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噛みキズナ  作者: 奈瀬朋樹
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02話 旧友との再会

味気ない朝食を終えて、今日からお世話になる中学校に初登校をしたら、午前中に入学式を含めた全ての行事があっという間に終わってしまった。過度な緊張で時間経過が早く感じる時があるけど、今回はそれに拍車が掛かったらしい。その中で印象深かったのが、入学式に向かう途中の廊下に飾られていた一面のお花畑だ。


「これでもか!」って叫びが聞こえそうなレベルで左右の壁と天井に装飾花がびっちりと埋め尽くされていて、華やかな光景が新入生を歓迎してくれたのである。そしてお花畑の中にある看板に書かれた〝入学おめでとう〟の大きな文字が、新入生全員の気持ちを高ぶらせてくれたのである。

肝心の入学式は、地味だったけどね。


「石神ー、一緒に帰ろうぜー」

「ごめん無理、用事がある」


声を掛けてきたのは小4の時にクラスメイトだった日下部(くさかべ)で、楽観的で適当な所もあるけど、気軽に話せる雰囲気を持っている奴だ。5・6年は違うクラスだったけど、久々に顔を合わせたらすぐに意気投合できたのである。


「えー、何でだよ。小学校の友達が全滅だったから、俺にはお前しかいないんだぞー」

「それなら新しい友達作ろうよ。それに僕も全滅だったから」


この中学校には3つの小学校の卒業生が入学してくるけど、僕達が卒業した小学校の半分以上が隣の中学校に行ってしまったのだ。なので旧友とクラスメイトになれただけでも、幸運だったのかもしれない。


「お前もかー、ってまさか俺を放置して、他クラスの友達と合流か!」

「そんな意地悪しないよ。それは薄情過ぎ」


あらぬ誤解を解く為に、左腕を前に差し出す。


「今から行くのは職員室だよ。先生が僕の左腕を確認しておきたいんだって。体育や夏服でどうするかって話だと思う」


同じ小学校なら大体が僕の事情を知っているし、それに日下部には小4の時に傷跡を公開済みだ。「うっわ、何これ大丈夫⁉」って連呼されまくったけどね。


「あーそっかー、ならしゃーないなー。……てゆーか、まだ残ってんの?」


帰りのHRが終わったばかりで雑談中のクラスメイトがそこそこ残っているから、2人で縮こまってからのヒソヒソ話で会話が再開される。


「随分マシにはなったけど、初見の人はビックリさせちゃうと思う」

「じゃあ、ずっと隠し通すの?」

「……いや、無理だよ」


暫くは長袖ワイシャツ・体育もジャージで誤魔化せるけど、1年中その格好を続けるのは厳しいし、夏に水泳の授業がある時点でアウトだ。


「むしろ、どうやって周知するかが問題だよ」


無理に隠し続ければ周りから変に思われるし、下手な説明をしても騒がれてしまう。要するに、どう転んでも面倒臭くなるという有様なのだ。


「さっき1人ずつやらされたクラスの自己紹介で、言えば良かったじゃん」

「いや、ドン引きされて終了だよ」


いきなりそんな暴露をしても、周りは反応に困るだけだ。


「てゆーか、もう3年前の話だろ。忘れてる奴が殆どじゃね?」

「けど、臨時朝礼とか色々あったんでしょ? 僕は病院で寝てたから詳しく知らないけど」

「あーあったあった。マジでヤバい野良犬がいるって先生がすっげー力説してた。その犬が捕まるまで強制集団登下校で、グラウンドで遊ぶのも禁止だった」

「それだよ。周りの小学校も似たような対策したらしいよ」


だからこそ被害者が僕だと知られた場合、他校からの生徒に騒がれる可能性が高いので、準備をしておきたい。これは僕にとって、逃れられない宿命みたいなものだ。


「そんな訳で事情聴取をされに行くよ。明日、職員室がどんな所だったか教えるね」

「おっけー、こっちも変な噂がでてたら教えっからー」


軽いノリで答えてくれたけど、こういう適当な感じで付き合いやすいのが日下部だ。身長は随分差がついちゃったけど、バッサバサな髪と性格は全然変わってない。


「ありがとう、じゃあ行ってくる」

「おうよ、って机にカバン忘れちゃってるぞ」

「いや、職員室は荷物の持ち込み禁止って書いてあったから」


面倒だけど、ルールなら仕方がない。

そうして久々の再会を果たした友人と別れて、職員室に向かった。

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