空間魔術
ギルドマスターのレイチェルさんの説明によると、この地味目な彼は普段は他国の貴族と契約をしているポーターで、今回は長期のお休み中と言う事で個人的に協力してくれたそうだ。
いつも大量の物資を運んでいるとかで、彼以上の空間魔術師はレイチェルさんの知り合いには居ないらしい。
後々のためにこういう技能を持った仲間が欲しかったんだけれど、これは背景的にも勧誘は難しそうかな?
やっぱり高位の空間魔術師となると、国や貴族と契約しているのが、普通なんだよな。
本音を言えば能力は後でどうとでも出来るから、落ちこぼれの空間魔術師見習いの女の子とか、紹介してくれたらよかったんだけどそう上手くはいかないものだよね。
今の仲間は女性が多いし、その中に変に異性を入れたくない。
まぁ、今回は仕方がない臨時として彼にお願いする事になるだろうけどね。
「と言う訳で、彼に何かあると問題になりかねません、解っていると思いますがっ!」
「大丈夫ですよ。彼が戦闘に参加する事は、万が一にもないです、ご安心ください」
笑顔で手を差し出すと、彼も応えて握手をした。
「この度はご協力感謝します。ラサイアスです」
「シンです。荷の運搬はお任せください」
うん、握った手もふにゃふにゃだし、鍛えている感じじゃないな。
魔力は高そうだけれど神の目で見ても特別な力は見えない。
これなら僕のパーティーの中に入れても危険はなさそうだ、一番最近加わった子達よりも腕力が無いんじゃないかな。
彼はポーターのみ、空間魔術に特化した魔術師なのだろう。
他のメンバーとも当たり障りなく挨拶を済ませると、僕らは彼を連れてギルドを出る事にした。
何故か他の三人はポーターが男性だった事を喜んでいるみたいだったな。
「ご主人様ー」
「ライ様こちらです」
街の南門に近づくと、別れて買い出しに行ってくれていた仲間が手を振って迎えてくれる。
「や、お待たせ」
馬車が三台、それに食べ物や飲み物が満載されている。
みんな手分けして、僕がギルドに行っている間に用意してくれていた。
「お疲れ~」
「何もなかった?」
「それがさぁ……」
ポーターの彼は、その光景にちょっと驚いた様子でキョロキョロと僕の仲間を見回している。
ま、メイド服とかを着た美少女が冒険者をやっていたら驚くのは無理もない。
自慢じゃないけどみんな美人だしさ。
だからって、手を出したら許さないぞ。
「なんか……すごいですね……」
「ハハハ……」
これがハーレムパーティーって小声で言って居た。
聞こえてる、聞こえてるよ。
さて、早速荷物は彼が引き受けると申し出たので、お願いする事にした。
「我に宿りし力よ……保管せよ……」
彼が詠唱と共に魔力を込める、すると荷物の下に黒い影が出来上がり、荷物がスッと沈んで消えた。
発動が早い、それに詠唱も短くて、だいぶ端折っているみたいな感じだ。
「容量は問題ありませんか?」
「ええ、この百倍でも大丈夫ですよ」
しかも、まだまだ余裕が在るようだ。
まあ、その位でなくては此れからお願いする本命が入らないからな。
積んでいた荷物と荷馬車を一台余裕で収納して貰い、ずいぶん身軽になって僕らは街を出発する。
荷物が無いだけで馬の負担が大分減った。
二頭余った馬には、僕と褐色の女戦士アマルダが、それぞれ乗って馬車の横を並走する。
流石にレイチェルさんの紹介だけあって彼はとても優秀みたいだ。
彼と親しくなって空間魔術を教えてもらうのでも良いかもしれないな。