03話 小清水先生
「小清水先生、石神晃太です。連絡通り来ました」
「よく来た石神。すまないな、入学初日に呼び出したりして」
畏まって挨拶をすると、我が1年C組のクラス担任になった小清水先生が、書類チェックの手を止めて丁重に迎えてくれた。
整った顔立ちに長いロングヘアを後ろに束ねていて、バリバリ仕事をこなすキャリアウーマンという言葉がよく似合う風貌をしている。さっきのHRでも、簡潔で分かり易い説明、似合い過ぎているスーツ、無駄のない立ち振る舞いで、デキる先生という評価をクラス全員から即行でもぎ取ってきた程である。
「いえ、こちらも助かりました。今後どうすればいいか悩んでいたので」
「そう言ってもらえると助かる。この件は君の小学校からの言伝でもあるからな」
「そうなんですか?」
「ああ、連絡が貰えたから我々は早期に事情把握ができた。担任が私に決まった際に改めて小学校に電話を入れた時には熱弁されてしまったよ。君は遠慮がちで内向的だが、気遣いができる優しい子だそうだ」
「ええっと、……恐縮です」
舞台裏で綿密なやり取りが展開されていたらしい。
入学前に中学校から電話がきたのも納得だ。
だけどこれって小学校の問題児を引き取る構図と同じじゃないだろうか? あと僕の説明ももう少し頑張ってほしかった。冷静とか忍耐強いとか落ち着いているとか……………、全部暗いな。外見もチビの一言で片付いちゃうし、反論の余地はないらしい。
「どうした? 難しい顔をしているぞ」
「いえ、何でもないです。それより傷跡の確認ですよね? 見ますか?」
ここは職員室だから周りへの注意は不要だ。
だけど左腕の裾を捲った所で、小清水先生が平手でストップのサインを出してくる。
「その件だが、校長室で確認をさせてほしい」
「えっ、校長先生に見せるんですか⁉」
「是非確認したいそうだ。他にも体育と保健の先生も同伴させたいのだが、構わないか?」
「はっはい! 分かりました!」
先程の入学式とは比べものにならない緊張を強いられる事になってしまった。校長って、さっき僕ら新入生を見下ろしながら長話してた人じゃん! 偉い人への挨拶には手土産が必要って聞いたけど、手ぶらで大丈夫かな?
「緊張する必要はない。この件では私達が君を呼んでいる。つまり君がゲストでおもてなしをされる側だ」
フォローしてもらえたけど、注意をするのが先生の仕事だ。楽にしていいよーって言葉で油断させてから、時間差で説教というハメ技がある。そもそも校長に失礼な態度をとったら絶対に怒られちゃうからね。
「その、これってそんなに大事ですか?」
つい出てしまった呟きに、小清水先生が苦笑を漏らしてくる。
「学校はこういう事には気を遣ってしまうんだよ。特に最初はね。因みにここで強く拒否された場合、校長達への確認は見送っていた。本人を無視して物事を進めれば拗れてしまう場合もあるからな」
学校は学校で色々大変らしい。
改めて同意確認をしてから校長室へ移動となった。