08話 見てもいい?
「僕の左腕には噛み傷があるんだ。犬に噛まれた時の大きな傷跡が。それで先生達が確認しておきたいって連絡があったから行ってきたの」
正直放っておいてほしいし雰囲気や状況で察してほしいけど、それは高望みだ。言わないと伝わらないし、分かってもらえない。
「……………ごめん。嫌な感じになっちゃったね」
「僕も気付くのが遅くてごめん。だけど自分からは言いたくないんだ。不幸自慢みたいになっちゃうから」
多分ここでは、軽い口調で冗談交じりに説明するのが正解だろう。そうすればもう気にしてないのが相手に伝わるし、空気も重くなったりはしない。
だけど僕は、そこまで器用にはなれない。
傷跡で苦労するのに折り合いは付けてあるけど、明るく振る舞うのは苦手だし、そういう性格だから仕方がない。男子なら事情を知った後でも親しくなれた奴はいたけど、女子からは距離を取られて、義務感や正義感のある子が声をかけてくれるだけだった。そんな状況が続いたから、女の子とは距離を取る様にしている。だから今回も、そうするだけだ。
「不幸自慢って……、石神君は不幸なの?」
「そりゃあね。傷跡を見せれば避けられるし、周りから気を使われたり心配されたりするのは居心地が悪いよ」
「それは…………………………、そう、なんだ……」
言葉に詰まり、萎んだ声が返ってくる。
またやってしまった。
「いや、別に心配されて迷惑とまでは思ってないから。何てゆーか、仕方ないじゃん」
やっぱり僕は説明が下手糞だな。
だからさっさと〆よう。長引けば泥試合だ。
「とにかく、明日からクラスでどうにか上手く立ち回って、我慢する所は我慢して、学園生活を乗り切っていく予定だから」
花祭さんと比べたらつまらない願いかもしれない。だけど僕にとっては切実な願いだ。話を無理矢理まとめたけど、花祭さんは沈黙したままだった。やっぱり傷跡の話をすると、どうしたってこんな空気になってしまい、相手に申し訳ないとさえ思ってしまう。
だけど、嬉しかった。
花祭さんは話をちゃんと聞いてくれた。仲良くはなれないけど、クラス内に理解者が居てくれるのは嬉しい。とにかくこれを地道に続けていこう。
あとはこの気まずい空気を解消させるだけだ。さっさと帰ろう。そう思って机に置いた鞄を取ろうとしたら、咄嗟に花祭さんが遮ってきて、僕の鞄をガッチリと抱きしめてきた。
えっ、何で?
呆気に取られていたら、難題を出されてしまった。
「あのね石神君。傷跡、見てもいい?」