言い掛かりだ……
神勅の実行を宣言すると、俺は翼を広げた。
自分の頭の上で、二つの光輪が光を放つのが解る。
酷く沈んだ気持ちで少年少女たちの顔を見返す、これから俺は彼らの人生を台無しにする。
「て、天使」
このパーティーの主人である少年が、腰を引きながらそう言った。
彼はこの国の決まりで言えばもう大人だが、俺から見たらまだほんの子供だ。
子供が間違いを犯すのは周りの大人がいけないのに。
「違いますライ様! よくご覧ください、左側の翼を!」
白い髪の少女が必死の形相で叫んだので、何かあったっけと自分の翼を前に掲げて見る。
別に何もなくて首を捻った、もしかして単純な罠に引っ掛かってしまったかと思ったが、彼等も俺の左翼を見て息を飲んで固まっていた。
攻撃の隙を作った訳では無かったのか。
「黒く染まっている」
「この穢らわしい堕天使め! よくもありもしない嘘で勇者様を貶めましたね!」
堕天使、悪魔の使いと少女たちが口々に呟いた。
そう思いたいと言うのもあるのだろうが、あまり良くない傾向だ。
自分のした事は、自身が一番よく知っている筈なのだ。
しかし何故、白色信仰と言うか黒い色を嫌うのか、メディアに毒されている訳ないはずなのに、不思議だな。
もしかしたら本能的に人種は黒色を恐れるのだろうか?
翼の色は単純に属性を現しているだけなのだが、今説明しても聞く耳は持たないだろう。
そう言えば、ライオネルも黒い羽根を受け取らなかった。
あの時、彼が2枚とも受け取っていたなら何か変わっていただろうか?
いや、どうだろうな……これは言い掛かりだ。
「私は堕天した覚えはありませんが」
「黙りなさい悪魔! みんなもこいつの話を聞いてはダメです」
白い髪の少女の呼び掛けで、彼等は気力を取り戻す。
どちらにせよ、始めから話し合いの余地などない。
「まあ、なんでも良いですが兎に角約束は果たさせていただきますよ」
そう言って俺は右に移動する、ピンクのウサギの少女が攻撃を外して通り過ぎて行くので、手を伸ばしてナイフを持つ手を捕まえた。
「っと」
右手でナイフを持った手を押さえて、左手を後頭部に乗せそっと魔力を流すと少女の瞳はぐるんと上を向いて気を失った。
「あ……」
「貴方の仲間は全員女の子で、何処を触ってもセクハラになりそうでやりにくいですね」
手を離すと重力に従って少女の身体は落ちていく、地面に着く事なく闇の中へ。
「リリーナァ!!」
少年の絶叫が暗い森に木霊した。
「ラサイアス! 殺るしかないわ」
少年に声を掛けたのは、真っ青な髪を耳の上でツインテールにしたお嬢様風の少女だ。
決意を籠めた表情をすると、魔力を練り始める。
彼女につられて周りに居た数名のメイドたちも魔術の詠唱を始めた。
「主殿!」
そんな魔術師たちを守るように前に出て、長剣を構えたのは褐色の肌の女戦士。
油断無く剣を構えて俺を牽制している、なかなか良い動きですね。
「……はぁ……はぁ」
「ラサイアス」
「ライ様!」
「主殿!」
少女たちの呼び掛けに、ラサイアス少年はぎりりと歯を噛み締め、自称聖剣の鞘を払った。
「やる……やってやる……お前は僕が絶対に超えなければならない壁だ!」
「ちゃんと貴方の方は自覚があるんですね」
「何を言っているのか解らないな!」
「そうですか……」
少年の答えに少しがっかりしつつも、此処に至っては彼を助ける方法は無いのだと、諦めるより他はない。
「ではやりましょうか、私の名はシンであり真、天使名をトゥルーエルと言います短い間ですが宜しくお願い致します」
軽く頭を下げて礼をとり、右手に魔力で白い剣を作り出し、同じ様に左手には黒い剣作る。
構えをとる前に女戦士、確かアマルダさんと言ったか、彼女が突っ込んで来る。
だがそれでも遅い。
剣を交える金属音が響く。
「くっ片手で!」
「アマルダさんでしたか、この集団の中では戦士として貴女が一番まともです」
一合、二合と、彼女が全力で打ち込んでくる攻撃をきっちり合わせて受け止める。
軽いと言ったら失礼だろうが、加護を受けてもなお練度が低い。
「貴女が頑張らないと」
「うるせぇ!」
まるで肉食獣の様に女戦士は牙を剥いて叫ぶ。
振りが大きくなったので一歩後ろに後退すると、側面から近付いて来ていたメイドの少女のナイフを弾き飛ばす。
がら空きになった肩にそっと触れて、さっきの獣人の娘と同じ様に闇属性の魔力を流した。
その少女が倒れると同時に収納までが流れ作業。
「くそっまたしても!」
「みんな気を付けて彼奴の左手に触られたら終わりよ!」
青髪の少女が指示をだす。
別に左手限定では無いんですけどね。