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もしも、海賊から帰るのが遅かったら(1)

 はっと目をさました私は、慌てて起き上がった。

 周りを見渡して、ここが海賊のアジトだと気が付きほっと息を吐いた。

「良かった……本当に良かった」

 一寸前に立ったフラグの恐ろしさに、私は自分を抱きしめる様に腕を回す。

 何故、突然クロと恋愛フラグが立つ夢なんて見たのだろう。なんだ? 私は深層心理の中でクロとそういう関係になりたいと思っていたのか? それともIFの私がそう思っているのか? 


 想定外すぎる夢の内容に、心臓がまだドキドキいっている。

 とりあえず、アレが私の深層心理でない事を祈るばかりだ。私に好かれるなんて、クロが可哀想すぎるし、将来王子様に恋なんてしていたら私も色んな意味で可哀想な人になってしまう。

「目が覚めたようじゃのう」

「トキワさん……」

 ふらりと現れたトキワさんの名前を私は呼びながら息を吐いた。私がとんでもない悪夢を見てうなされていたというのに、目が覚めた後に現れるなんて自由な人だなと少しだけイラッとする。でもこれはただの八つ当たりに過ぎない感情だ。トキワさんは夢の内容なんて知らないのだし、自分としてもあまり知られたくない。

「ここは元の時間ではなく、お主が海賊に攫われた頃の時間なのじゃ。ここでも発言は気を付けるのじゃぞ」

「えっ?」

 何やら私の頭痛を増やされかねない言葉に、脳みそが理解を拒む。

 

「そう上手く元の時間には戻れんからのう。しばらくは時を渡り歩く事になりそうじゃ。なに、心配するではない。いつかは元の場所に戻れるはずじゃからのう」

「いや。そうじゃなくて。……移動したの?」

 まさか。えっ。

 じゃあ、アレは?

「何じゃ。お主が移動したいと言ったのじゃぞ? クロとチチクリあいたかったかもしれんがのう、アレはお主の世界ではない――。どうしたんじゃ?」

「フラグなんていつたった……」

 立った。立った。フラグが立った――なんて、クララが立ったのノリで言ってみたとしても、笑えない。

「そうじゃのう。クロを庇って、海賊に囚われた時かのう。クロはオクトへの気持ちに気が付いて――」

「あーあー。聞きたくない」

 私は耳を押さえて誤魔化す。ごめんIFの世界の私。クロは優良物件だら頑張って。きっと、何とかなる――気がする。うん。私だけど、私じゃないのだもの。


「なんじゃ、あの後どうなるか気にはならんのか?」

「気になるには気になるけど……一人で緑の大地に戻る事になったし」

 私にはアスタが居たが、IFの私には誰もいない。たくさんの子供と一緒に育ったので、私よりは対人スキルが鍛えられているとは思うが、私には違いないので、どれぐらい頑張れるか。

