楽しい夜営
さて問題があります。
今のメンバーは勇者、聖女、女戦士、獣人奴隷とメイド奴隷戦士四人、お手伝いのポーターさんの計9名。
馬車は三台。
さて野営するなら割り当ては?
「えっと、本当に私一人で馬車一台占領してしまって、良いのでしょうか?」
「あーうん。良いんじゃないかな、ゆっくりしていてください」
ポーターさんは夜の見張りも護衛対象だから免除だし、いくら無害そうだからと言って女の子達と一緒にする訳にもいかないからね。
なら僕と二人で一台って思うかもしれないけれど、僕が移ると漏れ無く他のメンバーも着いてきちゃうんだよ。
そんなこんなをしている内に、夜も更けて闇がゆっくりと降りてくる。
「さてと」
ポーターさんが、幌を下ろした馬車に消えて暫くが経った時だ。
僕らは交代で休むでもなく、そのまま雑談をしていた。獣避けに囲んだ焚き火がパチパチと音を立てている。
リリーナが、その火で夕食の残りのソーセージを炙って居たりなんかして、ゆったりとした時を過ごしていた。
……リリーナ、夕御飯足りなかったのかな。
「主殿も、寝ていて構わないよ?」
「そんな訳にはイカナイヨ」
楽しそうに剣に砥石を掛けながら、何言ってるんですかねアマルダは。
ソーセージに齧りつく、リリーナのピンクの耳が、背後に向かって傾いた。
「ご主人様……もぐもぐ……」
包囲が終わったのだろう。
どう出てくるかと何気ない風を装って待っていると、ガサガサと目の前の藪が揺れて、大柄な男が顔を出した。
「こんばんは、朝ぶりですね」
僕は男に声を掛けた。
わざわざ僕らを追いかけて来るとか、この人暇なのかな。しかも徒党を組んで。
そうそれはギルドで絡んで来た男だ。その男を筆頭に、ぞろぞろと柄の悪い奴等がが8人此方に近づく。
全員下卑た様子で、僕の仲間たちを値踏みするように視線が動いていた。気分が悪いな。
「何か用ですか?」
一応そう聞いたが、男達はまともに会話をするつもりは無いようだった。
「ほらな、やっぱりそうだ。やっぱりそうだったぜ」
「おお、兄貴の言った通りだったな」
「キヒヒヒ、聞いてたのより女が多いぜ」
こちらを無視して、凄い下品な笑い方をしてるけど、いったい何なんだ。
「お前ら、何の用だって僕が聞いているんだ!」
「あー悪いな坊っちゃん、自分の話を無視される事に、馴れてないんだな坊っちゃんは」
いや、無視される事に馴れてる人ってなんだよ。と思ったけれども話が進まないので黙っておく。
「たまに居るんだよな、貴族の道楽?」
「金を積んで、戦闘用の高額奴隷を買い漁ってよぉ」
「ギルドマスターまで気を使ってんだーぽっと出のガキに、ふざけんじゃねぇ!ふざけんじゃねぇぞ!こっちとら命懸けでやってんだ!!」
「お前らみたいなガキに、猟場を荒らされたら困るんだよ」
暗い森に男達の殺気が溢れた。
「例え、お金の力だったとしても力は力です。その力でギルドの依頼をこなす事は、何の問題も無いはずです」
お金で買った奴隷を投入して、街や村の問題を解決させる領主も多い、それは人々にも歓迎される行為だ。
脅威が取り除かれる事が先ず一番だと僕は思う。
今の人種にはそれ程余裕はないのだから。
「へっ!金の力はそれは絶大だろうさ、だがよぅ金の力が及ぶのは、人種の領域だけなんだぜ?」
「もうここは森の中、ケヒヒ……獣の領域よぉ」
「金では命は、買えねぇぜ?」
男達が怒鳴り一斉に得物を抜くと、タイミングを図ったように、四方から矢が降り注いだ。
「リリーナ!」
「はーい」
僕が声を掛けるとポーターさんが乗っている馬車の幌の上にリリーナがピョンと飛び乗る。
「えい!や!ほっ!」
掛け声も可愛く飛び回るリリーナが、両手で持った短剣を振るうと面白いように矢が叩き落とされていく。
メイド隊は馬とセルジュの護衛。
そして僕とアマルダは目の前の男たちに取り掛かった。
「お前ら、簡単に殺すなよ」
「解ってるぜ兄貴ぃ」
「女は犯さねぇとだ、男の前で」
「主殿、主殿! 殺って宜しいか? 宜しいか?」
「あーずるい! 私だけお守りなのです」
全く、どっちも血の気の多いことで、楽しい夜営の始まりだ。
「あの……」
「ポーターさんは隠れていてください!」