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異世界で隠しキャラやってます  作者: 鳥鼠 ゆき
1章アルカディア王国編
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なにがなんだか

「入るよ!」

声をかけて悲鳴が聞こえたテントに僕ら三人は駆け込んだ。


「あーああーあーいやー!」


中ではまだ悲痛な声が響いていた。

「どうしたの?」


おろおろと集まっているメイドの一番外側に居る娘に声をかける。

「ラサイアス様!」

「ご主人様」

「旦那様」

彼女たちは口々に僕の事を呼び振り返った。


「何があったんだ?」

「セルジュ様が……」


言われてみると、メイドたちの奥ではセルジュがとり押されられていた。

「何をしているんだ!」

慌てて僕は、セルジュの周りのメイドたちの手を外そうとした。

「いやぁぁぁー!!」

するとセルジュは、その美しい白髪を振り乱して暴れだし、自分をかきむしろうとする。

「セルジュ様」

「セルジュ様しっかりして下さい」


嗚呼だからか、自分自身を傷付けようとするのを止めるために、メイド隊の娘たちはセルジュを押さえつけていたのだ。


よく見るとセルジュの指先には血が着いている。


「あぁ私の聖なる力が聖なる力がぁー」


「セルジュ! どうしたんだ?」


セルジュは狂ったように暴れていたが、僕の声を聞くとハッと正気を取り戻してこちらを見た。


ルビーの様な瞳に大粒の涙をためて、僕を見る。

「ライ様、ラサイアス様、勇者様……どうかあの悪魔を討って下さい。このままではこの地は闇に沈んでしまいます、どうか……どうか……」


「わかった、わかったから自分を傷つけるのはやめるんだ」

伸ばされた小さく震える手をとると、セルジュは安心したように目を閉じた。


「眠ってしまったようですね~」

可哀想に、くたりと力の抜けた彼女を、毛布の上に寝かせた。

取り敢えず、セルジュを安心させる事は出来たのかな。


でもその後、精神的に不安定な状態になっている娘は、セルジュだけでは無いとアーニャさんは言った。

聖剣が破壊されたところはみんなが見ていたのだ。

衝撃的な敗北の光景に、少なくない影響が出ているだろうと。


僕は何も言えず、アーニャさんにセルジュを任せて、その場を離れた。


僕自身混乱している。

この先どうしたら良いのだろう。

僕は、どうなるのだ。


聖剣を壊してしまったと国に知られれば僕は……



「ご主人様ー」

一人、思い悩んでいると後ろからリリーナに抱き着かれた。

ぎゅっと抱き締められる。

温かい。


そうだ、僕は仲間たちを守っていかなければならないんだ。

こんな所で弱気になって、立ち止まっては居られない。

彼奴は、僕たちを皆殺しに出来たのにしなかった。それはムカつくけれど余裕なのか、それとも何か他に理由があるのか。


考えなければならない事、やらなければならない事が沢山ある。


「主殿! あたしはまだやれるよ!」

後ろを振り返ると、包帯を巻いたアマルダが長剣を杖にするように立っている。


「私も最後まで付き合うわよ」

腕を組んで、眉間にシワをよせたセーラも、そう言って頷いた。


そうだよ、僕らはまだ生きているんだ。





まともに動ける者で相談をした結果、取り合えず聖剣が破壊された事は隠す方針に決まった。

適当な業物の刀身を入れて、体裁を整える。


鞘におさめた状態で腰につけると、今までと変わり無いみたいだった。


「兎に角街に戻って、動けない仲間の治療と、あいつを見付けないと」


「治療はいいとして、見つけてどうするのよ?」

僕が言うとセーラが聞いてきた。

どうするって……


「奪われたものは奪い返す!」


「あいつの羽根が聖剣の材料なら、むしってまた作ればいいのです」


アマルダとリリーナの発言が物騒だな。

でも、それが出来れば解決なんだけれど。


何はともあれ、先ずは行動しなきゃ。


作業人数が減ってしまったので、テントの撤去に思わぬ時間をくったが、動けない仲間を馬車に分乗させて出発する。

南門は近くに見えているので、すぐに入門手続きの最後尾に並んだ。



朝の混雑に当たってしまったため、結構待たされる事になりそうだな。


「……」


「……」

手続きの順番が進むにつれて、仲間は押し黙った。

負けて帰るなど今までに無かった事だもんな。


それに大丈夫だとは思うが、聖剣の事がばれてしまわないか、僕も緊張していた。



僕らの順番が来ると、門を警備する兵士が三人近付いて来る。

三人なら、加護が無くとも何とかなるはずだ。

大丈夫。

大丈夫。


落ち着け。

そもそも聖剣の事は、そこらの兵士は知らないはずだ。

「身分証の提示をお願いします」


「はい」


不自然なところが無いように気を付けないと。

兵士は僕から、ギルドカードと奴隷の所有証を受け取った。


「これは!」


「な、なにか問題でもありましたか?」

何もないはずだ。

だが兵士は、ギルドカードの名前を確認すると、後ろを振り向いていきなり叫んだ。

「みんな! ドラゴンスレイヤー様のご到着だぞー!!」


「おお!」


「やっと勇者ご一行様の到着だ!」


周りに居た町人たちも、その声を聞いて大騒ぎを始めた。


兵士は僕たちの審査はそこそこに、前を空ける。

門を通ると、待っていたとばかりに花吹雪が舞った。


な、なんだ、なにが起きてる!?

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