30話 のっぴきならない関係
「花祭さん、何でいるの?」
「偶然通り掛かって、偶然このベンチ裏でお弁当食べて、偶然話が聞こえただけだよ!」
「それって僕達の後をつけて、影でこっそり話を聞いていただよね?」
「じゃあそれでいいよ!」
ええー、何で僕が怒られる側なの? 日下部なんて状況が分からないせいで固まっていた。おにぎり咥えた状態で。そんな謎の襲来に2人して固まっていると、花祭さんがゆっくりと目の前に移動してきて、ベンチに座っている僕を見下ろしてからグイッと顔を寄せてくる。やっぱり顔が近い。
「それより石神君! な・ん・で、携帯番号を教えてくれないのさ⁉」
「あれ? 携帯を買ったの教えた?」
「教室で日下部と番号交換してたじゃん! 教えてくれるのを待ってみたらこの有様だよ!」
うわー、日下部とはすぐに番号交換をしたから、2週間以上も待たせていたらしい。
「ごめんなさい。別に避けていた訳じゃないので。これが携帯です」
おずおずと携帯を差した途端、バッと強奪されて自分の携帯と見比べながら黙々と両手で操作を始めてしまった。
「おふぃ石神、花祭と知りふぁいなん?」
「おにぎり食べてから喋りなよ。入学式後にちょっと話す機会があって、それで因縁浅からぬ仲に……、いや、のっぴきならない関係の方が……」
「ふつーに友達だよ! はい携帯! 番号とかラインとか全部登録しといたから!」
「ありがとうございます」
僕にとって〝携帯=タツ姉と話す〟になっている。日下部や両親とも連絡はしているけど、比率にしたら1対9でほぼタツ姉で、花祭さんの参戦でタツ姉比率が2対8くらいに下がるかもしれない。
「あと! どうして話が日下部君の恋愛相談になっちゃうのさ!?」
「いや、日下部と話している最中に話題が変わるのはよくある事で」
「マジか! そうだったの⁉」
「自覚なかったの? なら気を付けた方がいいよ」
「分かった! 今から急に話題変わったらチョップしていいから。頼むな!」
「いいよ、任されガッ!」「ゴフッ!」
忠告通り花祭さんが僕らの頭にチョップを振り下ろしてきた。満面の笑顔で。
マズい、怒っていらっしゃる。
すぐに2人で謝ってから花祭さんを含めた3人で昼食&相談になりました。リーダーはもちろん花祭さんで。なので、呼び捨てでいいですって言っておきました。
「教室の石神を見てたけど、キャラが分からないのが駄目だと思うの」
「さっき日下部が言っていた猫かぶりって所ですか? 花祭さん」
「そうだよ! 地味、おとなしい、同級生に敬語、こんなんじゃ馴染めないよ! 今も呼び捨てOKにしたのに〝花祭さん〟のままだし。ちゃんとハナハルって呼びなさい!」
「分かりました。ハナハル……ね」
慣れない。
〝女の子にさん付けしない=親密〟ってイメージだから落ち着かない。
だけど従うしかない。反発しても拗れるだけだ。そもそもこの呼び捨てに深い意味はない筈だ。誰とでも仲良しで、男子との距離感が近い女の子なら小学校にもいた。だから変な勘違いをしない様に気を付けよう。
この件はタツ姉から強く強く強く念押しをされている。女の子は計算高い、理由もなく親しくなろうとしない、特別扱いを望む傾向がある、コウ君には私という最高のお姉ちゃんがいるから大丈夫!という熱弁指導を受講済みだ。そしてもし女の子関係で何かあったら、必ず報告&相談する様にと命令されている。僕に拒否権はないらしい。
〝女の子の接し方・応用編〟も未だに続いていて、今はやる気を出して質問もバンバンしているのに、もう合格の気配すらなくなっている。花祭さんに続いて三原先輩でも上手く対応できなくて、流石にこれはマズいと思ったから頑張っているだけなのに、タツ姉の採点は機嫌と共に悪くなる一方だ。
今度、応用編を教わる頻度を減らしたいって言ってみよう。今は花祭さんの相談を優先したいし、このままタツ姉とギスギスが続くのはよろしくない。
「とにかく、私はこういう人間です。これが好き・これが得意ってサインをクラス内で出していこうよ。日下部と話すノリで大丈夫だから」
「でも日下部は事情を知っているから安心して話せる訳で」
「周りはそんな事情知りません! このままじゃ女子からの評価だって保留のままだよ!」
「評価って何?」
「あっ……………、まぁ、言ってもいいか」
しまったという表情を浮かべてから、答えてくれた。