道中
南門を出てマブカ山へ続く街道を進む。
暫くは街と街とを繋ぐ大きな道なのでモンスターも出ず馬車の進みもスムーズだ。
目指すはマブカ山とその裾野に広がる深い樹海である。
「へぇーそれじゃ空間魔術は、闇属性なんだ」
「はい、無属性とも言われていますが、私が使うのは闇属性も含みますね」
馬車の中ものんびりとした雰囲気で、リリーナとポーターの彼が魔術談義に花を咲かせている。
「闇属性ですか……」
それを聞きながらそっと眉をしかめたのはセルジュだ。
聖女なんて呼ばれているし、信心深い彼女は闇属性に何か思うところがあるのだろう。
昔闇魔術を操る魔術師が悪逆非道をなし、天を汚し地を汚しって伝説が残っているものだから僕自身もあまり良いイメージはないけどね。
セルジュは馬車の端に寄っていたので、そのまま僕に小声で話す。
「ライ様、便利そうだからと言って、闇属性はいけませんよ!」
「気付いてたの?」
「ライ様に何かあったらどうするのですか? ライ様は選ばれし勇者なのですよ、闇属性などふさわしくありません。それに、光の聖剣と相性が最悪だと思われます」
確かに、それはあるかもしれない。
僕は腰に帯びた長剣に手を掛けた。数々の奇跡をもたらす聖剣フェザースター、これと相性が悪くなるのは、非常に困る。
「どうしても必要でしたら、配下の娘たちに覚えさせればよろしいかと」
「それは、流石に……」
僕は言い淀んだ、相性が悪くなるかも知れないから、女の子たちにやらせる。そんな実験の様な真似を、仲間の誰かにするのは酷いだろう。
例えそれが世界の平和の為であっても。
「大丈夫です。皆、ライ様の為ならば、喜んで全てを捧げる者たちばかりです」
当然のように微笑まれてしまった。
「……この件は保留だな」
そんな事するくらいなら、気は進まないけど、ダメもとであのポーターさんを勧誘してみようかな。
太陽が中天に上る少し前、僕たちは枝道に入っていった。
ここからは若干道も悪くなるし、たまに魔物も出現するようになる。
「リリーナ、魔物が出たらポーターさんの守りをお願い」
「任せてご主人様!」
うさぎ耳をピョコンと立ててリリーナが引き受けてくれた。彼女に任せれば安心だな。
まぁ、ここら辺の魔物の強さでは馬車に近づく事も出来ないだろう。
チラリと御者台を見れば、弓矢を用意しているメイドさん、心強い仲間がいて最近楽勝過ぎだね。
お昼休憩なんかを挟みながら、道程は順調に進んでいく。森の入り口で一度野営をする予定だ。
「主殿、気付いているか?」
休憩時間にアマルダは、腕を組んで来た道を睨み付けながら、そう言った。
「ああ、暗くなるまで待ってるみたいだね」
僕は、気配察知に先程から引っ掛かっていた集団を、強く意識して答える。
「なるほど、野営が楽しみだ」
彼女はきっと道中平和だから退屈していたのだろうな。
全く、折角助かったと言うのにバカな人達だ。