10話 深呼吸
花祭さんの反応は、よく分からないものだった。最初はビックリ顔で奇異の視線が向けられたけど、すぐに落ち着いて慈しむような視線に変わってしまったのだ。こんな反応は、親を除けば2人目だ。
……………静かだ。
じーっと花祭さんが傷跡を見つめていて、その沈黙に引っ張られて動けない。だから今のうちに落ち着いておこう。こっちは不安や興味がごちゃ混ぜになっていて、感情の整理が終わっていない。
気付かれない様にして、ゆっくり、深く深呼吸。
これを繰り返す度に緊張が解れていく。どうにか落ち着けたかなーって感じ始めた所で、見ているだけだった花祭さんの手が、ゆっくりと僕の傷跡に近づいてきた。
深呼吸、緊張する前に思考を停止させる。
深呼吸、傷跡に触れられた。
深呼吸、傷跡を撫でてきた。優しく、ゆっくりとした手つきで。
固唾を呑んで見守ったけど、これ以上の進展はなく傷跡だけを見ながらただ只管に両手で撫で続けている。僕の傷跡じゃない、何かを見ている様だった。やがて呼吸が落ち着いて緊張が解れ始めたけど、それと同時に崩れてしまった。
緊張という壁がなくなってしまい、感覚に余裕が生まれた事で撫でられている傷跡から刺激が体中に駆け巡ってくる。直感でここは我慢しなくちゃいけない場面だと思ったけど、撫でられる度に感覚が研ぎ澄まされてしまい、もう、限界だ。