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噛みキズナ  作者: 奈瀬朋樹
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16話 お姉ちゃん力

「コウ君、もう一度聞くよ。あの女の子は、どちら様だったのかな?」

「……同じクラスの、花祭(はなまつり)(はる)()さんです」


HRの自己紹介でそう名乗っていたから、フルネームはこれで間違いないはず。


「そっかー、花祭晴夏かー、可愛い子だったね」

「そう、かな?」

「くせ毛のショートヘアに左側に緩く結ったお団子、健康的でスレンダーな外見、そしてコウ君と別れる時の照れた顔は特に可愛かったよー。さっきまで一体何を話していたのかな? 頬を掴まれて見つめ合っていた時とかー、仲睦まじく手足を絡めていた時とかー」


何これっ、空気重っ!

超笑顔で声も柔らかいのに脳内の警報が鳴り止まないんですけど!


「いや、雑談をしていただけです。職員室で傷跡の説明をして、教室に戻ったら花祭さんがいて、一緒に帰ろうって流れになっただけです」


教室であった事は誰にも言わないって約束がある訳で、いくらタツ姉でもそこは譲れない。そもそも腕を舐められたとか言いたくない。


「……………ふーん、それだけ?」

「うん。別に何かがあった訳でもないし」


タツ姉に隠し事なんて初めてかもしれない。そのせいでモヤモヤするというか、いたたまれない気分になってしまう。こういう時、息を吐くように嘘がつける奴が羨ましい。だけどそうなりたくもないなぁ。そう思っていたらタツ姉が握っていた手を離してくれた…………けど、後ろに回り込んでから両腕を僕の 首に巻き付ける様にハグをしてから口を耳元に近づけて、


「そっかー、言えない何かがあったのかー。お姉ちゃんに隠し事なんて、コウ君も大人になったんだねー。しかも女の子絡みの隠し事かー」


ばっちり見破られて状況が悪化しちゃったよ! あとこれハグじゃなくて拘束だった! 前に「コウ君は嘘が下手だから気を付けてね」って言われたけど、これって僕の自爆なの? ほんと嘘って難しいな!


「無理に話さなくていいよ。誰にだって隠し事はあるし、無理強いは良くないからね」


耳元で囁かれる優しい声が怖いです!

どうにかしないと!


「そういえばタツ姉も今日が高校入学だよね。おめでとう。制服も似合ってるよ」

「そう? ありがとうコウ君」

「それにわざわざ迎えに来てくれたんだよね。ありがとう」

「ちょっと帰りが遅くて心配だっただけだよ。気にしなくていいからね」


よしっ、このまま花祭さんと関係ない話を続けて帰宅しよう。

タツ姉の笑顔も緩んだ気がするし、きっとだ


「うんうん。女の子と気まずくなったら相手を褒めたりして雰囲気を良くする事に努める。お姉ちゃんが教えた事をちゃーんと実践して偉いよ、コ・ウ・君」



ほわああああぁぁぁぁああああ!



