お昼までの時間に来た人
「みんな凄い、大成功ですよ!」
午前の演舞は終了。
俺は感動して戻ってきた愛好会の生徒達を抱きしめ、頭を撫でた。少し恥ずかしがって、むずがるが、みんなにこにこしている。
「いいなぁ」
「うちは担任がな……」
「純粋なあれじゃなかったからな」
魔物使い部の子達が嘆いている。軽い感じにしているけれど、本当は何年も師として教えを受けていた人物があんな事になり、未だに内情は穏やかじゃないんだよな。
周囲からの当たりが酷くならないように、辺境伯家で手を回しているらしいが――どうやってやっているのか、噂話とかのコントロールしてるらしい――自分のことを最初から見ていて、相談出来る師という存在が居なくなったのは、大変だろう。
「魔物使いとしての指導は出来ませんが、ここは代わりに私が!」
「きゃーーシマルコ先生ー!!」
「いっ!? 違いますちがいますーっ」
魔物使い部の子供たちにもと、手を広げると、マローナさんがS字軌道を描いて人を避けて走ってくる。そして綺麗に宙に舞って飛込んでこないで欲しい。
むぎゅぅ……。うぐぐ……。
「きゃー大胆」
「あははー」
潰れる。事は無いけれど、子供たちに笑われてしまっているぞ。
「もう、離れて下さい」
「えーやーだー」
「マローナ流石にはしたないから止めなさい」
「むぅ……」
マローナさんは辺境伯に言われると、渋々と俺から離れる。親父さんが居てくれて良かった。止めてくれて正直助かる。
「はぁ……」
「……」
でも何だろうこの視線……。上から旋毛に突き刺さってるんだけど。
「ここまで気に入っているなら、側室枠を一つ潰しても……」
周りに聞こえないように、ぼそっと何言っているんですか!? この父親!
ちゃんと頑張って反対して下さいよ。一枠くらい諦めるかじゃないんですよ。
それはおいておいて。
「みんな交代で隣人祭回ってきて下さいねー」
「はーい」
「おう」
「ほーい」
「午後の演舞の開始時間、少し前には帰ってきて下さいね」
「解ってるって」
「任せとけ」
「後半もバッチリ決めてやるよ」
「行ってきまーす」
事前に決めていたローテーションで子供たちを放流する。俺も回らないといけないけれど、それはアトラスさんと交代した後になる。
「アトラス先生まだかしら?」
「まだですよ」
「マローナさんも先に回って来ていいですよ」
肉の切り分けを手伝いながら、残っていた彼女にも声を掛ける。アリスさんは俺が一緒の方がいいけれど、彼女はアレクさんと回ってきたらいいと思う。
「えぇ~初見の感動をシ、マルコ先生と楽しみたいのに!?」
「……う~ん、私は仕事で回らなくてはならないので、そこまで楽しむ余裕とか無いと思うんですよね」
「むぅ」
「……ですから、下見しておいて貰えれば、多少は時間が出来るかもしれません」
「!? 解ったわ任せて!! 完璧な回り方を見付けておくわね!」
マローナさんはにこにこと笑って、屋台を出て行った。
俺って狡いな。
でも、もっとこう、同年代とちゃんと思い出を作って欲しいんだよな。一度しか無い学生生活の、青春なのだ。俺のような異物にばかり拘っていてはいけない。
「もう1皿くれ」
「凄い使い魔ですね」
「少しなら触っても大丈夫ですよ」
楽しげな声がそこら中からする、平和だ。
しかし、巨鹿の肉は余るかと思ったんだけれど、これは残らないかも知れないな。残ったらみんなで食べればいいとか言ってたのだけれど、子供たちががっかりしそうだ。
打ち上げはどこか店でやるか……。
そんな事を考えながらお客さんを捌いていると、ざわざわと一塊の人波が近付いてくるのを感じる。僅かに近付く神力も感じるので、仙女様の一行が外の出店を回ってきたのだろう。
警備と、見物人達、それを近付かせないスタッフ。その中心に件の女性とそのお付き、学園長とその秘書達といった構成の集団だ。
それがだんだんと近付いてくる。
「……先生」
「はい、大丈夫ですよ」
当番で残っていたセルチェさんが、緊張した面持ちで俺を呼ぶ。
冒険者愛好会の担任として、出迎えないといけないな。何事も無いと良いんだけど、まぁ大丈夫だろう。
「まぁ美味しそうですわね」
「ありがとうございます、どうぞ良ければ一皿食べていって下さい仙女様」
「……あの、以前お会いしたこと、覚えていらっしゃいますでしょうか」
「ええ勿論ですよ。青の先輩の紹介ででしたよね……お久しぶりです」
肯定すると、何処か硬かった仙女マリーの表情がぱっと和らいだ。先輩が休眠する前に一度紹介されただけだから、60年前に一度会ったきり。覚えていない事も想定していたんだろう。
まぁ、実際俺は記憶力に特段自信がある方じゃ無い、覚えていない事も有り得た。ただ覚えていたのは、紹介された時、妙に先輩のテンションが高くて、その……うん。
まぁ上昇する人少ないから、特別な意味は無いのかもしれないけれど。
「此方こそお久しぶりでございます。なかなかお顔を拝見する機会がありませんので、ここでお目にかかれて嬉しいですわ」
「聖女様と顔見知りなのか、補助教師マルコ」
学園長が慌てた様に聞いてくる。
「いえ、顔見知りという程では、以前共通の知人を挟んで一度紹介して頂いただけで」
そう言う事は先に言って貰わないとと、秘書の方に小声で苦言を言われてしまった。すみません。
でも本業の関係者に、ここで会うことになるとは全く予想していなかったから。
「トゥ……マルコ様、少しご相談したい事があるのですけれど仙として」
「ご依頼ですか?」
「はい、その様な、先ずはお話だけでも」
そう言って、封筒を渡された。中は連絡先か、滞在している宿屋の場所か……。
「解りました、近いうちにお伺いします」
「有り難うございます、お待ちしておりますわ」
……仕事かな。




