出撃準備
会議室に居た全員の注目がこちらに向いた。
すぐ隣でも、セーラが不安そうに僕を見上げて居る。
「いい加減にしろ! 一体何時まで下らない言い争いを続けるんだ!? 今この瞬間にも人々が殺されているんだぞ!」
「そんな事は解っている」
「なら1秒でも早く騎士たちを編成して救出に向かわせるべきじゃないんですか!」
そう今は王国の危機なのだ。
それなのに、貴族たちは自分の安全だけ考え、王族は確執に囚われている。
本気でこの国難に、取り組む気が有るのだろうか?
「勇者……」
「勇者だ……!」
「勇者が居る……」
貴族たちの間からは、僕を求める声が小波の様に聴こえて広がっていった。
ドラゴンを殲滅する実力を持つ、僕が居れば魔物の群れを退けるのも不可能ではないと、暗闇に光が指した思いなのだろう。
今まで僕を、冷遇してきた貴族たち相手だと思うと癪だけれど、人々の希望の光になれと言うなら僕は喜んで先頭に立つ。
「国王陛下! この魔物大暴走の件、僕に任せて頂けないでしょうか?」
「バカ、ラサイアス! 何考えてるのよ」
「バカって何だよセーラは」
ざわめく会場の声に紛れさせて、小さな声で怒鳴ると言う、小技を披露したセーラに僕は言い返した。
セーラはまた、今良いところなのに、鬱陶しいな。
ただ、流石に彼女の気持ちは解っている。
僕の事を心配しているのだろう。
それでも、アルカディア王国に悪魔が率いる魔物の軍勢が、押し寄せるとしたら、それに立ち向かうのは勇者である僕の使命だ。
運命といってもいいだろう。
例えそれがどんなに困難な道だろうと、僕は愛する人々を守るのだ。
それに、僕が此処に居るのは偶然ではない気がする。
タイミングが出来すぎている、何か裏に大きな存在の意図を感じてならない。
これが女神さまの思し召しなのだろうか?
「行ってくれるか?」
「はい、お任せください国王陛下! 必ずや邪悪な魔物を討ち滅ぼし王国を護って見せましょう!」
「…………そうか」
心労に落ち窪んだ父上の瞳を、確りと見返して僕が答える、するとまたしても周囲からどよめきが起こった。
そうこの一連の流れ、全ては後世に語り継がれるだろう、重要な場面。
遅まきながらそれに気付いた貴族たちが、感嘆の声を漏らしたのだ。
未だに時流を読めない、ライミラーと叔父上がもの凄く悔しそうな顔で此方を睨んで居たけれど。
まぁ、知ったことじゃない。
と言うかあんたらも仲良いじゃないか、揃って同じ表情をして、そっくりだよ。
その後、セーラの父サイマーク侯爵の提案もあって、僕らは素早く動ける騎馬兵と弓を主体とした軽装兵を連れて、出撃することになった。
軍の指揮は、王族派の子爵の誰かがするそうだ。
僕がやっても良かったんだけど、勇者は自由に動いて戦えるようにとの配慮らしい。
その過程でセーラがめちゃくちゃ怒っていたが、何時もの事なので割愛する。
堕天使の襲撃があったため、戦時中並みに準備を整えていたらしいのだが、流石に数千の兵士が出撃するとなると、其なりに時間が掛かる。
だから出撃準備が調うまで、僕たちは待機するように言われた、んだけど……
そうこうしている内に、王都東門に村人が続々と集まり始めた。
話を聞いてみると、みんなサンダース砦と王都の間にある農村の住人で、着の身着のまま避難してきたらしい。
一様に、猿の魔物が次々と群れで襲ってきたと言っていた。
「まさか、既にサンダース砦が落ちたとか言わないよな?」
「相手は魔物だ、必ずしも順序よく侵攻してくる訳じゃないと思うが?」
僕の疑問に、そう答えたのは、北門から呼び寄せたアマルダだ。
出撃にはアマルダたちにも参加してもらう。王都外周の情報収集も、充分だろうからね。
勿論、この待機時間でアマルダや他の仲間たちにも、急場だけれど使えそうな「勇者の遺品」を装備してもらった。
お蔭で更にアマルダの露出度が増えました。
「うーん、だけど早くしないと」
これ以上は焦っても仕方がないけれど、到着しました、砦は滅んでました―――では意味がない。
勇者の前で魔物大暴走と来たら、高効率で最小限の犠牲者で防いで見せるべきだ。
「砦を攻めると言うより広がっているのかしら? それでも思ったより、犠牲者がすくないわね?」
「どうやら王都から移動した冒険者たちが周辺の村に散らばってたみたいだな、あたしが聞いた話だとギルドから指示が有ったらしい」
「少しは一般の冒険者も役に立つ……か」




