そして朝が来た
少年は少女の後を追いかけていた。
真ん中できっちり二つに分けて、リボンで結ばれた青い長い髪。
自分より小さな背中が石壁の隙間を潜る。
「本当に聖剣があるのか確かめてみましょうよ、ラサイアス!」
そう悪戯っぽく緑の瞳が笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
目を開くと褐色の連山が見える。
連山、それは豊満なアマルダの女性としての象徴で、仰向けのそれは重力で流れそうなところを弾ける若さと筋肉で捩じ伏せ。
露出の高いビキニアーマーから、えーっと……
「なにしてたんだっけ?」
ぼんやりとする頭を持ち上げて、僕は周囲を確認する。
記憶に、霞がかかったように思い出せない。
何故かみんな着の身着のまま、テントの中に雑魚寝していた。
目の前のアマルダなんて鎧着けたままだし、リリーナも……
「リリーナ!!」
全て思い出した。
僕は毛布に突っ伏して、死んだ蛙のように転がっているリリーナを、抱き起こす。
すると、彼女は僕の腕のなかで身動ぎした。生きている。
「うぅ……ごしゅじ……うさぎは、ごびむず……ぃ……」
何事かむにゃむにゃ寝言を言うも、起きる様子はない。
「あ、あれ……夢」
リリーナをそっと横に寝かして、傍らにあった毛布をかけ直した。
なんて悪夢なんだ……
顔に手を当てて頭を振った、聖剣が破壊されるなんて。
まだテントの外は薄暗い様だし、僕も寝直そう。そう思い座り直すと、カランと何かを蹴っ飛ばした音がした。
音の正体を確かめようと、何の気なしに僕はそちらを見る、そこには刀身のない聖剣の鍔と柄が転がっていた。
「みんな! 起きて! みんな起きてくれ!」
仲間たちに声をかけて、動き出したのを確認しながらテントの外を伺った。
チラリと覗くと草原が見える。敵が居ない事に安堵して、外に出た。
「ここは、街道か」
そこは街道沿いにある旅人のための空き地で、僕が出てきたテントの後ろには僕らがマブカ山に、張っていた他のテントもそっくりそのまま移動させられていた。
馬車も傍らに停めてあり、馬には餌や水が用意され、世話がされた跡があった。
明らかにあのポーターの仕業じゃないか!?
周囲を見渡すが、彼奴の姿は無く。
昨日の閉門に、間に合わなかった旅人や商人が、南門に向かっているのが見えるだけだ。
「くそっ!」
僕は怒りに任せて地面を蹴った。
「ラサイアス……」
小さく声がして、振り返る。
そこには魔力の使いすぎで憔悴した、セーラが立っていた。
「昨日のこと」
「なんだよ?」
「いえ、なんでもないわ……」
何か言いたい事があるならば言えばいいのに、セーラは唇をキュッと噛んで黙ってしまった。
そうしていると、アーニャさんが後ろのテントから出て来る。
何時もののんびりした様子はなく、表情が暗い。
僕らを見つけると走りよって来た。
「ラサイアス様~確認いたしましたが~あちらのテントだけでも~約半数の娘たちが身動きがとれない状態です~」
「なんだって!?」
そうだった、仲間がみんなやられているんだ。
昨夜の戦闘の後半はよく覚えていないけど、手も足も出ずに叩きのめされたのは確かだ、誰かが大怪我したり、死亡していてもおかしくない。
「酷いの?」
「怪我は大したことないんですが~」
一番外傷が酷いのがアマルダだそうだが、それでも動けないと言う程じゃないらしい。
「ただ、原因不明の脱力感を訴えています~酷い娘になると起き上がるのも難しい様で~」
物憂げに、アーニャさんは睫毛を伏せてため息を吐いた。
「それに加護が発動しなくて~、ここではきちんとした検査も出来ません~」
加護が発動しない。
解っていたが、その言葉に僕もセーラも凍りついた。
僕の腰には空の鞘だけが、ぶら下がっている。
聖剣フェザースターが破壊された、そのせいで加護が失われたんだろう。
僕の責任だ。
僕が負けてしまったから、聖剣の力は消えた。
アルカディア王国から、人の手から聖剣が失われたんだ。
「きゃあああーー!!」
くっ悲鳴!? 今度はなんだ?
後ろのテントから少女の悲鳴が聞こえた。