冒険者と別れて
「我らを守りし黒白の弓剣よ」
「我らは狩人」
「貴方の意志に従う者なり……」
月夜の狩人が、総出で隠密系の闇魔術をブーストするために祈りを捧げる。
加護持ちが誰か、解らなくするために大人数でやっているのか、魔力を分担するためになのか。その両方か。
神の目があれば誰が加護持ちか、一発で解ったんだけどな。
女神さまは、これだけでも先に元に戻してくれないだろうか?
「不便でしかたがない」
「何が?」
「何でもないよセーラ」
村人たちは既に準備万端だったのか、闇の魔術で目眩ましをかけると、直ぐに出発して行った。
無事に王都へ避難できると良いんだけれど……
「明日に備えて、今は休むことにしましょう」
「良かったな主殿、空き家は好きに使って良いそうだぞ」
彼らを見送って、僕らは僕らの出来ることをする。
まあ、先ずは夕御飯だな。
「起きなさい、ラサイアス!! ほらーおきろー!!」
うっうう……
ここは、暖かくて柔らかくて(少しだけ干し草の匂いがするけど)幸せな場所なのに、何でセーラの金切り声が聞こえるんだ。
「ラサイアスってば! いい加減にしなさいよ」
あーもーうるさい、うるさい。
いい加減にするのはセーラだろう。
ホント嫌いだ。
何で怒鳴らないと人を起こせないんだ。
「ラサイアスっちょっと本当に起きてってば、置いていかれちゃうわよ」
そんな事あるわけないだろ、僕はゆうしゃだぞ、勇者の僕を置いて行くなんて天地がひっくり返ってもあり得ない。
確かに、何時までも魔物は待ってくれないから、起きないといけないと解っているけれど、タイミングってあるだろう。
今は目が開かないんだ、ちょっと待って欲しい。
睡眠の状態異常を僕がレジスト出来るまで、騒いでもウザイだけだよ。
「ラァーサイァースゥウ!!」
だと言うのに、セーラは耳元で喉が張り裂けんばかりの大声を出した。
お馬鹿なのかな?
「あーもう! うるさいなセーラは起きてるってば!」
これには堪らず、僕も返事を怒鳴り返した。
勇者と貴族令嬢が、朝から何をやってるんだって感じだよ。
「そんな事言ったってもう時間!」
「解ってるって言ってるだろ、もう起きたんだから、ちょっと出てってくれよ」
むくれるセーラだが、着替えを手伝ってくれるのかと問えば、すごすごと部屋から出て行った。
鎧が結構手強いから、手伝ってくれても良かったんだけど?
「あー頭が痛い」
仕方なく身体を起こしたけれど、変な感じで無理に起こされたから、覚醒が上手くいっていない。
今日こそは激しい戦闘が起こる可能性があるから、体調を万全にするべき時だって言うのに、とんだ妨害もあったものだ。
ため息を一つ、僕は枕元に置いて有った水差しを手に取り、コップ一杯の水を煽る。
当然温くなっていると思っていたソレは、キンっと冷えて喉を潤し胃の底に落ちていった。
「んっ……冷たっ」
セーラがやってくれたのだろうか?
たまにはセーラも、女性らしい気遣いが出来る。
いや、セーラの事だ僕が起きなければコレを引っ掛ける積もりだったのかも……
うへ~あり得るから怖い。
何にしても、目が覚めて良かった。
着替えて外に出ると、まだ外は薄暗い。
それでも準備に走り回る兵士や、何時もより早く起こされて、不機嫌そうな嘶きを上げる騎馬たちで賑やかだ。
「主殿、お目覚めか?」
「ああ、おはよーアマルダ」
アマルダが、僕が乗っていたのと合わせて、2頭の走竜を引き連れてやって来る。
準備が済んだら今日もまた、休み無く行軍だ。
気が滅入りそうになりながら、アマルダから手綱を受け取った。
「眠そうだな、主殿」
「あーんー、リリーナが居ないからね」
「あれ、昨日は……?」
「ん、ユリアとエスリンと」
「はぁ……盛んな事だが大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫。いつも通り、パパっと片付けちゃおう」
一番大変なのは移動だって、前から言われてるからね、仕方ない。
こんな事なら、あの緑竜全滅させるんじゃなかったなぁ……
少しはとっておいて、騎獣にすれば便利だったかもな。




