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紅き月雫  作者: 陰陽堂
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 愛とはなんだろうか。

 人は簡単に愛という言葉を使う。そんな気軽に使える言葉にもかかわらず、愛とはなにかと問われたとき多くの人は戸惑いを見せる。

 分からないのだ。

 たとえば親が自らの子が遊んでいるのを笑顔で見ているとき、多くの人はそこに愛を感じる。このように、ある事象を目にしたときそれが愛だということを認識することは難しいことではない。

 では何故人は愛とは何かと問われると答えられないのだろうか。

 それは愛という言葉が概念的な存在だからである。そういうものだということは理解ができる。ただ頭で分かっているからといって、それを説明できるわけではないのだ。だから、愛という概念をアウトプットしようとすると、それまではっきりしていたはずの枠組みが曖昧となってしまい、愛という概念それすらもぼんやりとしてしまう。愛とはその姿をつかむことが困難なのである。この困難性こそが愛を説明できないゆえんなのだ。

 愛とはまさしく水のようである。

 容器におさめられることによって、初めてその形を認識することが可能になる。ここでいう容器とは、愛の実感を得た経験であり、愛を感じた実際の場面である。

 愛とは形のないものである。

 それが私の下した結論である。形のない愛を形作るのは、あくまでわれわれの意識である。そしてその形は個々人によって異なるものとなる。

 そう。この事実こそ最も重要なのである。

 愛とはその人間の経験や価値観、または信条、門戸等の人によって異なる様々なものによって、如何様にも形を変えうるものなのである。

 だから、私にとっての愛するという感情は、必ずしも他の人間にとっての愛するという感情には満たないもの、ということも十分にあり得ることなのである。

 だから私は確かめたいのだ。人によって異なる様々な愛の形を。

 私の愛は蹂躙されてしまった。そしてそれは最早取り戻すことが不可能となってしまった。それについては後悔ももちろんある。憎みもした。けれども、私にはどうしようもなかった。

 だからこれは復讐ではない。私怨といわれてしまえばそれまでだが、私にとっては少なくとも復讐であるという認識はない。

 これもまた愛なのだ。そして愛には犠牲がつきものなのだ。

 首尾一貫してそう思っているはずだった。だが揺らぎが生じた。不安に駆られてしまった。そわそわして何も手を付けることができないとき、人はどうするのだろうか。

 例えば試験を受けているとき。答えはこれであっているのか不安になったとき。もう一度問題文を読み直したり、はたまた計算を何度もやり直したり、など。そういったことをするはずである。

 それは確認というものである。

 そう。だから私もそのような例に倣って確認することにしたのである。

 結果は、いや、結果については言うべきではないだろう。

 ただこれだけは言いたい。偉そうに愛とは個々人によって異なると言った。しかしそれ以上に強烈なものに人間は侵されがちなのである。

 それは端的にいえば、「出る杭は打たれる」ということわざに集約される。すなわち世間体だとかにとらわれて、自らの意識を没個性化させてしまうのである。

 だから人の行動は基本的に画一的になってしまう。したがって愛もまた画一化されたものとなって発現してしまうのである。

 確認についても結局はそうなると思っていた。

 だが現実は違った。

 だがそれは世間体や倫理といったものとは全く正反対のものとなってしまった。

 そして、正反対の形を保って画一化してしまったのである。

 これは面白い。私は不覚にもそう思ってしまった。

 これは悲劇でしかないのにもかかわらず。


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