19話 不審者のイカ解剖
「以上が科学生物理部の活動内容だ。質問のある人はいますか?」
放課後になり、日下部と別れてから理科室へ向かい10人くらいの見学者と一緒に綿引部長からの説明を聞き終えた所だ。
「質問がないので今から部活見学を開始する。室内に3つの実験コーナーを用意したので興味があるものから好きに見るように」
この合図で綿引部長を含めた先輩3人が配置に付く。部員は全部で4人だけど、1人が他の部と兼任で実質3人で活動しているらしい。そうして各コーナーで実験披露となったのだが、大半の見学者が一ヶ所に集まっていった。
「これシャボン玉の中に入れるアレじゃん⁉」
「テレビで見た事ある!」
「やっていいですか? 写真いいですか?」
フラフープと同サイズの巨大な金魚すくいをブンブン振り回す先輩がいる〝シャボン玉の中の世界〟に人が群がっていて、その横では〝鉱石・化石の世界〟があり、結晶の付いた鉱石や化石の複製に2人の見学者が興味津々に眺めている。
どっちも興味深い展示だけど、僕は残りの〝生物の世界〟に行ってみる事にした。出遅れたって理由もあるけどココだけ人が居ないし、空いている場所から見るのだってアリだ。だけど目の前にはバンダナキャップ・マスク・大きな黒縁メガネをかけ、胴体はエプロンと透明のビニール手袋を装着した先輩が待ち構えていた。
「………………………………………」
「………………………………………」
なんか、超気まずいんですけど。スカートが見えるから女の子で僕と同じくらいの低い身長って事までは分かったけど、顔が完全武装だから表情が全く見えない。首から上は手術前の医者って外見だけど下がピンクのエプロンだからシュール過ぎる。
「あの、先輩?」
「……イカ」
沈黙に耐えられずに声を掛けてみたらまな板が出てきて、ぐったりとしたイカがのっかっている。
「……イカの解剖を行わせていただきます。……グロと生臭さは大丈夫?」
「えっ? あー大丈夫です。お願いします」
「……了解です。……解剖は生物の構造を観察するだけでなく、他の生き物と比較して何処が違うかを気にしながら見て下さい」
解剖用のハサミで腹部から先端を切られて、イカの内臓が露わになる。
「……内臓中央にある細長い管が〝墨汁嚢〟イカ墨の袋。……墨は両目の間にある〝ろうと〟という穴から出ます。……この穴は、水を噴射して水中を移動したり、糞を出したりします」
低い声で淡々と説明しながら、手際よくイカがバラされていく。グロい。
「……今からスポイトで〝ろうと〟から醤油を注入します。……各部位にどういう順序で液体が伝わっていくかを見て下さい。……ココが胃で、ココが腸」
サラッと説明をされてから、各部位がじわじわと黒く染まっていく。やっぱりグロい。
「……イカはヒレの形で種類が判別できます。……これは先端が細いからヤリイカ。……普段食べるこの胴体場所は〝外套膜〟が正式名称」
豆知識が披露されながらイカの眼球が抉られ、透明で綺麗な玉が出てきた。超グロい。この後も解剖と解説が怒涛の早業で展開されていき、圧倒されながらもその光景に見入っている自分がいた。