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噛みキズナ  作者: 奈瀬朋樹
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18話 各家庭のお弁当事情

「石神は部活どうするん?」

「僕は文化部から探す予定だよ。日下部は?」

「バスケ一択! もっと上手くなって大会に出たい!」


入学から数日が経過した週末の昼休み、朝礼で配られた部活一覧表を見ながら日下部と教室でお弁当を食べている所だ。


因みにこれまで僕の傷跡については、騒動どころか質問すらなかった。当時はかなり騒がれたけど3年前の出来事でもある訳で、杞憂だったのかもしれない。ずっと気を張っていただけに拍子抜けだ。


唯一傷跡について聞いてきた花祭さんとも、今ではもう挨拶しかしていない。仲が悪くなった訳じゃないけど、翌日に「昨日はごめん! タツ姉さんとは大丈夫だった?」と大声で駆け寄られて、花祭さんと一緒にいた女子グループまで来ちゃったからもう焦りまくりだ。


本人もやらかした事に気付いて2人であたふたとしていたら「あーはいはい、どうせハナハルがまたアホな暴走したでしょ? 気にしないでね~」って台詞の後「あう~」と唸り続ける花祭さんを女子達が回収していったのだ。どうやら小学校でも、絶賛暴走中だったらしい。そんな経緯で教室では距離を取ろうって感じになったのだ。


クラス内でも、とりあえずは上手く立ち回れていると思う。


新しい環境で上手くやっていくうえで〝積極的に話し掛ける・常に笑顔〟って意見があるけど、無理なキャラ作りで仲良くなっても、作ったキャラを守り続けなければならない制約を背負い込んで後々辛くなる可能性もある。だから何もしないのは駄目だけど、張り切り過ぎるのも良くない。そもそもクラスメイトとは何があっても1年間を狭い空間で共に過ごす付き合いになる訳だから、焦らずに周りと馴染む所から始めるのだって間違いじゃない。


だから僕は〝挨拶〟〝短い会話〟〝自分と相手の名前を言う〟の3つを念頭において行動している。挨拶という反応を嫌がる人はいないし、会話も適当な話題をふって相手の反応が良ければ続けるくらいが妥当だ。そして名前を呼び合えばお互いを認識できるし、更にこの対応を毎日続ければ知り合いになれるのと同時に、距離感が分かる様になるのだ。


自分との相性・距離感は1人1人で全く違う。それは見た目・立ち振る舞い・考え方・価値観・趣味など様々な要因で判断されるけど、会話を重ねていけばぼんやりと分かってくる。今はみんな周りを観察したり同じ小学校だった人と固まっていたりな様子見期間だけど、それも終わる頃合いだ。僕と日下部の印象は悪くない筈だし、今後も上手くやっていけるだろう。


因みにこれらは全部タツ姉に伝授された知識だ。


僕の性格と背が低くて同級生からも格下に見られてしまう事情も考慮した上で導き出された最善の一手らしい。こんな全力全開な助言を貰ってしまった以上、僕も全力でやるしかない。頑張れ!の一言で済ませた母さんとは雲泥の差だ。


そんな立ち回りを小学校とは全然違う授業内容に翻弄される中で続けて、今度は部活という新たなイベントが始まった所なのである。


「日下部のバスケ好きは変わってないんだな。他の運動には興味ないの?」

「ないない、それに本命があるのに他を見たって時間の無駄じゃん」


真っ直ぐだなー、僕にはできない考え方だ。


「そっか。じゃあ僕は文化部を回ってみるよ」


仮入部期間は4月中旬の今日からGW明けまでになっているけど、5月には中間テストがあるから、早めに決めたい。なのでお箸を一旦置いて部活一覧表に見学候補先を記入する事にした。


「えーっと、美術部は○、家庭科部は△、吹奏楽部は…」


とりあえず、運動系と女の子が多そうな部は遠慮しておこう。女の子ばっかりな空間は難易度が高いし、タツ姉からも「コウ君にはまだ早い」って念押しをされているから是非もない。


「俺はバスケ部しか見てないけど、変な部活あったりする? 釣り部とか」

「釣り部? ……………一覧にはないね。そもそも釣り部って存在するの?」

「だよなー、昨日親父に部活話したら『父さんは釣り部で魚をバンバン釣ってたぞ』とか言われて、そんな部活ねぇよって反論したら『何でだ、普通あるだろ!』とか言ってきたし」