「どうしたのコウ君? 顔が青いよ? あと今の褒め方はちょっとワザとらしかったから、後で〝女の子の接し方・応用編〟を教えてあげるからね」

「……はい、分かりました」


やっぱり、タツ姉には敵わない。

別に勝ちたい訳じゃないけど、このままじゃ男として情けなさ過ぎる。


「うーん、意地悪しすぎちゃったかな。ごめんねコウ君。じゃあ少し質問するから、答えてくれたらもうこの話題はしないよ。黙秘でもいいから」

「……本当に?」

「お姉ちゃんは嘘つきません。確か花祭さんだったよね。会ったのは今日が初めて?」

「うん。本人もそう言ってた」


嘘を付く気はないけど教室であった事も言えない。注意して答えないと。


「なるほど、じゃあ印象はどうだった? 慎重とか気まぐれとか」

「えーっと、猪突猛進で危なっかしいって感じかな。だけど優しい所もあったよ」


あれだけ無茶苦茶だったのに花祭さんには悪いイメージがない。

友達にもなったらしいし、できれば今後も仲良くしていきたい。


「うん、大体分かった。お姉ちゃんからの質問はこれで終了」

「えっ、これだけ?」


ハグが解かれたから本当に終わりらしい。

根掘り葉掘り聞かれると思って警戒していただけに拍子抜けだ。


「うふふ、私のお姉ちゃん力にかかればこれで十分だよ。お姉ちゃん歴も長いからね」


さらっと笑顔で言われたけど、これはタツ姉に隠し事をしても無駄って意味なのでは? だけど秘密は言ってない筈だし、ここは大人しく引き下がろう。追求しても自滅するだけだ。


「ならいいけど。……あと〝お姉ちゃん力〟って何?」

「それは弟をどれだけ理解・大切にしているか、そしてどれだけ慕われているかを数値化して導き出されるエネルギーの名称だよ」

「無駄に説得力のある解説しないでよ。それにお姉ちゃん歴だって普通の姉弟より短いよね? ……5年くらい? 僕が小2の頃からだから」


タツ姉が小5の時から僕と遊ぶようになった訳で、同年代の姉弟と比べればタツ姉のお姉ちゃんキャリアは半分以下になる。


「違うよコウ君、お姉ちゃん歴は姉弟の意思疎通が重要になる小2からカウントが開始されるの。それにお姉ちゃん力が規定値以下になるとカウント無効にされるけど、私とコウ君は1秒たりとも無効になってないから、私達は世界で最高水準の姉弟なんだよ」

「えー、何それ怖い」


どう考えてもタツ姉が発案者で設定もご都合主義だった。だけど仲がいいのは本当だ。そもそもお互いの両親が仲良しだから家族ぐるみの付き合いになっていて、タツ姉が石神家にいる場面は結構多い。僕の母さんも本当の姉みたいに扱っていて、そんな関係だからこそずっと仲がいいのかもしれない。


「うふふ、お姉ちゃんの凄さに納得した?」

「うん、タツ姉が凄いのは知ってる」


ツッコミ所は色々あるけど、僕にとってタツ姉はタツ姉た。他所の姉弟事情は知らないけど、きっとこんな感じだろう。


「ところでコウ君、初めての中学校はどうだった? 聞きたい事はある?」

「えーっと……。そういえば携帯電話って、本当に使っていいの?」

「そうだよ。お姉ちゃんが中2になる前辺りから使える様になったのよ」


入学式後のHRで先生から中学校生活のルール説明があり、その中に携帯電話の使い方が含まれていた。花祭さんに至っては既に携帯を持っていたからなぁ。


「因みにコウ君は、携帯欲しい?」

「うーん、若者のスマホ依存は危険らしいからまだいい。母さんの許可も必要だし」

「コウ君、茜さんの許可なら私が貰ったよ。スマホ依存もルールを守って正しく使えば大丈夫だから。今日、携帯の使用ルールが記載されたプリントを貰ってない?」

「うん、貰った」


マナーモード厳守、イヤホン禁止、授業中に使用したら没収して昼休みか放課後に返却、家でも夜9時以降は使用を控えるが大まかなルールだ。夜9時以降の使用制限は、友達同士の会話が終わらずに夜更かしをする子が続出した為に作られた追加ルールらしい。


「これを守れば問題ないし、お姉ちゃんも教えてあげるから」

「でも、お金かかるし」

「それも大丈夫、お手頃な料金プランもあるよ」


なんか、いつにもまして強引だな。

笑顔で迫られているし、これは拒否しても駄目なパターンだ。


「わ、分かった。じゃあ帰ったら家のパソコンで調べてみる」

「うん、お姉ちゃんも手伝う。私の部屋にあるパンフレットも持ってくるね」


そう言ってからタツ姉が僕の手をギュッと握ってからズンズンと突き進み、忙しない帰路になりました。

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