「あの後、オクトを引き取る相手によって、色々人生が変わるようじゃのう」

「引き取る相手?」

 そう言えば、あのIFの世界の私はまだ保護者がいる年齢だ。ただ学校の寮に放り込めばオッケーというわけにはいかないだろう。

 私が聞くと、トキワは別の場所を見ているかのような目で、遠くを眺めた。

「いけ好かぬ、オクトの義父か、義兄か、館長かのう」

「えっ」

 まあ、アスタは分かる。元々私の義父だったのだから。それ以外の選択肢がヘキサ兄と館長。……時期的に館長はエストだろうか。

「何じゃ。カミュは無理じゃぞ。お主より年上とはいえ、子供じゃからのう」

「違う」

 そういう不満があるわけではない。

 むしろカミュが親だったらもっと大変な事になっていたと思う。主に、いろんな事件に巻き込まれて、私の命と胃痛的な問題で。

 うん。IFの私頑張れと、とりあえず丸投げする事にした。強く生きろ。きっと、大丈夫だ。


「……それで、ここはまた海賊のアジトなんだっけ?」

 そう言えば先ほどまでは船の中だったのに、今度は普通の陸地のようだ。というか、この建物、アールベロ国にあるものではないだろうか。

「そうじゃ。今はこの世界のオクトが買物帰りに海賊に捕まって、半月がたった所じゃ」

「へぇ」

 そっか。

 この世界の私の記憶を振り返ってみたが、私の記憶とあまり差がない。アスタに引き取られてしばらくした所で、海賊の人さらい現場を目撃して連れ去られたようだ。

 となれば、ここは私のただの過去という事でいいのだろうか――ん? ちょっと待て。

「トキワさん。私は2週間目の日にアスタの所に帰るんじゃ?」

 確か2週間経った所で、病気も改善し、船長の所へ会いに行ったような気がする。だから半月未満で家に帰っていたはずだ。


「この世界のオクトは、まだ船長の所に会いに行っておらんのう。じゃから、カミュとの会合イベントはせずに15日が経った所じゃ」

 ん?

 あれ?

 いや、でも。たった1日の違いだし。

 何故か嫌な予感がして、背中がゾクゾクとする。たぶん風邪を引いたわけではないけれど、頭痛までしてくる。

 確かあの時、私がカミュの協力もあって帰った事により、間一髪アスタが仕事を休んで私を連れ戻しに来るのを阻止できたような――。



『どぉぉぉぉぉぉんっ!!』



 何故か、和太鼓を打ち鳴らしたような音がして、私は飛び上るようにベッドから降りた。そして部屋の外へ出る。

 廊下には何人もの海賊がいた。

「どうしたの?」

「わかんねぇ」

 聞いてみたが、誰もこの男が何の音か分からなかったようだ。でも明らかな異常音に、確認しに行くかと外へ向かって皆は移動していく。

 私も気になるが、建物の外へ出ると船長に文句を言われるだろう。その為、彼らについて外へ出る事が出来ない。

 しばらくして、再び同じような体の中心にまで響くような音が鳴った。和太鼓がこの国にあるはずもないので、これは和太鼓ではない。では、何の音なのか。


「オクト、ここに居たのか?!」

「ライ?」

 私が知っているライより、小さなライが走って私の所へやって来た。無駄にぐんぐん伸びた背も顔の傷もない。それを見て、改めてここが過去の世界であるのだと理解する。

 でもこんな爆音は私の記憶にはない。

「危ないからここに居ろよ。俺は、船の様子を見に行くから」

「船?」

 この音の出どころは船なのだろうか?

 船だとすれば大砲とかの音が考えられる。ここは海賊のアジト。何があってもおかしくはない。この時期ならば、カミュが関わっているので、国から攻撃される事はないとは思うが、他の海賊からというのはあり得る。

「魔族が船を攻撃して暴れまわってるらしいんだよ。俺も魔族は知ってるけど、おっかない奴らなんだぜ。魔力が凄く高い種族なんだけどさ」

 ……うん。たぶん私もライと同じ魔族を知っていると思う。

 アスタの魔力はかなり高い。その上、魔法の知識も技術も並はずれている。魔族というのは一点集中型で、1つの事が気になるととことんまでこだわるオタク体質なので、魔法オタクになったアスタに敵う魔術師にまだ私は出会った事がない。


「聞いた話だと、俺の娘を返せって攻撃してるらしくてさ。連れ去った子達の中に、その魔族の子が居たのかもしれないな」

「俺の娘を返せ?」

「いくら魔力が強いからって、魔族の娘に手を出すとか、本当にここの海賊って馬鹿だよなぁ。ま、そんなわけで、俺もちょっと見て来るわ」

 私は立ち去ろうとするライの服の裾を掴んだ。

 そして、フルフルと首を横に振る。駄目だ。このままじゃ。

「何だよ。大丈夫だって。俺も一応魔法の心得があるし。結構こうみえて強いんだぜ?」

 私がライを心配していると勘違いしたらしくライがポンポンと私の頭を叩く。

 勿論心配していないわけではない。とてつもなく心配している。そしてその心配は、一緒についていかなければ、なくならない気がする。

「私も行く」

「何言ってるんだよ。オクトにできる事は何もないし、それぐらいなら皆の為に料理でも――」

「駄目。私も行く。行かないと、もっと大変な事になる」

 嫌な予感しかしないのだ。

 本当はそんな危険な場所についていくのは凄く嫌だけど、でも行かなければ折角助けた海賊達の命が風前の灯火状態になりかねない。

「死にたくないなら、連れてけ」

 私はとてつもなく切羽詰った状態で、ライに命令するかのようにお願いした。

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