落ちたり落ちなかったり
と言う事で、暫く静かに魔物が去るのを待つ。
しかし、少しもしない内に、支えているご令嬢が、ゴソゴソと身動ぎしだした。
座りたいのかな?
ずっと立って居るのは確かに辛い。
ならこちらも一緒にしゃがんで……いや、急に動くとまた驚かしてしまいそうだ、取りあえずどうしたのか聞いてみるか。
「あの、どうしま……」
「あっ!」
その瞬間に、ご令嬢が何かを取り落とす。しまった、俺が変なタイミングで声を掛けたせいで。
彼女の肩越しに何か、白い物がヒラヒラと落ちて行く。
「下着が」
呟きを聞いて、俺は慌てて視線を逸らした。
下着だったのか、なんだろうかとまじまじ見てしまった。
ほぼ全裸の彼女自身の事も、最初からあまり見ないようにしていたのに。
あ、池の主が落ちた下着に気付いたのか、走りよって鼻面を押しつけて……。
って興奮してまた激しく暴れ出した!?
少し勢いが治まってきていたのに、めちゃくちゃな荒ぶりっぷり。そう言えばこいつ雄だったな、いや、どうして人種の女の子の下着に、興奮しているんだ!?
「ガァアアー!!」
「きゃ! お、落ちる」
その勢いのまま、マブカガーデスが木の幹に体当たりして、僅かに枝が揺れると、ご令嬢が悲鳴を上げる。俺は、落ちそうになる彼女を、引き戻した。
これは気を付けないと彼女、パニックになって自分から、足を踏み外しかねないな。
「服を着ようと思ったんだけど」
「そうですか、あー……えっと、手を貸しましょうか?」
お互い気まずいが、ここで彼女が一人で服を着るのは、難しそうだ。
「そうね……お願いするわ」
ご令嬢は俺の提案に、恥ずかしそうにしながら、何でも無いように装って了承した。
うーん、若い貴族の女性だ、嫌でたまらないだろうな。
高位の貴族女性って、他人に近付かれたくなくて診療を拒否してそのまま亡くなる、なんて人が居るとかって話を聞くし。
というかご令嬢として、今の現状を誰かに知られたら、今後色々と不味いのではないだろうか?
「出来るだけ触らない、見ないようにしますので」
「だ、大丈夫よ、がっつり見て、それに落ちないようにしっかり抱きしめて、大丈夫だから」
「……後で手討ちにとか」
「そんな事、誓ってしないわ!」
思い切りが良い人だな、まあ、遠慮してぐずぐずするより早く済むか。
それから、ご令嬢の着替えを手伝い。
暫くすると、周囲が少しずつ明るくなって来た。
高いクロムジの上からは、東の山間に日が昇って来るのが見える。
日が出て暑くなれば、余計水の外は辛くなってくる。流石のマブカガーデスも、少しずつ動きが鈍くなった。
「そろそろ水辺に戻りそうですね」
「ええ、それで、どうやって降りるの?」
「えっと、申し訳ないのですが、さっきと同じ様に抱きかかえさせてもらって、良いでしょうか」
「い、いいのっ、じゃじゃあお願いするわね。……申し訳なくなんか無いわ、私一人じゃ降りられないもの」
か、顔が真っ赤だ、……申し訳ない。
こちらが色々秘密にして、出し惜しみしなければ、彼女は要らない羞恥心に見舞われる事も無かったんだよな。
そもそもだ。誤作動の原因だよ、着替えを手伝うことで解ったんだが。
いや、可能性というか、彼女が首から下げてる、ペンダントトップ、ブローチにもなるやつだろう。たぶん、あれだ原因は、俺の神術が付与されてる。真ん中の石に。
「すみません」
何時、誰に渡したやつだ?
神霊としては、あんまり人と交流してないのに、解らない。
でもきっと、俺の神力が誤作動を招いたんだろう。
検証が必要だけれど、加護判定に引っかかったんだと思われる。
こんな事、術を組み立てる時、想定してなかった。そう、つまり俺が全面的に悪い。
「そんなに畏まらなくて良いから」
「いえ、そんな訳には」
やらかした、消滅したい。
「同年代でしょう? 敬語とか外して大丈夫よ」
「いいえ、この喋り方で慣れていますので」
そんなやり取りを、小声で暫くしていると、マブカガーデスは本当に、本当に口惜しそうにしながら水辺の方に引き返していった。
何度か立ち止まったり、振り返ったりしているみたいだったので、完全に気配が離れてから彼女を抱えて木を降りる。
早くここを離れよう。




