なにがなんだか
「入るよ!」
声をかけて悲鳴が聞こえたテントに僕ら三人は駆け込んだ。
「あーああーあーいやー!」
中ではまだ悲痛な声が響いていた。
「どうしたの?」
おろおろと集まっているメイドの一番外側に居る娘に声をかける。
「ラサイアス様!」
「ご主人様」
「旦那様」
彼女たちは口々に僕の事を呼び振り返った。
「何があったんだ?」
「セルジュ様が……」
言われてみると、メイドたちの奥ではセルジュがとり押されられていた。
「何をしているんだ!」
慌てて僕は、セルジュの周りのメイドたちの手を外そうとした。
「いやぁぁぁー!!」
するとセルジュは、その美しい白髪を振り乱して暴れだし、自分をかきむしろうとする。
「セルジュ様」
「セルジュ様しっかりして下さい」
嗚呼だからか、自分自身を傷付けようとするのを止めるために、メイド隊の娘たちはセルジュを押さえつけていたのだ。
よく見るとセルジュの指先には血が着いている。
「あぁ私の聖なる力が聖なる力がぁー」
「セルジュ! どうしたんだ?」
セルジュは狂ったように暴れていたが、僕の声を聞くとハッと正気を取り戻してこちらを見た。
ルビーの様な瞳に大粒の涙をためて、僕を見る。
「ライ様、ラサイアス様、勇者様……どうかあの悪魔を討って下さい。このままではこの地は闇に沈んでしまいます、どうか……どうか……」
「わかった、わかったから自分を傷つけるのはやめるんだ」
伸ばされた小さく震える手をとると、セルジュは安心したように目を閉じた。
「眠ってしまったようですね~」
可哀想に、くたりと力の抜けた彼女を、毛布の上に寝かせた。
取り敢えず、セルジュを安心させる事は出来たのかな。
でもその後、精神的に不安定な状態になっている娘は、セルジュだけでは無いとアーニャさんは言った。
聖剣が破壊されたところはみんなが見ていたのだ。
衝撃的な敗北の光景に、少なくない影響が出ているだろうと。
僕は何も言えず、アーニャさんにセルジュを任せて、その場を離れた。
僕自身混乱している。
この先どうしたら良いのだろう。
僕は、どうなるのだ。
聖剣を壊してしまったと国に知られれば僕は……
「ご主人様ー」
一人、思い悩んでいると後ろからリリーナに抱き着かれた。
ぎゅっと抱き締められる。
温かい。
そうだ、僕は仲間たちを守っていかなければならないんだ。
こんな所で弱気になって、立ち止まっては居られない。
彼奴は、僕たちを皆殺しに出来たのにしなかった。それはムカつくけれど余裕なのか、それとも何か他に理由があるのか。
考えなければならない事、やらなければならない事が沢山ある。
「主殿! あたしはまだやれるよ!」
後ろを振り返ると、包帯を巻いたアマルダが長剣を杖にするように立っている。
「私も最後まで付き合うわよ」
腕を組んで、眉間にシワをよせたセーラも、そう言って頷いた。
そうだよ、僕らはまだ生きているんだ。
まともに動ける者で相談をした結果、取り合えず聖剣が破壊された事は隠す方針に決まった。
適当な業物の刀身を入れて、体裁を整える。
鞘におさめた状態で腰につけると、今までと変わり無いみたいだった。
「兎に角街に戻って、動けない仲間の治療と、あいつを見付けないと」
「治療はいいとして、見つけてどうするのよ?」
僕が言うとセーラが聞いてきた。
どうするって……
「奪われたものは奪い返す!」
「あいつの羽根が聖剣の材料なら、むしってまた作ればいいのです」
アマルダとリリーナの発言が物騒だな。
でも、それが出来れば解決なんだけれど。
何はともあれ、先ずは行動しなきゃ。
作業人数が減ってしまったので、テントの撤去に思わぬ時間をくったが、動けない仲間を馬車に分乗させて出発する。
南門は近くに見えているので、すぐに入門手続きの最後尾に並んだ。
朝の混雑に当たってしまったため、結構待たされる事になりそうだな。
「……」
「……」
手続きの順番が進むにつれて、仲間は押し黙った。
負けて帰るなど今までに無かった事だもんな。
それに大丈夫だとは思うが、聖剣の事がばれてしまわないか、僕も緊張していた。
僕らの順番が来ると、門を警備する兵士が三人近付いて来る。
三人なら、加護が無くとも何とかなるはずだ。
大丈夫。
大丈夫。
落ち着け。
そもそも聖剣の事は、そこらの兵士は知らないはずだ。
「身分証の提示をお願いします」
「はい」
不自然なところが無いように気を付けないと。
兵士は僕から、ギルドカードと奴隷の所有証を受け取った。
「これは!」
「な、なにか問題でもありましたか?」
何もないはずだ。
だが兵士は、ギルドカードの名前を確認すると、後ろを振り向いていきなり叫んだ。
「みんな! ドラゴンスレイヤー様のご到着だぞー!!」
「おお!」
「やっと勇者ご一行様の到着だ!」
周りに居た町人たちも、その声を聞いて大騒ぎを始めた。
兵士は僕たちの審査はそこそこに、前を空ける。
門を通ると、待っていたとばかりに花吹雪が舞った。
な、なんだ、なにが起きてる!?