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異世界で隠しキャラやってます  作者: 鳥鼠 ゆき
1章アルカディア王国編

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ダンシングマニア

「あははははー!」


彼方此方から悲鳴が上がり、生者を死が追いかけ回す。

閉じ籠っていた人々は、王都の外に敵国の軍が迫っている事は知っていた。

当然もしもの時は、避難をするための準備もしていただろう。


「ヒーヒヒヒヒィー!」


しかし、実際彼らに迫ってきたのは、スワンカラー帝国青の公王軍では無かった。否、外側から確かに彼らは来てはいたのだが、人々を脅かしたのは別の存在だったのだ。


アンデッド、土の中から蘇る死体の魔物。

滅多に発生することのない、明確な人種の害敵。積極的な人々に対する殺意を持つこの魔物は、混乱と恐怖を増長させた。

一般的に魔物は人々にとっての驚異であるが、普通の肉食の魔物は腹が満たされれば満足する。強く賢いもの程、それぞれの縄張りから出ることはあまり無い。


だがアンデッドは違う、生者を見付ければ何処までも追ってくるし、際限など無く喰らうのだ。


それは生態系から逸脱した呪われた存在。



「あーはははーははっ!」


逃げ惑う住人たちを逆行しながら、空色の豪奢な神官服を着た老人が嗤い、踊り狂っていた。

その様子に人々はぎょっとして足を止める。


「大神官……様?」


「あれはクリストフ大神官様じゃないか!?」

群衆の中から、ぽつりぽつりとその老人の正体に気付く者が現れた。そう儀式や祭典などで、その老人の顔を記憶していた者は多い。


「ふふふははぁ! 皆なぜ逃げるのです?」

クリストフはそれに気が付くと、楽しそうにそう人々に問うた。


「何故って、アンデッドが迫って来ているんですよ!」


「帝国軍も!」


「早く逃げねぇと!」

人々は口々に言った。

しかし、大神官クリストフ・ミラージュランドはゆっくりと首を横に振り、解らないと示す。そして、両の腕を広げてにこやかに彼らに応えた。


「皆なぜ逃げるのです。私たちは罪人、これは全て天空の女神様からの慈悲なのですよ。赦しとは罰を受け入れてこそ、さぁ皆さん謹んで死にましょう!」


「な、何を言ってるんだ?」


「大神官様……?」


「償いの時がやっと来たのです、やっと、やっと来たのですよ。解らないのですか? 共に犠牲となった死者の群れに飛び込み、赦しを神に願おうではありませんか、そのために女神様が場を整えて下さったのですから」


そこで背後から大きな破壊の音がした。

生者を求めて大量の魔物たちが集まり、いよいよ背後に迫ってきたのだ。


大きな音がまた続く、王国の兵士が戦闘を開始したのかもしれない。


「何も怖くはありませんよ、永遠に罪を償えないよりは、さぁ皆さん」


「なんだこいつ、頭がおかしくなったのか?」


「つ、付き合ってられないわ」


「行こう、に、逃げるぞ」


そう言うと、人々は大神官だった人物を避けて走って行く。


それをクリストフは感情の抜け落ちた眼で見送り、人々が完全に自分の周りから離れると、広げていた手をゆっくりと下ろした。


「……そう……ですか、やはりこの国の人々は上から下まで、この私を含めて愚か者ばかりなのですね」


クリストフは、嘗ての自分と同じようだと思った。

すると心の底から、先ほどと同じように笑いが込み上げてくる、それは閉じていた唇を波打たせてとうとう溢れ出す。


「あはっあはははぁはあはーーはっーはっはぁっー! ぃひひひーー……」


クリストフは嗤い狂いながら、人々が逃げた方向とは逆に軽やかに進み始めた。

騎士たちがアンデッドを追い払うために付けたのだろう、炎が燃え上がる。それを乗り越えて不気味に不完全に蠢く人影が増えていく。それは血の気の抜けた死体で、青い人波となって押し寄せる。


「ああ、女神様、尊き天空の女神様、私の罪を私の命をもって償います」


重なり合った死体たちが腕を振る、それは一心不乱に生者を求めて伸ばされ、わらわらと不規則に、まるで一丸となって踊り狂っているようだった。


「おぉぉあ"あ"あぁあぁあーー」


「おア"ぉぉお"ぁあぁーーーー」


「いぃぃーのじぃぃーーーあぁ」


クリストフは騎士たちの防衛線をすり抜けて、そのアンデッドの群れへと自ら進んだ。


そうして周囲が止める間もなく、彼もその一部にと向かい入れられる、笑い踊り狂いながら……。


「あはははははぁはぁあぁああーーーー!! おごぉっ! ほごぉははぁー! おぉぉほおぉぉ……!」



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