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もしも、王子と恋愛するならば(1)

 はっ。


 唐突に目が覚めた私は、慌てて体を起こした。

「夢オチ――はないだろうけど」

 逆ハーレムの世界で、胃痛を患い、最終的に吐血をしたところまでは記憶にあるが、そこからの記憶が途切れている。たぶんあのまま気を失ったのだろう。にしても、怖かった。

 あんな場面どうやったら切り抜けられるというのか。気を失えて本当に良かったと心の底から思う。しかしあれからどうなったのか。

 とりあえず、胃痛は今の所そこまでないので、治療されたのだろうか。

 

 お腹のあたりを見ようとして、私は違和感を覚えた。

「……あれ?」

 なんだか体が大きくなっている?

 ……というかここは何処?

 周りを見渡すが、見覚えのない屋敷だ。天蓋つきのかなり大きなベッドに私は寝かされていたようだが、私の家にそんな無駄なものはないし、さっきまで寝ていたベッドも同じだ。

 

「ようやく気が付いたか。気を失った状態じゃったが、移動させてもらったぞ」

「……トキワさん」

 いつも通りマイペースなトキワさんを見た瞬間、私はふよふよと浮かんでいる彼女の腕を掴んだ。

「な、何じゃ?」

「いい加減、私を何に巻き込んでいるのか教えて。何が理由で私はこんなIFを体験しているの?」

 私はまっすぐにトキワさんを見たが、彼女はすっと顔を背け、目をそらした。

「ちょっとした、小さく、些細な事じゃ」

「トキワさんは、いつもこの世界がどこの世界かを読み取っている。だとしたら、この世界が元の世界ではないと分かっていて移動してるのじゃないかと思ったのだけど」

「そ、そんなことないのじゃ」

 今、どもったよね。

 一体、トキワさんは何を隠していて、どうして私を元の時間軸へ戻そうとしないのか。

 移動する場所は、とりあえず私を中心として派生した時間軸であるのは間違いがない。その中を移動するのに、【私】が必要ということだろか。

 ならば、そんな風に移動する理由は何なのか。


「何か探し物をしているとか?」

「探しとらん。探しとらんのじゃ。何も知らないのじゃ」

 ……これでもかというぐらいトキワさんは動揺をしている。これがカミュだったらあえて間違えた答えに導くための演技ではないかと疑うが、トキワさんは捻くれてはいるが結構素直である。たぶん普通に動揺しているのだろう。

 この質問で動揺しているならば、トキワさんは何かを探しているという事になる。はたして、一体何を探しているのだろう。

 小さく、些細な事と言った。それは何なのか。

「事故で私が飛ばされたわけではなく、事故があったから、私が飛ばされる事になったの?」

「わらわは黙秘するのじゃ」

 そう言ってトキワさんはぷいっと顔をそむけた。

 そうだと肯定しているようなものな気がするが、黙秘をされると情報が得られないので困る。

 とりあえずは、何があったかより、どうしたら帰れるかの方が重要なので、これ以上追及するのは一時的に止める事にした。


 私は深くため息をつくと、別の質問に話を変えた。

「さっきの世界と、その前の世界の私は大丈夫なの?」

 いや、それだけではなく、他の世界もなんだけれど。

 とんでもないタイミングで、私はその時間軸の私と交代を果たしている気がする。あの世界の私であっても起こる事が決まっている出来事なのかもしれない。しかし中途半端な状態で放置した事に関して、若干罪悪感を感じていた。

 かといって、私があのままそこにいて、問題を解決できるとも思えないけれど。

「大丈夫じゃ。何事も時間が解決する」

「いや、後々大丈夫でも、あの時点は地獄のような」

 確かに何らかの結果は訪れるだろうけれど。

 ……逆ハーレムは私が胃痛とトラウマで悩むだけだけれど、その前に至っては、アスタがキレて王子を傷つけて、犯罪者になるかもしれないという危険があるのだ。

 それは色んな意味でマズイ。

「ふむ。オクトが幼少期に、魔族の職場に行った時間軸では、上手くカミュが場を収めてくれたみたいじゃのう」

「えっ。カミュが?」

 流石カミュだ。

 少しだけカミュの株が上がるが、よく考えればカミュが会いに来たために起こった事でもあるので、カミュに感謝するのはちょっと違うかもしれないけれど。

「ただしその結果、王家の人間と親しくなっていき、色々なトラブルに巻き込まれるようじゃのう」

 トキワさんは遠くを眺めながら、未来を語っていくが……何というか、あの世界の私にはとても大変そうな未来が待っているようだ。

 うん。頑張れ、私。私よりも対人スキルは高いし、アスタの扱いも上手いので、きっと何とかなるはずだ。

「先ほどの時間は、倒れたことにより、皆に心配された上に、反王家に組していた者達が報復されているよう――」

「えっと。ごめん。もういい」

 報復って何?

