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噛みキズナ  作者: 奈瀬朋樹
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41話 信頼とは砂の山みたいなもの

「……新入部員来ない、悪い噂も消えない、石神君から連絡もない。……どうせ私なんて」

「ワッター、三原ちゃんを暗黒面から救出するの手伝ってー」


明後日からGWで仮入部期間も終了間近なのに、私のせいで新入部員はおろか仮入部まで0人という有様です。全部私が悪いのです。


「てゆーかフルフェイス状態で机に横たわらないで! ヤバい実験に失敗して倒れた感じになってるから!」


そう指摘されて内田先輩に帽子とマスク、伊達メガネまで剥ぎ取られてしまった。今はきっと酷い顔だから見られたくないのに。


「もうずっとこんな感じだな。黙々と実験・落ち込むかの2択状態」

「最近はだ~れも見学に来なくなっちゃったからな~」


綿引部長も内田先輩もどうしてそんなに楽観的なのですか? このままでは廃部です。実験結果の考察とレポート作成をしている場合ではなく大ピンチなのです。


「ほんと八方塞がりだ。校内に石神の噂が蔓延中で、科学生物理部が原因って内容だからな。おまけにうちの部に来たらロリ幼女に襲われるって話まである。誰も来なくて当然だな」

「くっ、これがステマか」

「ステマの使い方が間違ってないか? ウッディが三原ごときの腹パンで倒れるのが悪い。あそこで事態収拾できなかったのが敗因だ」

「ワッタ酷い! 三原ちゃんの腹パンは凄いんだぞ! 息が止まって力が入らなくなる効果付きの一発OK破壊力だったんだぞ! 体験すれば分かるからワッタも腹パンされちゃいなよ!」

「嫌だよ。ウッディと違って悶絶する趣味はない」

「俺をハイレベルな変態みたいに扱うな。興奮しちゃうだろ!」


あうー、酷い言われ様です。だけど綿引部長の言う通りです。新入生から不信感を持たれて信頼がなくなってしまったから、どうしようもないのです。


信頼とは、砂の山みたいなものです。積み上げるには膨大な時間と労力が必要なのに、強風が吹けばすぐに消し飛んでしまう程に繊細で脆い。その中で根気よく積み続ければ山は大きくなり、重さで地盤も強固になっていきます。


だけど科学生物理部の信頼は、私の腹パンで消し飛びました。


今では強風が吹き荒れ続けているので、新しい山を作る事すら叶わない有様です。やっぱり私が諸悪の根源なのです。


「だけどこのまま新入部員0で秋になったら、三原ちゃん1人になっちゃうぞ」

「だが状況が悪すぎる。いっそ今は諦めて、文化祭で人員確保する方に賭けるか?」

「うーん、それもアリだけど、まだやれる事があるならやっとこうぜ。俺達が卒業した途端に廃部は御免だ。俺の火鉢も部の遺産として代々受け継いでもらわんと困る!」


内田先輩は一見適当に見えますけど、何だかんだと言いながら行動してくれる人で、今も意見を出してくれています。そして綿引部長が冷静に答えて、まとめていくのがうちのやり方です。因みに私はお飾りです。


「てゆーかワッタ、うちって幽霊部員入れても4人じゃん。このまま新入部員0はヤバいの? 最低部員数って5人だよね?」

「科学生物理部は歴史があるから多少の融通は利く。いざという時は合併させればいい」

「うおーい、どっかの部と強制合体かよ! 最近はロボ部がどんどん合体してるけど、うちもそうなっちゃうの?」

「アマチュア無線パソコンロボ部か? あそこは今年、結構入ったらしいぞ」

「マジか! 今度はロボ分離するの⁉」

「他所の事情はどうでもいい。だけどやっぱり1人でいいから新入部員を確保したいな。5人になれば廃部や合併を阻止できる」

「じゃあどうするよ? 今の悪いイメージを払拭すべく、部の改名でもしとく?」

「それは問題の根本が分かってないバカの浅知恵だ。改名ごときで解決すれば苦労はない。うちに残された道は、顔見知りを捕まえての直接交渉しかない」

「えー、後輩の知り合いなんていないぞ。ワッタは?」

「俺も心当たりはない」


やっぱり行き詰まってしまいました。

だけど内田先輩が私を見ながら、とんでもない提案をしてきました。


「てゆーか三原ちゃん。石神を勧誘してみたら? 連絡先聞いたんでしょ?」

「……ふえっ? ……どうして石神君?」

「ふつーに三原ちゃんと仲良くなってたし、本人も入部にノリ気っぽかったから」

「……ですけど、向こうから連絡がないので」


頼ってくれるって約束をしましたが、内心ではもう私とは関わりたくなくて、合わせてくれただけだったのかもしれない。石神君は優しいから、そういう気遣いもできてしまいそうです。


「その案は、多分手遅れだ」


 …………………………えっ、手遅れ?

 私が知らない間に、全部終わっちゃったの?


「石神はうちを見た後も部活見学を続けているらしい。目立つ奴だから俺のクラスで話題になってた」

「うわー、じゃあうちは入部候補から外されたか、或いはもうどっかに入部済みかもなー」


うううぅぅぅぅぅううう。


どうやら私の出る幕なんて最初からなかったみたいです。こんな先輩に頼られても迷惑なだけで、私の存在自体を忘れているのかもしれない。


ああ……、実験机が冷たくて気持ちいい。

頬っぺたに馴染みます。


「三原ちゃん、何かもう生きる屍になってるぞ! 女の子がそんな顔晒しちゃ駄目ですよ!」

「まだ万策尽きた訳じゃない。そう落ち込むな」


「……大丈夫です。……少し前まではいつも1人でしたので。……先輩達がご卒業なされてしまわれましても頑張っていける所存なのでご安心して下さいなのです」


「安心できるかっ! 喋りが完全に壊れてるぞ!」

「部員確保より、三原を立ち直らせる方が先だな」


先輩達が安心してくれません。

やっぱり駄目駄目です。

 


きっと私は、幸せを掴む事はできない。

私自身が諦めているからどうしようもない。

私が不幸になれば、その分誰か1人が幸せになるのかな?

その幸せを選べるとしたら、こんな私を気遣ってくれた人達に分け与えてほしい。

卒業した先輩達、内田先輩に綿引部長、そして石神君にも。

私の分まで、願う事しかしない私の分まで、みんな幸せになってほしいなぁ……。


そんな思いに浸っていると理科室の扉から「見学いいですか?」という声がして、体を起こしてみたら、私と同じ背丈の新入生が、また会いに来てくれました。

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