信じたい事を信じる
「大地の精霊」
この透明な球を埋め尽くす岩塊が、そうだと言う。
神秘性が感じられない描き方で、まさに土を固めた茶色い何かね。私は宗教は苦手だが、他宗派はもっと訳が解らなくて好きじゃない。
この国に居る限り、精霊信仰に関わる事は天空女神信仰よりもっとないと思っていたのに。
「それを支え富ませる植物、えーっと確か名前は世界樹だったかしら?」
「あれ? えっと、セーラ様……?」
「シロレム様とクロノト様」
「そう、そうですその神様達! 大地はその二人の神様だったんじゃないんですか?」
「…………?」
子供達は盛大に眉根を寄せて、難しい顔をした。無理もない、一気にこれだけ詰め込められれば大人だって混乱するはずよ。
しかも先程とは、ガラリと話の内容が変わっているわ。
どう説明すればいいのだろうかと、迷ったが結局アルカディア王国が一般の民に教えている風に話すしか私には思い付かなかった。
「さっきの神話は少しだけ横に置いておいて頂戴、これは違う考え。違った教えを信じている精霊信仰の人たちの考え方なのよ」
「じゃあどっちが本当なんですか?」
「それは……」
聞かれて、私はまた戸惑った。何故なら私自身信心深い方では無かったから。一連の事件から、何を信じたらいいのかも解らなくなってしまったから。
私は全部、あのポーターのせいだと心の中で悪態をついた。
「この国では殆どの人が、天空の女神様を信仰しているわね」
「お兄ちゃんもですか?」
「そう……ね、ラサイアスは女神教徒よ」
ラサイアスに限らず、アルカディアの王族は皆、女神教徒だ。
天空の女神様の神託を得て、魔導王カイトを倒し勇者となったライオネルが建国した国なのよ。
その切っ掛けとなり、国の権威と正統性を裏付けする女神教を信仰するのは自然の流れだわ。
「なら私も女神様信じます」
「え?」
女神教徒になると簡単に言ったネネという少女は、隣の奴隷仲間を肘でつついた。
「あ、私も女神教徒です」
「……お兄ちゃんと一緒」
つかれて、慌てて同意した栗色の髪の子と、深く理解せずにラサイアスと同じがいいと頷いた幼い赤毛の女の子。
私は、ため息が出るのをぐっと堪えた。
よく考えてから、等と言っても意味はなく、奴隷に自由など許されない。
深く考えずに主人の意に染まるように、ラサイアスの言うがままという生き方は、ある意味羨ましい。
私には、怖くて出来ないけれど。
「ならそう言うつもりで、精霊信仰については聞きなさい」
「あれ、それでも勉強はするんですか?」
「ちがう教えなのに」
「もちろんよ当たり前じゃない、何が違うのかちゃんと知らなければ、解らないでしょう?」
「「「ええー!」」」
その後も、子供達はお兄ちゃんと一緒でいいのに、とぶつくさ言っていたが、私は、精霊信仰、大地母神についての神話を画集を頼りに思い付く限り語って聞かせたわ。
彼女達が何かを選択する場面に立った時、心の片隅にでも引っ掛かるように。
「その終わりの日には宴を開き、大いなる獣ベヘモットを皆で食べました」
「お疲れ様ですセーラ様」
「セーラ様もご休憩を御取りください」
ちょうど神話の一区切りが付いたところで、セーラが先程休憩に出した仲間が戻って来る。
一息ついた為か、若干元気とやる気を取り戻してもいた。
「そうね、ならあなた達も一緒に休憩にしましょうか?」
「はい!」
「ご一緒致します」
「……ごはんうれしいです」
「じゃ調査の続き、お願いね」
「お任せください」
セーラが子供達を伴って図書室から出ていくと、そこには開かれたままの宗教画集が残された。
そのページには、巨大で恐ろしげな魔物の様な姿が描かれている。
「これは……大いなる聖獣ベヘモット?」
端に書かれた絵のタイトルを、思わずメイドが読み上げた。
「あら? それって悪魔の名前じゃなかったかしら?」
傍らで聞いていたもう一人の奴隷メイドが、メモを取り出して確認する。
それは、一般に知られている悪魔の名前を、彼女が書き留めた一覧表。そこには確かにベヘモットの名前があった。
「ああ、本当ね」
「精霊信仰での聖獣の名前と、女神教での悪魔の名前が同じって何かある……のよね?」
「たまたま……って事はないわよね流石に」
少女たちは顔を見合わせて、普段ならば美しい笑顔をひきつらせる。
自分達はつくづく、何かとんでもない事に、巻き込まれてしまったのではないだろうかと。
「で、でもこれって殆どが後付けで言われてる悪魔の名前でしょ?」
「そ、そうねこうやって調べてみると古い教典には悪魔の固有名とかないわよね」
「神々の名前も古ければ古いほど載ってないし、天使に至っては3名くらい? ちゃんと名前が出てくるのって」
「後から出てくるのって何でなのかしら……?」