 国一番の魔術師と、腹黒王子と、そんな王子に仕える武人と、時属性を持つ少年などなどの報復なんて、考えたくもない。

 

「何じゃ。お主が女神として崇められるまで――」

「ごめんなさい。IFの世界は私とは無関係なので、知らなくていいです」

「そういう事じゃ。時にはあまり干渉してはならん」

 一番干渉している本人の言葉ではないが、これ以上聞きたくないので、あえて何も言わなかった。願うなら、女神として崇められたという言葉は、トキワさんのブラックジョークであって欲しい。

 もしも本当に崇められたならば別世界の私が憐れすぎる。

「ただ相手を選んでしまった方が、何かと楽なものじゃよ? 時には選択も必要なのじゃ。覚えておくとよい」

「……そう」

 私の時間軸の場合は、逆ハーレムなんて事にはなっていないし、トキワさんの助言を生かす場面は訪れそうもないけれど。そもそもあの逆ハーレムの世界はかなりの奇跡が重なり合ってできたものに違いない。そうでなければ、私が好かれる事なんてないはずだ。


「おっと。そろそろ人が来るようじゃ。頑張るのじゃぞ」

「頑張る?」

 何を?

 そう聞こうとしたが、トキワさんの姿が消える。

 そう言えば、ここがどこで、この世界はどんなIFなのか聞いていなかった。まあ、出たとこ勝負で、今まで通り何とかなるとは思うけれど。

「……でもこれは本当に過去か?」

 自分の腕を少しだけ宙に浮かせ眺めるが、元々の自分よりも若干長い気がする。

 鏡があればもう少ししっかりと確認ができるのだけれど、この部屋の中にあるのかどうかも良く分からない。そもそも、この場所は私が知らない場所なのだ。

「過去ではないとしたら、未来?」

 私の時間軸から繋がっている未来なのか、はたまた、どこかで分岐した場所から進んだ未来なのか。トキワさんが何を探しているのか分からないので、どこへ向かおうとしているのかは分からない。


 小さな事。

 些細な事。

 小さい、小さい、小さい――。


 何かが見えそうな気がした瞬間、扉がノックされた。

「……はい」

 そう言えば、トキワさんは誰かが近づいているからと言って消えたのだった。誰が来たのだろう。

「失礼します」

 入ってきたのは、幼いメイドだった。犬……いや、狼系の獣人だろうか? 

「着替えをお持ちしました、オクト様」

「ありがとう」

 あっ、しまった。

 お礼を言ってから、もしかしたら私はお礼を言わない方が良かったかもしれないと気が付く。現在の私は貴族ではないが、このIFの私はもしかしたら貴族なのかもしれない。

 様を付けられたので、たぶんこのメイドよりも私の方が立場が上。そして貴族は使用人にいちいち礼を言うべきではないのだ。これは彼女の仕事であって、それ以上の事をしたわけではないのだから。


「駄目ですよ、オクト様。私は使用人なんですから、当たり前のことをしているだけです。お母さんは、オクト様に甘いので気さくなところも魅力だと言われますが、私はオクト様が侮られるのは嫌です」

「えっと。ごめんなさい」

 年下に怒られてしまった。

 ただ、ぴょこぴょこと尻尾が揺れているので、本当に怒っているわけではないだろうけど。

「使用人に謝るのも駄目なんです」

 もーと言い怒っているようだが、尻尾が今度は垂れ下がっている。……何というか、尻尾が彼女の気持ちを如実に表している。


「えっと、ごめん。あ、ごめんも駄目で。その……少し寝ぼけていて――」

 目の前の少女の名前を呼ぼうとしたが、分からなかった為、少しだけこの時間の記憶に触れる事にする。流石にこの少女の名前を尋ねたら、寝ぼけているという説明だけではすまないだろう。

 記憶に触れる事により、彼女の名前がラーナだと知ると同時に、彼女がどういう子かも知って驚く。

「えっと、ペルーラは……」

「お母さんは、今布屋の主人の所へ行っています。ベールは自分が作るんだといって無駄にはりきっていますから。呼んできた方がいいなら、呼んできますが」

「大丈夫。ちょっと気になっただけだから」

 やっぱりこの子のお母さんはペルーラか。

 私が触れた記憶に間違いはないようだ。

 

 私の時間軸のペルーラに子供はいない。例え私が知っているペルーラより早く結婚して子供が生まれていたとしても、ここまで大きな子に育つまでには時間が必要。という事は、確実にここは未来の時間となる。

「お母さんは多分、嬉しくて仕方がないんだと思います。もちろん私もですけれど」

 ラーナはどうやらペルーラよりも落ち着いた子供に育ったようだ。年齢よりもしっかりとしているのではないだろうか。

「嬉しいって何が?」

 2人が嬉しい事とはなんだろうか?

 そう言えば、ベールを作るとペルーラが言っていたけれど、何に使うのだろう?

 ラーナは私の質問にきょとんとした顔をしたかと思うと、深くため息をついた。

「そんなの、オクト様の結婚式が間近に迫っているからに決まってます。もう。本当に寝ぼけてみえるんですね。ちゃんと、起きて下さい。お茶を入れますから」


 ……えっ?

 …………ええっ?!

 

 ラーナは自分が言った言葉が、私にとって爆弾発言だったと気が付くことなく、ぷりぷりと怒りながら、モーニングティーを準備し始めた。 

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