06話 謎オチ
校長は困り果てた感じで唸っているし、奥野先生に至っては顔が真っ青だ。浅坂先生は愛想笑いで、教頭先生は……怖っ! もはや般若が泣いて逃げ出すレベルだ! 直視できない!
痛い表現も規制対象だった事に気付けなくて、この状況を作ってしまった責任を感じていたら、ただ1人冷静に話を聞いていた小清水先生がソファーに置いたカバーを渡してくれた。
「ありがとう。もう充分だ。因みにこのカバーは、普段から付けているのか?」
「はい、見せびらかすものでもないので」
肌色のカバーだから、パッと見なら分からない様になっている。
「そうだな、今後もそうしてくれ。体育でも構いませんよね、奥野先生」
「ああ、問題ない。それより石神、体育でできない事はあるか?」
「ないです。握力は弱いですけど、生活に支障が出るレベルじゃないので。ただ周りが気にして、小学校ではドッチボールとか衝突のある競技はずっと審判でした」
「そうか……、事情は分かった」
「他に質問がある人はいますか?」
小清水先生が周りを見渡して、反応がないのを確認してから尋ねてきた。
「なら石神から私達に質問はあるか? さっき悩みがあると言っていたし、遠慮せずに答えていいぞ」
あの重苦しい状況を払拭したうえに質問の機会まで作ってくれた。もう完全に小清水先生がこの場を仕切っていて、校長までもが素直に従っている。だから遠慮せずに、ずっと答えが出せずにいる問題について聞いてみよう。
「この傷跡ですけど、どうやってクラスのみんなに説明すればいいですか? 目立ちたくはないですけど、隠し通すのも無理なので」
意味深なカバーを左腕に付けていれば周りは気になるだろうし、日下部みたく同じ小学校だった奴も校内にいるから、どこかで必ず知れ渡ってしまう。母さんは「気にしても仕方ない。失敗する時はするからね~」って言われたけど、やっぱり失敗は嫌だし、できる限り備えておきたい。だから母さん以外の大人の意見が欲しかったんだけど、これは先生にとっても難題らしく、唸り声しか返ってこない。
そんな中、小清水先生が校長を見ていて、それにつられて視線が集まっていく。
これは、一番偉い人の意見からって理由かな? 当の本人は困り顔のままだけど、この状況に観念するかの様に溜息を付いてから、1つの答えを示してくれた。
「うーむ、一応傷は完治している訳だし、わざわざ生徒達に周知するのも違和感がある。なので君自身が要所要所で説明をして、我々は必要に応じてフォローが妥当だろう」
やっぱりこれは、自分で頑張るしかない。
突きつけられた現実に息を呑むと、浅坂先生が心配そうに覗き込んでくる。
「自分で説明できそう? 辛い?」
左手を包み込む様に両手で握手をしてきて、そこから伝わってくる体温が暖かくて、不安が和らいでいく。
僕はもう中学生だ。
小学校では先生達が守ってくれたから大きなトラブルは起きなかった。たまに悪口を言ってくる奴もいたけど、問答無用で生徒指導室にブチ込まれて、僕に謝罪させるという法則ができあがっていて、しかも正義感の強い生徒が弾圧してくるというおまけ付きで周りから浮いちゃっていたけどね。そんな日々が3年続いて無事に卒業できたけど、傷跡は消えてくれなかったのだ。
今後も弱音を吐き続けて、周りに全部お任せする訳にもいかない。
だからこれからの自分に必要な言葉を、勇気を出して宣言しよう。
「その……、頑張りたいです。説明が下手で、不安だらけですけど……」
ずっと下を向いての発言で弱音が出ちゃったけど、小清水先生が僕の真正面に移動してから頭を撫でてくれた。へたれちゃったけど、頑張りを認めてくれたらしい。
「うむ。とりあえず我々先生側は静観しましょう。小清水先生、あと浅坂先生、2人は適度に気に掛けて下さい。奥野先生も体育の時は配慮を忘れない様に」
「はい」「はい」「はい」
校長が纏めた所で、ようやく話が終了した。
「ふー、緊張しました」
「教頭っ、君は何もしとらんだろうが! ずっと仏頂面してただけだろ! そもそも呼んでないのにどうしてココに居たんだね!」
最後に、よく分からないオチが用意されていた。