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もしも、アスタに引き取られなかったら(2)

「海賊の所に行ってくる」


 待てるだけクロ達の帰りを待っていたが、私は日が落ちたところで、残った子供達にそう伝えた。いくらなんでも遅すぎる。そこから導き出される答えは、作戦の失敗だ。

「オクト、あたしも」

 その言葉に、私は首を振った。

 大人数で行った所で、クロ達を助けられるわけでもない。……そもそも、まだ生きているという保証もないのだ。

 相手は海賊。

 そこに手を出したのだから、代償は大きくて当たり前。それを分かった上で私はクロ達を見送ってしまったのだから、それ相応の覚悟は必要だ。


「大丈夫。生きていれば連れて帰って来るし、死んでても私は戻って来る。だから私が戻るまで、妹たちの面倒をみてて」

 私は残った子供達の中で一番年上の少女にそう伝える。もしもここで私が戻らなければ、ここに居る子供達は飢え死にしてしまう。だから、何があっても戻らないといけない。

 それに。

「たぶん、クロは生きてるから」

 私はこことは違う時間軸だけれど、大きくなったクロと再び出会ってる。この時間軸で私というお荷物をクロが抱える事になってしまったとしても、大きな流れは変わっていないのではないだろうか。

 それに海賊というのも、もしかしたらという相手が私には思い浮かんでいた。

「お願い」

 赤毛の子供が、真剣な顔で私の言葉に頷くのを見て外へ出た。

 

 暗くなった路地を、小走りで海の方へ向かって移動する。ランタンぐらい持ってこれば良かったなと途中で思うが、それぐらい私も動揺していたのだから仕方がない。何も見えないというほど暗いわけではないので、何とかなるだろう。

 光を魔法で灯すこともできるが、むやみに魔法は使わない方が良いだろう。魔法を使うのは最後の手段だ。

「トキワさん、居る?」

「おるぞ。なんじゃ」

「クロはこの時間軸で、ちゃんと生きてるの?」

「それは選択肢次第なのじゃ」

 そんな事は知っている。

 選択肢て時間が分かれていくなら、死んだ世界と死ななかった世界が存在するだろう。でもここはどの世界へ繋がってしまったのか。

「……今は生きておるよ」

「そう」

 良かった。

 生きているという言葉に私は少しだけ力が抜ける。

「私がクロを助けに行くのは問題ない?」

「この時間のオクトも同じ行動をとるから問題はないぞ。ただし、魔法は使ってはならぬ。この時間のオクトは魔法がまだ使えぬからのう」

「まだ?」

「さて、それも選択肢の一つじゃ」

 この時間軸の先でも私が魔法を学ぶという選択は出て来るのだろうか?

 実際私は混ぜモノなので魔法を学んで、暴走をしないようにした方がいい。でも孤児で、女盗賊で、ギリギリの生活をするこの先に、そんな未来があるように思えない。


「選択肢を変え、違う世界となっても、出会うべき人には別の形で出会っていく。不思議なものじゃ」

「違う形?」

「運命の女神はもうおらんが、今もなお予定された世界におるかのように時は流れておるのじゃ」

 出会うべき人には出会う。

 だとしたら――。

 港へ出ると大きな船舶が停泊しているのがみえた。暗いのでどういう色をしているかまでは見えない。でも、何となく見覚えがある気がする。

 船の形なんてどれも同じようなものだからかもしれないけれど。


 こそこそと船に忍び込んでクロ達を探すというのもありだが、クロが私を置いていった事を考えると、この世界の私もそれほど運動神経がいいわけではないという事。力もないに等しい。

