合流、その前に
昨夜から続く厄介事を片付けて、僕らは森へと入った。
暫くは馬車も使えたが、直ぐに道が狭くなり、木々が密集してくる。
小さな橋が掛かった小川まで来ると此処からは徒歩となった。
以前は馬車を止め数人の見張りを残していったのだが、今回は馬車ごと持っていける。
「う、馬もしまえるのか!」
アマルダが興奮ぎみに言った。
「普通は仕舞えないものなの?」
「いや、たぶん、私が前に聞いた話だと生き物はしまえなかったはず……なんだが……?」
二人で視線を送ると、ポーターさんが曖昧に笑った。
「大人しくしていてくれれば、あ、でも私が死ぬとマナに分解されて消滅しますので注意して下さいね」
それは怖いな、迂闊に人を入れて移動とは行かない様だ。
まあ彼を守りきる実力があれば軍隊を入れて移動させ、全く気付かれずに強襲、なんて事も出来るわけだ。
やっぱり空間魔術便利。
さて、それから小さな川を越えて歩く、枝葉が太陽の光を遮り、辺りが緑の陰に覆われ始める。
すると魔物の出現率も高くなり、何度も襲撃を受けた。
「ギギャーギギャー」
「キキャーアキャー」
アマルダが先頭で赤い毛の猿を何匹も両断している。
腕が四本ある気性の激しさで有名な魔物だったか、ギルドでの討伐ランクだと単体でD、群れになるとB-それを軽々と斬り伏せて行く。
リリーナは僕が頼んだことを守って、ポーターさんにぴったり付き添っている、けどやる事が無くて暇そうだ。
一応武器は抜いてるけどね。
しかもさらにそれを囲むようにメイド隊の二人が前に居て、殿もメイド隊の二人がついている。
凄く豪華な防衛だな、そもそもアマルダが先頭を歩くと僕らに仕事が回ってこないけど。
それにしても、森に入ってから赤い猿ばかり出てくるな、今日は彼らの厄日かな。
そんな風に仲間の様子を見ていると、セルジュが僕のマントの端を引っ張った。
「……」
振り向いてみると大きな瞳に涙を滲ませ、ほっぺたを膨らませてこちらを見上げて居る。
何この可愛い生き物!
じゃないな、ここまで彼女はずっと機嫌が悪かったものな。
盗賊の事だけじゃないんだろうな、やっぱりまだあの事件の事が心の傷になっているのだろう。
だから本当は、誰よりも心優しいはずの彼女が、あの冒険者たちを許せなかったのだ。
そうだな、これは少し前の話だ。
セルジュは元々光属性に高い資質を持って生まれ。
その心優しい性格もあって回復神術を修め、僕の旅に同行をしつつ無償で人々の治療をして回ってくれて居た。
彼女が、いつの間にか巷で聖女などと呼ばれるようになるには、それ程の時間は掛からなかった。
そして、そんな彼女に目を着けたのが精霊神殿の欲にまみれた、大神官だったんだ。
セルジュはそもそも天空女神教を信仰して居た、正式に席が有ったわけでは無かったが、女神様の格別の加護を得てその『お言葉』即ち神託を下ろされる事さえあった。
信じる神が違うと言うのに、大精霊神に仕える大神官がセルジュの民衆からの人気を妬み、汚い方法で彼女を神殿に取り込もうとした。
大精霊神と天空の女神様は同盟関係、神話では協力し合う事さえあると記述がある。
そのため、大神官の呼び出しに疑う事なく従ってしまったんだ。
彼女が、魔方陣に囲まれ縛り付けられている光景を、僕は忘れない。
セルジュの力と美貌を欲した大神官の醜さが、今もはっきりと脳裏に焼き付いている。
僕でさえそうなのだから、実際に襲われた彼女の苦痛は、どれほどなのだろう。
それが昨日みたいに野蛮な奴等の視線に晒され、卑猥な言葉を掛けられて、あの時の事を思い出してしまったんだ。だから苛烈に罰を求めていた。
「ごめんね」
よしよしと白く美しい髪を撫でると、セルジュは気持ち良さそうに目を閉じる。
「解っているのです。世の中にはどうにもならない理不尽があると言うことは……」
「そうだね」
小さな肩を抱き寄せると、セルジュは一瞬泣きそうな顔をして僕に寄り添った。
「だけど私は……」
「大丈夫、今は無理だけど何時か絶対僕が変えてみせるよ」
「ラサイアス様……」
僕は大業を成し遂げてみせる。




