サイマーク侯爵
僕が会議室の豪奢な扉を開けると、既に貴族や召集を受けた専門知識のある者などが集まり始めているようだった。
扉を入って直ぐの、席には天空神殿の代表なのだろう、あの青い法衣を着た下っ端神官も所在なさげに座っていた。
議場は広く、長机と椅子がズラズラと並べられている。
上座にあたる、扉から一番離れた場所は壇になっていて、その上に用意された長机と椅子は、他とは明らかに違う豪華な物になっていた。
恐らく彼処が王族の席だろう。
「ラサイアス、行くわよ!」
まだ空席の壇上を、眺めているとセーラが小さな声で鋭く僕を呼んだ。
彼女が進む先を見ると、サイマーク侯爵、つまりセーラの父親さんが座って居る。
やばっ、先に挨拶しておかないとサイマーク侯爵の顔を潰すことになって不味いな。
もの凄く可愛がられたっと言う訳ではないが、サイマーク侯爵には普通にお世話になったし、不義理を働く気はないからね。
「お父様」
「お疲れ様です」
「ああ、来たのかセーラ、ラサイアス君も」
そう言ってサイマーク侯爵は僕らに隣に座るように席を勧めてくれた。
席って決まってる訳じゃないのか?
「二人とも今回の話は聞いているか?」
一応、僕らを呼びに来てくれた兵士に道すがら、概要だけは聞いていた。
僕は頷いて応える。
「はい、魔物の襲撃だそうですね」
「ああ、それも今までに無いほどの大群らしい」
そう言ってセーラの父親さんは渋い顔をした。
普通の魔物の襲撃や氾濫ならばこんなに大規模に諸侯を集めて会議を行う筈もない。
その地方を治める領主ないしは、冒険者ギルドに依頼して対応する問題だ。
しかし、今回はそもそも伝令を送ってきたのが、砦に駐屯する騎士団からだ。
王都の東側に位置するサンダース砦は、街道を守るために存在する堅牢な要塞。
しかも、あの堕天使襲撃事件を受けて、王都の防衛のため国境に配置していた騎士団を、呼び戻してもいる。
普通に考えて、ただ魔物が出ただけで問題になる訳ない。
戦う技術を持った人間と十分な装備、砦という有利な場もある、ドラゴン数匹現れたって、殺れるはずだ。
それが救援を求める伝令を送って来たんだから余程の事があるはずだ。
集まっている貴族の大半は眉唾って顔をしているが、僕は考えるまでもなく、既に一つの確信へと思い至っていた。
「堕天使の差し金……でしょうね」
「……っ!?」
侯爵とセーラが一斉に息を呑んだ。
中年のカイゼル髭なサイマーク侯爵と、セーラはあんまり似てないと普段は思うが、並んで同じ表情をするとそっくりだな。
「それは……確かにこのタイミングだ無関係と考える方がおかしいが……」
「他には考えられないでしょう。あの事件は宣戦布告だったんですよ、悪魔からの……」
「……」
セーラがサイマーク侯爵が、続いて何か言おうとした時、会議室の中が小さくざわめいた。
壇の横に、一人の侍従が立ったのだ。
背の低い、黒い正装を着た男が背筋を伸ばし、良く通る声で叫んだ。
「アルカディア王国国主、ラミエール・M・アルカディア陛下のご入場です。皆さまご起立ください」
思い思いにお喋りをしていた貴族たちが、皆ピシっと背筋を伸ばし、国王陛下を出迎える。
何処か隠れた場所に居る楽団が、優美な音楽を奏でる中、近衛と上の兄を二人連れて父上が壇上に上がり腰掛けた。
「これより緊急会議を執り行う」




