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もしも、ママが生きていたら(2)

「こんな感じ?」

 よく分からないままに、貴族なら絶対嫌がりそうな、若干露出の多い服を着る。流石に裸同然の水着のようなものだとはちょっとあれだが、へそ出しをしているアラジンとかに出てきそうな服程度なら問題なく着れた。

 とはいえ、私の体はまだ子供としかいえないので、露出があってもお色気はゼロだ。……微妙に衣裳に申し訳がない。

 

「クロ、お待たせ」

 外に出ると、クロが剣の練習をしていた。

 先ほど少しだけ記憶に触れて分かったのだけれど、クロの剣の腕前は、アルファさん譲りでかなり強いようだ。

 剣舞も勿論人気だけれど、クロとアルファさんが剣の練習で手合せする姿だけでも迫力があると、見物客が来るぐらいに。

 元々幼少の頃から、私のような前世の知識に頼るというズルがなくても、ハイスペック幼児だったのだ。その上で勤勉ならば、そりゃ一流になるだろう。

「おうっ」

 少し息切れしているクロを見て、こんな短時間でも練習を欠かさないなんて凄いなと思う。でも、あまりに頑張りすぎていて少し心配だ。体力のあるクロが息切れしているのだから相当素振りをしたのだろう。

「クロ。休む事も大事だと思う」

「いや、煩悩を追い払わないと」

「煩悩?」

「何でもない。こっちの話」

 煩悩……もっと売れっ子になりたいという出世欲辺りでも押えているのだろうか? 心配しなくても、クロはいつか一座で一番になれると思うのだけど。


「それより、早く行こうぜ」

「うん」

 クロに手を繋がれ、私は移動する。

 クロと私は、見た目は別として1歳差なので、私ももう手を繋がれなければならないほど幼くはない。しかし私の成長が遅い為に子ども扱いされているようだ。

「オークートー!!」

「っ?!」

 突然、女性の声で名前を呼ばれたかと思うと、抱きしめられた。

「うわーん。芋がっ。芋がっ!!」

「……芋?」

「ノエルさん、どうしたんだよ」

 ……ママ?

 この人がママ?


「芋の、身がないのっ!!」

「身がない? 買い忘れ?」

 感動の再会をするような場面だろうけれど、内容がさっぱり分からない。

 何故芋の身がないのか? 芋って、身があるとかないとかと言われるような食材だっただろうか? 

「違うのよ。皮を剥いたら。身がなくなったのよぉぉぉ。どうしよう」

「え?」

「ほら、ノエルさん、不器用だから」

「えっ?」

 不器用?

 いや。身がない皮むきって何?

 じゃがいもの質が悪くて、痛んでいたからとっていたら身がなくなってしまったではなくて?

「ノエル。またオクトに頼むんじゃないの!」

「えー、だってぇ」

「娘に迷惑かけちゃ駄目でしょうが。ほら、厨房戻るわよ。前に、オクトに芋の皮を素揚げにして食べる方法を考えてもらったし、アルファが油を用意してくれているから」

 あっ。前にもあったんだ。

 既に皮を素揚げにする方法が伝えられているという事は、これは初めての事ではないらしい。ママって、不器用なんだ。

 

