代替案
「そっか、そうよね案は一つじゃなかったのよね。代替案、代替案でいきましょう!」
「あ、えっとはい、で、取りあえず説明させて下さい」
俺は黒白の褥から出した件の菱形の金属片を、テーブルの上に置く。
「それはっ神術陣か見せてくれ」
「良いですよ」
「あ、またっ」
「まぁまぁ」
俺が承諾したのに、マローナさんが止めようとしてくれるが、それを宥める。
心配してくれているのは解るけれど、これも秘密にする事では無い。こっちもメカネス様に作って頂いた物だし。
厳格に対価とか要求するのだって、言ってジェイさんのは皮肉屋っぽいだけだから。ぽいってだけなのが重要だな。
それに、医療用の魔導具の参考になら大いにして欲しいところ。魔術もそうだけれど、神術と医療の融合的技術革新なんて、出来る人は少ないからな。
「……おぉ、これは……」
「むぅ、それって何なの?」
懐からルーペを取り出して観察し始めたジェイさんを横目に、気を取り直してマローナさんは聞いてくる。
「術が刻まれたコアパーツ、魔導具とかにも組み込まれている、中枢の部品ですね」
「ふ~ん」
「マルコさんっわ、私にも見せて頂けないでしょうか!」
ソワソワしていたアトラスさんも、俺の発言を聞くともう我慢出来ないと、席を立ってジェイさんの横に移動して来る。
別に構わないので俺は了承した。アトラスさんも同じ研究者、人に役立つ開発のために活かして欲しい。
うん、此方の話はそこそこに、二人は狭いとか見えないとかから揉め始め。それから技術的な話で白熱し始めてる。
「アトラス先生……ちょっと引くわ」
……彼らの事は少し置いておくとして。
「これで、対処するための道具を作ろうと思うのですが」
「なるほど!」
「マローナさん、絶交でなければ何でもいいと思ってませんか?」
「そんな事、無いわよ」
本当かな?
「仕組みとしてはマローナさんの祈りを溜めて、適宜使用する様に出来ればと、そうすれば魔力も無駄になりませんから」
「ん? それって一般的な魔術用の杖と同じ様な機能よね」
「まぁそうですね」
魔術師用の装備は、魔術の発動を補助したり、属性の変化、強化をするものであるけれど。その前段階としての基本機能で、装備者の魔力を蓄え、使用出来る様になっていたりする。
普段から常に身に付け、余剰魔力を注ぎ満たして置くといざという時に足しになるし、既に満たされている杖などを伝ってならば、魔力の放出もスムーズになる。
そのため材質は魔力の浸透力の高い木材や金属、魔力保有量の多い貴石や魔石が使用されている。今回の部品も、聖銀で作製して貰ったものだ。
「扱うのは祈りですが、実態は魔力なので同じ様に溜める事が出来るんですよ」
「ふむふむ、そうなのね」
「それだけじゃないだろう、これは祈りで神力を回す様に書かれている」
ジェイさんが補足してくれたな。でもその通り、祠とか神具に使うものと共通の神術陣も含まれている。
神殿や街、道なんかに設置されたそれらには、神力が込められていて使用すると神術を放出する。すると当たり前だが神力は消費されていく、経年でも同じだけどな。それを遅くするため、祈りに込められた魔力を神力の足しに出来る様に術が組まれているんだ。
人が祈るとそれに応えて術が発動し、神具には魔力が捧げられて神力の回転を補う。放出と祈りが釣り合っていれば、かなり長い間効力を失わない。だから廃れて忘れられると、一気に何の効力も無くなったり、逆に暴走したりするんだけど。
「ええ、それからもう一つ、これを装着している者の祈りは、他に届かない様になります」
普通は縁のある物を介して祈ると、祈りは届きやすくなるが、これは逆だ。完全に祈りも魔力も吸い上げて、俺はおろか他の神霊にもその声は届かなくなる。
「ちょっと待てそれだともしもの時は」
アレクさんは気付いたか、何時でもマローナさんの安全を一番に考えている彼らしい。
「ええ、アリスさんの様に助けを祈っても、作製する術具を付けている限り絶対に祈りは届きません。手放せば、効力は無くなりますが」
絶交だと、俺以外の神霊には祈りが届く、しかし効力の切り替えは簡単には出来ない。代替案だと、全く祈りは届かなくなるが、手放すことで一応効力を無効にも出来る。しかし、咄嗟にそれが出来るのかという事だ。
どちらにも、問題はあると思う。そう俺が説明すると、マローナさんは少しだけ考える素振りを見せ、頷いた。
「うん、それでもやっぱりこっちの方がいいと思うわ」
そう言ってテーブルの上の部品を指差した。
「お嬢様、もう少し熟考して下さいよ」
「いえ、そこまで考えるまでもないわよ。可逆と不可逆なのよ? それにシン君以外に声が届いたって、助けてくれるか解らないわ」
「それはそうですが……」
「いや、それはそうじゃないですよ。ちゃんと助けてくれますって」
「そうかしら?」
「そうですよ」
いや、むしろ俺より上手いこと、先々のことも考えて完璧に助けてくれるかもしれないからな。
……何でそんなに信頼しているのか解らないですが、にこにこしながら見るのは止めて下さい。何時だって不手際があって、期待には応えられないんですから。
「で、結局作るのだよな、本体は如何するのだ? 祠石に当たるものが必要だろう、これから探すのか?」
そう、それも問題なんだよな。
「うーん……出来ればなんですが、マローナさんが身に付けている、ブローチを加工させて貰えればと思うんですけど」




