へと舞う姿が見えた。


 食卓テーブルには食パンが2枚とサラダ、スクランブルエッグ、それと昼食代の千円札が一緒に置いてあった。


 千円札は胃袋ではなく財布に放り込まれる。少し遅い朝食を済ませ、スタジオの時間に間に合うように、いつもより短めのシャワーを浴びた。



 玄関に置いてあったバイクの鍵をTシャツの上に羽織ったアルファ インダストリアル社製N―3Bのポケットへと入れた。


 駐輪場に止めているライムグリーンのカワサキGPZ900Rに跨りキーを差し込む。


インジェクションスイッチをONにしインジケータのニュートラルランプが点灯するのを確認してからセルボタンを押すと、キュルキュルとモーターが回転しエンジンが動き出した。


手を馴染ませるようにしてグローブを2、3回強く握り締め、フルフェイスのシールドを下ろした。



 芦屋方面から三宮へ行くには、山手幹線、2号線、43号線の3本の大きな幹線道路がある。


43号線を走ると長い信号に足止めをくらうが、山手幹線や2号線よりも信号の数が少ない。

だから、大抵は43号線を使う。


木々の生い茂った六甲山を背にした信号が黄色から赤へと変わるとクラッチレバーを握り、ギアを踏み込む。


一速に入れたままアクセルを回すと、ギターのギグバッグが風圧で後方へと吹き飛びそうになった。


高速道路と遮音壁に囲まれた灰色のトンネルを抜けると雲ひとつない青空が広がった。


 緑色の弾丸のようにして疾走すると10分もかからない内に三宮にあるスタジオ ロックジャンキーズに到着していた。


 左手のグローブを外すとタグホイヤーアクアレーサーレガッタの時刻が12時40分を刻んでいた。

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