 そしてもしも忍び込んで海賊に見つかった時、どうなるか分からない。ここに居る海賊が混ぜモノについての知識をちゃんと持っているとは限らないのだ。

 最悪、嬲り殺されて暴走して、この国と心中という事だってあり得る。

「すみません!」

 私は普段出さないぐらいの大きな声で甲板の上にいた人に声をかけた。

 相手は海賊。憂さ晴らしに殴る蹴るとかされるかもしれない。私の体で殴る蹴るなどされたら死んでしまう可能性が高い。

 でも真正面から交渉するしかない。小さな姿の私にある武器は知識だけだ。

「なんだ、ボウズ」

 あ、そうか。

 この国で生き残る為、私は女の子のものではなく、男の子の服を着ていた。男の子のような恰好と、海賊。この時間ではない別の時間での内容が頭を流れる。

 まるでデジャブのように。


「ここに小さな子供が忍び込みませんでしたか?」

「あ?」

 お腹に響くようなドスの聞いた低い声。

 距離は離れているが、足がすくむ。それでも、逃げるわけにはいかない。ここで逃げたら試合終了だ。クロとはもう会えなくなってしまう。

「クロは私の兄です。忍び込んだ事は謝ります。だから、返して下さい」

「ああ。あの生意気なガキの事か。ここへ忍び込んだんだ。けじめをつけないとな」

「お願いします! 私にはクロしかいない。返して」

 情に訴えても、それほど勝ち目があるようには思えない。

 ここで彼の気を引くにはどうしたらいいだろう。魔法を使えばたぶん興味を持ってもらえるだろう。でもそれはこの世界のオクトができる内容ではない。

「そんな事を言われてもな。船長が許したら帰してやるよ」

「なら、船長に合わせて」

「子供が一人増えたところで何も変わらんぞ。兄は死んだと思って生きな」

「思えるわけない」

 まだ死んでいない。

 死んでいないのに、死んだと思えるわけがないのだ。

「私がクロの代わりに船長にわびを入れる」

 クロはあの子供達にも必要な存在なのだ。クロだけじゃない。年長者が居なくなれば、本当に彼らは死んでしまう。

 この先がバッドエンドへ繋がっているなら、別の道を選ぶしかない。


 私の言葉に、男は大声で笑った。

 馬鹿にされているのは分かる。実際見た目が5歳程度の子供が何を言っているんだという話だろう。

「お前がわびを入れても何も変わらんぞ。その度胸は、気にいられるかもだけどな」

「勿論、ただとは言わない」

 でも馬鹿にされたからって、引くわけにはいかない。

「何だ? 金でも出すのか?」

「お金はない」

 そもそもお金があれば、クロはこんな場所に盗みに入ったりしなかったのだ。この国が、もっと福祉に力を入れて孤児を何とかしてくれていればいいのにと思うが、そんなもの王様の考え一つだ。

 王様がこんな貧民層の実情を知っているとは思えない。

 そしてそんな王様に、今すぐ頼れるはずもないのだ。

「でも、高く売れる知識がある」

「はあ? 知識?」

 何だそれと、再び笑われた。

 まあ5歳児の言葉だ。まともに受け取ってもらえはしないだろう。

 でも受け取ってもらうしかないのだ。


「病人がいると聞いた。もしかして、海の精霊族に好かれると罹る病気では?」

「……何で知っているんだ?」

 やっぱりか。

「航海を終えたばかりの海賊だから、可能性の問題」

 海の精霊族なんて本当はいないけれど、目に見えない分からない病気だから、精霊族の所為にされる。時の精霊族であるトキワさんが怒りそうな理論だけど。

「私は、その病気を治せる」

 一度できたのだ。

 もしかしたら重症の病人もいるかもしれない。でも、やるしかない。

「へえ。それが本当なら、凄いじゃないっすか」

 背後から声をかけられ、私はビクッとする。

 振り返るとそこには、どこまでも鮮やかな赤毛の青年がランタンを持って立っていた。

「副船長」

 彼が副船長。

 髪の毛が見える為印象がだいぶんと変わってしまうけれど、その姿は見覚えがあった。

 ……ロキ。

 私が海賊の世話になった時、ライの次にお世話になった人だ。まさか、たった2年で副船長に上り詰めていたなんて。


「俺はロキって言うっす。名前、教えてもらってもいいっすか?」

「オクト」

 副船長にまでなれたのだから、彼もまた一筋縄ではいかない相手だとは分かっている。でも別の時間軸の、優しい彼とかぶって、素直に私は名前を答えてしまった。

「オクトちゃんっすね。それで、病気を治せるというのは本当っすか? 嘘をつくと後が大変っすよ。今なら何もされないっすから」

「本当。私は、その病気を治せる」

 再び感じる、デジャヴ。

「取引したい」

「それは俺とっすか?」

「違う。海賊の一番偉い人……。それだけの価値があると思う」

 あの時、こんな会話をしたのは、ロキではなくライだった。でもここにライは居ない。……ロキは信じても大丈夫だろうか?

 不安が渦巻く。

 でも、どうしてもクロを助けたい。例えこの時間が、私には関係のないものだとしても。

「確かにそれが本当なら、船長も会いたがるっすね。俺が案内するっすよ」

 ロキはニコリと笑うと、私の右手を握った。

 その手は、やっぱり知っている手と同じで、どうしても気を許してしまいそうになる。そんな気分を必死に止めながら、私は船長室までの道を歩いた。

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