マブカ山
「何か凄く盛り上がってましたね」
お昼休憩になると、唇を小鳥のように突きだしながらリリーナが言った。
軽く足を踏み鳴らして、不機嫌そうだ。
「偏りは良くないと思うのですよご主人様ー」
彼女は倒木に腰かけていた僕の隣に座ると、ほらほら撫でてとピンクの頭を押し付けて来る。
これは撫でるしかないね。
と言うことで、リリーナのピンクのモフモフをモフモフしまくる。
「くふ~ぅ」
リリーナも満足そうに僕の膝の上につぶれた。
耳がペタッと下がって、こんな姿はまんまペットのウサギさんだ、癒されるなぁ。
セルジュもそんな姿を見て微笑んでいるし、リリーナなりに雰囲気を良くしようとしてくれたのだろう。
しかし、向かい側で保存食をかじっていたアマルダは、面白く無いのか、渋い顔をして言った。
「みんな緩みすぎじゃないか?」
しょうがないな、ずっと戦いを任せきりで拗ねてしまったんだな。
「はいはい、アマルダも撫でるよ」
「いらんわ!」
リリーナの言う、偏りを解消するため手を伸ばしたんだけれど、振り払われてしまった。
彼女も夜二人っきりになると凄く甘えてくるんだけどね。
更に森を進んだ。
只管赤い猿を蹴散らして居ると、地面の傾斜が少しずつ強くなってくる。
予定より大分早くマブカ山に戻って来れたようだ。
順調だな、うまく行けば日暮れ前に残していた仲間と、合流出来るだろう。
しかし、マブカ山の山麓帯はまだ昼過ぎだと言うのに薄暗い。不意に藪から魔物が飛び出す事もあり、僕らも警戒を強める。
始めに登った時は、毒虫や毒蛇なんかもたくさん居て、鬱陶しかったのを覚えている。
一応、各種解毒剤や治療薬なども用意してはいると思うが、毒など貰わないのが一番だ。
僕と仲間は聖剣の加護があるから、相当強力な毒物でも即死なんて事はないけれど、ポーターさんが毒に掛かって薬を飲ませる間もなく死んでしまった、なんて事になるのが怖いからね。
そこで安全のため、少しペースを落として、僕も戦闘に加わる事にした。
「キキャッ」
「キャッキャッキャ」
「主殿!」
「ほいっと」
アマルダが盾で弾いた猿を空中で一突き。
深く貫いた剣を引き抜くと夥しい血飛沫が舞うが、上手くかわして反す刀でもう一匹。
数が多い割りに魔物が強くないので完全に作業だな。
これを一人でやらされていたら、いくら戦い好きでも文句が出るのは仕方無い。
と言うか。
「猿が多すぎない?」
「そうですね、そう言う時期なのでしょうか?」
セルジュが顎に指を当てて首をかしげている。
かわいい。
じゃない。
しまったな、一度目の時も多かったけれど、この魔物ここまでじゃ無かった。
時期で増えるのか?
ギルドでもう少し情報収集すれば良かったかも、山の中腹に残して来た仲間たちは大丈夫だろうか?
頭に彼女たちの笑顔が過る………うん、大丈夫だな。
むしろ、猿が殲滅されている光景しか思い浮かばないよ。
「早く行かないとセーラがうるさそうなのです」
「確かに、それはありそう」
もう既に残された時点で怒っていたものね。
嗚呼、どれだけの猿の死体の山が出来ている事やら。因みに赤猿の死体は一応持って帰るよ。
肉は固くてあまり価値がないけど、毛皮はそれなりの値段で売れるらしいから、ポーターさんに入れられるだけ入れてくれるようにお願いしてあったりする。
そこから二時間山道を歩いて、谷を越えて標高が高くなってくる。
尾根に上がりきると視界が開けた。
「これは……ひどい……」
眼前には次なる谷と連なる峰、広がる斜面を抉る大規模戦闘の痕とそれをもたらした巨大な化け物。
ポーターさんが感嘆に息を呑むのが聞こえていた。




