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噛みキズナ  作者: 奈瀬朋樹
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05話 噛みキズ

「……………」「……………」「……………」「……………」「……………」


大人5人を押し黙らせてしまった。

予想通りだけど、やっぱり残念だ。先生でこの反応だから、同級生に見られた時にはもっと面倒臭くなるって事が証明されてしまったと言っていい。


「これは……、完治しているのかね?」

「はい、重い物を持ったりもできます。これでも見た目は随分マシになったんですよ」


通常の傷跡は新陳代謝ですぐに消えるけど、肌の奥にある皮下組織にまで傷がついてしまうと傷口を塞ぐ為に肉芽細胞というものができる。だけど皮膚とは違う組織だから歪な形になる場合があり、しかも僕の左腕は特に損傷が激しかったせいで大きな傷跡になってしまったのだとお医者さんが説明してくれた。しかも皮下組織の傷は治るのが遅くて、数年・あるいは一生残ってしまう場合があるとも言われてしまった。僕はまだ成長期だから消える可能性が高いらしいけど、やっぱり時間が掛かってしまうらしい。


「そうか。しかし、これは……」


何度も見て来た光景だ。

僕を気遣って、どうコメントすべきか悩んでいる姿だ。


下手な慰めは余計に相手を傷つけてしまうという心理だろうけど、こういう反応をされるとこっちまで困ってしまう。気にしないでと言っても聞いてもらえないし、明るく振る舞っても無理をしている様で痛々しいと非難されるから、結局相手の視線をひしひしと感じながら重い沈黙に耐えるしかないという駄目な黄金パターンが確立されちゃっている。


「正直、小学校から連絡があった時には大袈裟だと感じたよ。随分と前の話だから、薄い傷跡だとばかり思っていたからね」


初対面の時に感じた風格が見る影もなく、困り顔の校長がてさぐりな対応を続けていたら、浅坂先生が前に出てきた。


「石神君、近くで見てもいい?」

「どうぞ」


左腕を差し出すと、浅坂先生がしゃがんで目線を下げてから確認が始まる。

傷跡は左腕の肘下前腕部だけだけど、ひと目に付く表側に大きく残っている。


「凸凹してる所があるね。この凹みは結構大きい」

「そこは噛み千切られた部分です。噛まれた時に犬を力づくで引き剥がそうとしてくれた人がいたんですけど、その時に(えぐ)れちゃったそうです。手術をしたお医者さんからは、腕がもうぐっちゃぐちゃで、何処をどう縫えばいいかも分からなくて、どうしようもない部分はお尻の皮膚を剥いで縫合し…」


「もういい石神! その話は止めよう!」


冷や汗ダラッダラになった奥野先生が大声で中断してきた。

柔道着が似合いそうなガッチリ体系なのに、こういう話は駄目らしい。


「えーっと、4ヶ月間入院って聞いたけど、手術が長引いたりしたの?」


焦った感じで浅坂先生が質問を変えてきた。

事細かに説明した方がいいと思ったけど、グロ表現はいらなかった様だ。


「長引いた原因はリハビリです。手術は無事に成功しましたけど、左手の指が殆ど動かなくなっちゃったんです。なので傷が塞がってからは毎日リハビリで、激痛で眠れない日もありましたけど、それは神経が繋がっている証拠だって言われたので、泣きながら我慢を……」


更に空気が重苦しくなっていく状況に気付いて言葉を切ったけど、手遅れだった。

火傷などで皮膚が駄目になった時、太ももやお尻の皮膚を使用するいう情報があったので採用しましたが、実際は古い情報で最近は人工皮膚だけかもしれません。

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