 抱きしめられていたが、ママの腕が離れた為、まっすぐとママを見る事ができた。

 私と同じ金色の髪に、カンナさんのような金色にも見える琥珀色の瞳。耳は獣人の特徴が良く出ているようで、狐のような耳があった。

 写真のない世界だから、私の中にあるママの姿はおぼろげだ。だからこれが初めてしっかりとママを見た瞬間だった。

「フウカ、でも。オクトに手伝ってもらった方がより美味しくなると思うの」

「オクトはこれからクロとお客を集めに行くの。我儘言わない。それに、若者の楽しみを奪わないで上げましょうよ」

「ちょっ。フウカさんっ!!」

 クロが慌てたようにフウカさんの名前を呼ぶ。

 若者という事は私とクロの事だろう。まあ、外にビラを配りに行けば、終わった後は遊ぶこともできるだろうし、楽しみといえば楽しみか。

 引きこもり万歳な私と、この世界の私は状況が違うわけだし。

「オクト。芋は何とかなるみたいだし、行こうぜ」

「あ、うん」

 クロは私の腕を掴んでずんずんと進んでいく。

 ママともう少し話してみたいと思ったけれど、ママが手を振っているのを見て、私は戸惑いつつ手を振り返す。

「行ってらっしゃい」

「……行ってきます」

 なんとも言えない気持ちのまま、私はママに返事をした。




◇◆◇◆◇◆◇◆





「賢者様。もう一曲歌って!」

「アンコール、アンコール、アンコールッ!!」

 ……昔やったように、歌を歌って客を集めてビラ配りをしていたのだが、予想以上に客の反応が良すぎて、私はどうしたものかと頭を悩ませた。

「ほら、オクト。折角だから歌ってやれよ」

「あ、うん」

 私の歌でいいんだろうか?

 不安になりながらも、私は客の望むままに歌を歌う。

 驚いた事に、私は混ぜモノだというのに、【賢者の歌姫】というなんだか混ぜて変な化学反応が起こりそうな二つ名があるぐらい人気者だった。

 そういえば、トキワさんも顔がいいから人気は上々といっていたなぁと思う。でもそれは舞台の上だけの事だと思っていた為に驚く。

 それだけ、この世界の私は頑張ったのだとは思うけれど……何だか不思議な感覚だ。


「今回も上手くいったな」

 クロの言葉に私は頷く。

 怖いぐらい上手くいき、すでにクロが持っているビラは全てなくなった。

「クロのおかげだと思う」

 クロが上手く人寄せしてくれて、伴奏を鳴らしてくれたからであって、私はただ歌ったにすぎない。

「オクトって、昔っから謙虚だけどさー、今回はオクトの歌目当てに集まってきたに決まってるだろ。 ちょうどここでの講演は1年ぶりだから、覚えていてくれたわけだし」

 バシバシとクロに背中を叩かれる。

 

 1年ぶりなのか。

 この場所がどこなのかは、この時間の私の記憶に触れなくても、外に出てすぐに分かった。ここはアールベロ国で、今は収穫祭の期間だ。私自身は何度か体験をした事がある。

 勿論その時は、旅芸人ではなく普通に祭の一般客としてだけれど。

 今頃アスタ達はどうしているのだろう。

 ヘキサ兄は今も学校の先生をしているだろうか。それとももう伯爵を継いだのだろうか。

「オクトどうした?」

「何でもない」

 不意に寂しくなって、私は魔法学校があるだろう方角を向く。

 しかし、山が多いのと、距離がある為、魔法学校のシンボルである図書館塔は見えない。……そもそも、混融湖の事件がなかった世界に、それはあるのだろうか?


「あっち行ってみようぜ!」

 私の目の前を3人の子供が走っていき、それが不意に知り合いの様に見える。しかし子供はピンクの髪なんてしていないし、紫の瞳のツンデレでもないし、優しい緑瞳をした穏やかな少年でもない。

 彼らはきっと、今魔法学校で魔法の勉強をしている頃だろう。ここに居るはずがない。そして居たとしても、彼らは私を知らない。

「オクト、ノエルさんも呼んで、皆で露店回ろうぜ」

「えっ」

「オクトってノエルさん大好きだもんなぁ」

 どうやらクロは私が、子連れの家族を見ていると思ったようだ。

 実際、私がママの死を認めなかったから、ママが生きているとトキワさんが言っていたのだから、かなりママの事は好きなのだろう。


「クロと一緒でいいよ?」

 一度戻って、ママの料理当番が終わってからなんていったら、凄く遅くなってしまう。祭を回れるタイミングなんて決まっているのだ。私も今は踊りの練習をしているようだし、決して暇という事はない。

「クロとまわれるだけで嬉しいし」

「俺だって、オクトと一緒に居れて嬉しいんだからな。じゃあ、母さん達に何かお土産を買っていこうぜ」

 お土産かぁ。

 昔、アスタが、お土産を大人買いというか貴族買いしてきたなぁというのを思い出す。勿論旅芸人の私達にそんな買い物が出来るほどのお金はない。でも、少ないお金で買える物を考えて、値切りながら買うというのも楽しそうだ。

「うん」

 私は、ひとまず自分自身の記憶は忘れる事にして、この時間を楽しむ事にした。

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