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噛みキズナ  作者: 奈瀬朋樹
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39話 無理はしていいけど無茶は駄目

「高村・石神、別に私は責めている訳じゃない。そう聞こえてしまったのなら謝る。どうやらお前達の事情は無断で立ち入れないようだ。だからこれ以上の追及は止めておこう」


先生という立場なら事情を確認しておきたかった筈なのに引き下がってくれた。小清水先生は寛容な精神まで備えているのか。完璧すぎる。


「あと高村、頻繁に来るのは駄目だが、偶になら来ていいぞ。校長や守衛には私から説明をしておく」

「ありがとうございます! だた1つお願いが」

「分かっている。石神とは幼馴染という情報だけを伝える。それでいいか?」

「はい! それでお願いします」


??? この配慮は必要なのか?

つまりタツ姉は〝幼馴染として僕が心配なだけ〟という口実にしたいって事だ。


「石神、お前達の事情を教師側が知ってしまうと特別扱いをしてしまう可能性がある。特別扱いは反感を生みやすい。それに一部の教師が正義感を振り回して事情を生徒に暴露してしまう危険もある。限度はあるが、世の中には隠した方が上手くいく場合もあるんだ」


そうか、ただでさえ僕は悪目立ちしているから、特別扱いまで受けたら普通でいられなくなる。だから小清水先生は悪い噂を知っても動かずに見守っていたのか。大人の対応だ。


「しかし高村、私は安心したぞ。お前は怖いくらいに携帯導入に力を入れて風紀向上にも励んでいた。我々教師が見習わなくてはいけない程に。だからこそその原動力が〝携帯を使いたい〟という理由だけとは思えなかったからな」

「ごめんなさい小清水先生、全部私の我が儘です。幻滅しましたか?」

「いいや、どんな理由があろうと高村が学校の風紀を改善させたのは事実だ。お前も、よく頑張ったな」


そんな励ましを貰うとタツ姉の動きが止まり、ゆっくりと涙が流れ出した。



「小清水先生……………、私っ、私のせいでコウ君が大怪我をして、傷が消えなくて、あの時は私が守らなくちゃいけなかったのにっ! だから、だから………っ」



溢れ出す感情が抑えられずにタツ姉の心が叫び出した所で、小清水先生が優しく抱きしめてきた。


「泣くな高村。それに石神の件は、私に相談しても良かったんだぞ」

「ごめんなさい。これは私の責任で、誰にも言えなくて、1人で頑張らなきゃって…」


こんなタツ姉を見たのは、手術後に目覚めた時以来だ。


僕とタツ姉には絆があるけど、そこにタツ姉の弱さは含まれていない。たとえそれがタツ姉の望みでも、僕はお互いに支え合って、認め合える関係になりたい。一方的に助けられ続けるのは格好悪いし、タツ姉が泣きたい時には今の小清水先生の様に、支えられる男になりたいから。


「とにかく今後、何かあれば連絡をしよう。生徒との連絡先交換は公私混同になるから遠慮してきたが、お前達なら大丈夫だろう」

「はいっ! もう私は卒業していますけど、これからも宜しくお願いします!」


タツ姉が涙を拭って深々と頭を下げた。

だけどこれからは先生を通じてタツ姉に連絡がされてしまうのか。気を付けよう。


「高村さん、私にも遠慮せずに相談してね」


「……………まだいたんですか浅坂先生、途中で席を外したと思っていましたよ」

「大人しく拘束されていたのに酷い! 高村さんの説明中も感動的だった場面でもきっちり私を抑えつけていたのは誰の腕だと思ってたんですか!」


僕も途中まで気になってはいたけど、どんどんシリアスになっていく会話の中で、すぐ横で拘束されている浅坂先生の絵は演出と合わないので目を逸らしてしまったのだ。ほんとごめんなさい。そんな浅坂先生がやっと解放されて、体を起こしてくる。


「手加減しましたけど、関節は痛くないですか?」

「大丈夫です。心配なら拘束しないで下さいよ」


険悪な様子もなく、いつも通りって感じなやり取りをしている。これも信頼関係の1つかもしれないけど、参考にするのはやめておこう。変な世界が垣間見えそうで怖い。


「浅坂先生、すみませんがこの件は黙秘でお願いします」

「分かっています。そもそもこの事情を高村さん達は知られたくないんでしょう? それを良かれと思って言いふらず馬鹿な真似はしませんよ」


そう言ってから、のほほんとしていた浅坂先生の表情が引き締まった。


「だけど2人ともこれだけは覚えておいて。大人を頼るのは駄目じゃないからね。もちろん自分達で解決する方がいいし子供には子供のルールがある。私が子供の時もそうだった。だけど大人になってからそういう場面を見ると、その拘りや意地に意味はあるのかなって感じちゃったりするんだ。だから無理はしていいけど無茶は駄目だからね」


短い忠告が終わってから、のほほんとした表情に戻ってしまった。

浅坂先生なりに思う所があったらしい。


「どうです小清水先生、私だって教師っぽい台詞が言えるんですよー」

「そうですね、今の一言で台無しですけどね」

「堅苦しいのは苦手だから私はこれでいいんです。それに真面目過ぎると人が寄ってこなくなりますからね。笑顔でいれば、大体上手くいっちゃうんですよー」


言葉通りに浅坂先生が笑顔を見せたところで、この長い話がようやくお開きとなった。



先生達との連絡先交換をしてからタツ姉は着替える為に生徒会室に向かい、それまで大人しく待つのも退屈だったのでタツ姉がどんな生徒会長だったのかを先生達に聞いてみたら、予想以上の逸話が出てきてしまった。なんでも携帯導入の反対勢力を小清水先生と組んでPTA諸共全て捻じ伏せて結果を勝ち取り、その剛腕っぷりに生徒達からカリスマ的存在で扱われる様になり、校長までもがタツ姉と小清水先生に従う様になったらしい。僕が校長室で傷跡を披露した時、やたらと小清水先生が仕切っているなーとは思ったけど、そんな前科があったのか。他にも地域交流イベントの開催、不評な学校行事の撤廃、イジメ撲滅など、やりたい放題で活躍しまくったらしい。そんな武勇伝で一番驚かされたのが、保健室のすぐ横が花祭さんと相談をした庭園だったという事を知るのと同時に、


「この庭園を造ったのも高村さんだよ」


という告白をされてしまった事だ。

更地状態だったこの場所に『生徒の心に潤いを』と言いだして、ガーデニング知識がある浅坂先生が手伝いながら生徒会と茶華道部がこの庭園を作り上げたそうだ。タツ姉に不可能という文字はないのか?今ならこの中学校の創設者がタツ姉だって言われても信じてしまいそうだ。


「うふふ、じゃあ次はお待ちかねの生徒会長様の超モテモテ秘話の数々をー」


と宣告されるのと同時に着替え終えたタツ姉が戻ってきて、笑顔のまま僕を後ろからホールドしての強制下校となりました。浅坂先生から「また来てね~」と見送られながら。

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