天使のアミュレット
光が収まると、シン君の手の中に変化したブローチが一つ残った。
お母様の形見である事は、あえて彼には言わなかった。だってきっと引け目を感じてしまうだろうから、全然そんな事無いのにね。
「……上手く出来たようです」
あ、もう翼を仕舞っちゃうの、ちょっと残念。
ここには事情を知らない人は居ないのだから、ずっと出しておけば良いのに、綺麗なのだから。
「どうぞ、確認して下さい」
彼はテーブルに改めて着くと、私の方に変化したブローチを差し出してきたわ。手に取ると、印象は変わっていなくて、とても馴染む。
やっぱり何の問題も無いわね。そればかりか、私の大事な二人と縁のある物になったのが嬉しい。
「凄い、何だか羽根の装飾が豪華になった」
それに中心の宝石の輝きも増している気がするわ。周囲の明かりを集めると、虹色の光を振りまいている、素敵。裏側は付けた部品分、ほんの少しだけ厚くなったかしら?
ピンの部分はまるで最初からそうである様に、避けて嵌められていて、アトラス先生が熱心に見ていた陣は、今は内側に入ってしまったのか見えない。
ただ、何処か見覚えのある図形だけが、一つ刻まれている。
「有り難うマルコ先生、大事にするわね」
「いえ、こちらの都合ですみませんでした」
だから、謝ることないんだけどなー。
「でもこれで、私の思いを込め放題なのよね!」
ずっと我慢していたのよ。
私は両手でブローチを包み込むと、祈りの姿勢を取った。
「え? は!?」
「シン君、シン君シン君好き好き好き好き好き好き好き好き大好き大好き……」
おおお~魔力がどんどん吸い込まれて行くわ。
「ちょ、ちょっちょっと何しているんですかっ!」
シン君は驚いて顔を赤らめている。
ふふふ~ん祈りが届かないならば、物理的に届ければ良いのよ。
「目の前で祈ったら、意味ないじゃないですか」
「目の前で言わないと声が届かないじゃない」
それから、早速効果を試してみようと、外に出る。家の裏庭にも、私兵の訓練用にちょっとした場所があるからね。
ただ、ジェイだけはもう興味が無いと、怪我人のところに戻って行ったわ。
私とシン君のいちゃいちゃ、もとい言い合いを見て下らないとか吐き捨てて行ったわ。失礼しちゃう。
なのでここに残っているのは、私を含めて四人。
「そんな事より、早く使って見せて下さい」
アトラス先生はずっとさっきからわくわくしているわね。
「……」
アレクはずっと複雑そうな顔をして、押し黙っている。
多分、私のことを心配しているんだと言うのは解るんだけれど、口出ししない様に我慢しているのかしらね。もう、面倒くさいお兄ちゃんね。
「アレク、的を持って来てくれる」
それと少し離れて、愚痴でも吐いてくると良いわ。
「解りました」
で、アレクが戻ってくるまでに、神術? で良いのよね?
ブローチに込められた天使の守りの発動を練習をする。うん、シン君の守りの力。こちらは防御の術だから、的は必要ないし危険も無いのよね。
「じゃぁやってみるわね」
「はい」
「……えっと、マルコ先生に祈る時と同じ様に…………結界! きゃっ」
ブローチから力が溢れると、半球状の薄い光の壁が広がり、私の周囲を取り囲んだ。
キラキラしているし、広がる時シン君と同じ匂いがしたわ。これって、マルコ先生の力自体の匂いだったのね。
「わぁ出来た、出来てる?」
「大丈夫です出来てますよ」
シン君に成功だと確認して貰えて安心する。
ちゃんと使えた、よかったわ。本当に初めてだったから……。良く考えれば練習も無しのぶっつけ本番、命の危機に使えないのも、当たり前だったかもしれないわね。
「おお、この手の魔導具の発動が見られるなんて、なかなか無いですから、貴重な体験ですよ。ああ、あの時の術と基本は同じなのですね」
アトラス先生は嬉しそうに言って、興奮した様に光の壁をペシペシ叩いたり擦ったりしているわ。触っても大丈夫なのね。
折角だから私も触っておこう。
「気軽に使えないものね」
貴重で高価、それなのに使い捨てとまでは言わないけれど、何度も使える訳じゃない。しかも残りの使用回数も、人には解らないから。
ただ、私たちにはシン君が教えてくれる。
力が満たされた状態で使える回数は三回、十全に祈りを捧げていればもう二回は使えるだろうって。
手の中のブローチを見ると、宝石の輝きが少しだけ弱くなっている。
でも練習で使い切ったら、また込め直してくれるって、破格よね。
「これって、どの位の攻撃を防げるのかしら?」
「どの位って、それはあらゆる攻撃が防げるでしょう」
「いえ、そんな訳無いですよ」
アトラス先生の答えを、シン君が苦笑しながら直ぐに否定する。自信満々言い切ったアトラス先生は動揺しているわね。
私もちょっと吃驚しているわ、神聖な絶対防御の結界だって小さい頃から聞いていたんだもの。
「そうなの?」
「がっかりさせて申し訳ないですがそうなんですよ。私が張っている結界ですから、私の防御力を突破できる攻撃は防げません」
「それは……」
「やっぱり……」
「絶対的な防御じゃないの?」
「絶対的な防御ではないですか?」
マルコ先生に防げない攻撃が、想像出来ないわ。そんなのこの世界に存在するの?
「いや、私より強い方なんて沢山居るんですよ。ってアトラスさんには前に言いましたよね」
「聞きましたけど」
「私は聞いていないわよ」




