04話 完全包囲網
「校長、小清水です。石神を連れて来ました」
「はいりたまえ」
重みがある声の返事がされてから、校長室の扉が開かれる。
「失礼します」「しっ、失礼します」
職員室の奥にある校長室は、お客様用のソファーがあったり内装が綺麗だったりで、隙間なく机が並んでいる職員室とは雰囲気がまるで違う。そしてこの部屋の上座にあたる所に、立派な机と初老の男性が佇み、横には目の鋭い男性とジャージの男性、白衣の女性が待ち構えていた。そして僕を認識した途端、全員がこちらに近づき、小清水先生が一歩下がった事により、一瞬にして完全包囲の完成である。
とんでもない状況に追いやられてしまった。
校長室で先生に取り囲まれるって、どれだけの悪行をやらかしたら実現するのだろう。異空間に迷い込んじゃった気分だ。
「私が校長の若林だ。よく来たね、石神君」
「はっはいっ! お招き頂きまして誠にありがとうございます!」
校内で一番偉い人が挨拶をしてきたので、こちらは背筋を思いっきり伸ばしてから深々と礼をして、あとは直立不動の意地に専念である。
……………視線が痛い。
特に校長の横にいる目の鋭い人の表情が、非常によろしくない。睨みながら口元を微妙に歪ませ、値踏みしてくる様にじっーっと僕を舐め回してくる視線がもう怖くてたまらない。ゲスト待遇どころか、これから始まるおもてなしに不安しかないんですけど!
涙目でビビりながら平静をどうにか装っていたら、校長が溜息交じりにこちらを睨んでくる人を小突き始めた。
「おい教頭、君がそんな仏頂面だから新入生が怯えてしまったぞ。なんだね、その調教師が早く拷問をやらせろと訴えてくる極悪非道な顔は」
「校長、誤解を招く表現はやめて下さい。すまない石神君、どうも私は緊張すると怖い顔になってしまってね。説得力はないが、怒っていないから安心したまえ」
……その顔で言われましても。
「そもそも何で緊張してるんですか? ふつーに可愛い新入生ですよ。いい加減その緊張癖を直さないと、いつまでも生徒に怖がられますよ」
今度は白衣の女性が横槍を入れてきた。
ほんわかな雰囲気で、肩にかかるふんわりパーマに赤縁の細眼鏡がよく似合っている。他の先生とは違って親しみオーラがあるから、緊張という言葉で埋め尽くされたこの空間で有り難い存在だ。
「こういったデリケートな話は慣れなくてね。教頭の桜井です。宜しく」
「保健医の浅坂だよ。よろしくね」
この後にも、体育顧問でジャージの奥野先生にも挨拶をしてもらい、どうにかこの状況に慣れてきた。教頭は仏頂面のままだけど、……怒ってないんだよね?
「では早速だが、左腕を見せてもらおう」
「分かりました」
校長に言われて、上着をソファーに置いてからワイシャツの袖を捲し上げ、左腕の肌色カバーを外してから、左腕を前に差し出す。
あの時にタツ姉を助けようとして、2人とも傷ついてしまった傷跡だ。