「えっと、地方あるある?」

「かもなー、親父は静岡出身だし、おでん大好きだし」

「いやいやおでん関係ないでしょ。おでん普通に美味しいじゃん」

「確かにおでんは超美味いよなー、……やっべ超おでん食いたくなってきた」


話題が一瞬でおでんになっちゃったよ。

ほんと日下部との会話はコロコロ話題が変わるなぁ。


「じゃあ僕のオニギリどうぞ。おでんっぽい具かもしれないよ」

「マジか! じゃあ俺の弁当からも何か取ってくれ」


僕らにとっておかず交換は恒例になっている。背が伸びる栄養満点なお弁当を希望したら、我が母はあろうことか質より量を選択してきたので僕のお弁当箱はデカい上にオニギリ2個が別に付いている。


だけどこれ、縦じゃなく横に成長しそうで怖いんですけど。そんなお弁当を見た日下部がオニギリとおかずの交換を提案してきたのだ。日下部のおかずは全部手作りで美味しいから主婦力の高さを感じずにはいられない。


「おおっ、今日の中身はミートボールか。おでんっぽい!」

「僕の母さんなら、オニギリに竹輪が潜んでいても不思議じゃないからね」


対するこちらの主婦力は残念の一言である。野菜はミニトマトやレタス等、パッと入れられる物だけで主食もウインナーや卵焼き・夕食の残りがギッシリ詰まっていてレパートリーまで少ないという有様だ。この圧倒的戦力差は何なのだろう。


「だけど石神の弁当って面白いよな。一昨日のオニギリは具が沢庵だったじゃん。あのカリッと食感は意表突かれたなー。昨日はバナナ1本がまるっと弁当箱に入ってたし」

「それはもう忘れて。おかげでお弁当箱を開けるのが毎日ドキドキだよ」

「それめっちゃ面白いじゃん。羨ましい」

「全然嬉しくないし変な所に惹かれるなよ。こっちは『沢庵とオニギリはセットだから中に入れちゃうのもアリでしょ』って台詞をドヤ顔で言っちゃう母親なんだからね」


バナナも「ちょっとスペースが空いていたので」という理由で混入されただけだ。毎日お弁当の感想じゃなく改善要請をする身にもなってほしい。


「でも楽しさって重要じゃん。そんで変な部あった?」

「急に話が戻ったな。ちょっと待って」


日下部のおかず(カボチャの甘煮)を貰ってから部活一覧のチェックを再開させる。


「文芸部は△、演劇部も△、〝科学生(かがくせい)物理部(ぶつりぶ)〟は……、ってなにこれ?」

「色々合体してるな」

「えっと、主に実験をする部活で分野は科学・生物・物理と幅広く実施しています。実験や調べるのが好きな人は是非来て下さいって書いてある」


何かを調べるのは好きだし、女の子も少なさそうだから実験系の部活が本命だったけど、合体しているとは思わなかった。


「きっと世知辛いお家事情で合体したんじゃね? ニュースでも合併とかM&Aとかよく見るじゃん。この茶華道部・囲碁将棋部も合体済みだし」

「いや、それは元からなのでは?」

「おおっ、すっげ! 〝アマチュア無線パソコンロボ部〟ってのがあるぞ! 超強そう!」

「合体し過ぎだよ。現在2人ってあるし、肝心の部員が活動についていけてないじゃん」

「ここに入部しちゃいなよ! ロボになれるぞ!」

「えー、名前の時点でカオス臭が垂れ流し状態だし、ちょっとなぁ」


食わず嫌いは良くないけど限度もある訳で、そもそも携帯電話が普及済みのご時世で無線って必要なの?


「直感と勢いが必要な場面だってあるだろ? 今でしょ⁉」

「違う、今じゃない。これは衝動買いして後悔するパターンだよ」


我が家の片隅に放置されているバランスボールがいい例だ。


「うぇー、石神って結構シビアというか、毒舌だよなー」

「ごめんごめん。ツッコミが苦手なだけだから」


僕は深く考え過ぎて理屈っぽくなる時がある。嫌味な言い方にならない様に注意しているけど、もっと自重しないと駄目だな。


「いやいや、むしろツッコミ上手いって。冷静かつ確実に相手の急所を突いてクリティカルヒットしてくる感じだから」

「それ、空気読めないキャラだよね?」

「それはねーよ。石神はすっげー周りに気ぃ使ってるじゃん。背が伸びたらモテるかもなー」

「そういう日下部は、見かけない間に随分伸びたよね」

「お前が伸びなさ過ぎなんだよ。この唐揚げもやるから、さっさとデカくなれよー」


くっ、日下部の唐揚げは冷めているのにサクッと食感で美味しい。

冷凍食品の唐揚げに完敗している僕の母さんとは大違いだ。


「ありがとう。日下部はモテそうで羨ましいよ。バスケ部で活躍すれば確定だね」

「マジか! じゃあバスケすんげー頑張る! 超頑張ろう!」


日下部ならバスケで活躍しなくても天然でモテそうだけど、黙っておこう。

とにかく僕も、部活を頑張ってみよう。

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