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もしも、職場で面倒をみられる事になったら(3)

「追い返せ」

「自分で追い返して下さいよ。あ、でも相手は王子様ですからね。その点、忘れないで下さい。攻撃魔法で追い返すとか駄目ですからね」

 アスタの返答は簡潔だったが、蒼白な顔をしつつもリストも負けていなかった。よっぽど王子にお帰りいただく為の説明をするのが嫌なのだろう。

 私にとっても似たようなもので、出来るなら関わりたくない。カミュに関しては、私の時間軸で幼馴染のような友人関係だったが、第一王子は嫌がらせの様に唐突に私に会いに来て、更に混ぜモノという札を上手く使ってくれたおかげで、反王家の魔法使いに目をつけられ酷い目にあった。


 うん。二度と関わりたくない。


 とりあえず王族と関わらなければ、平穏無事に私は一生を終える事が出来るのではないだろうか。事実、混融湖の事件があった後、混ぜモノをカードとして使う危険性に気が付いたのか第一王子がちょっかいをかけてくることはなく、魔法使いや魔術師同士のいざこざに巻き込まれる事もなかった。

 逆にカミュは事件後頻回に遊びに来るようになっていたけれど。

 どうやらカミュの場合は混融湖の事に対して責任を感じていたらしく、気にかけてくれていたようだ。そう考えると、王族=関わってはいけない人達というのはちょっと安直すぎるかもしれない。

 でもなぁ。この世界のカミュとも同じように友人になれるとは限らないわけで。友人でないカミュは、色々怖そうだ。私の時間で友人だったからこそ言える。


 私も会いたくないという意志を伝えた方が良いだろうかと口を開こうとした矢先だった。

「追い返せは、いくらなんでも酷いな。犬猫でもあるまいし。しかも、俺はお前の上司で、カミュはお前の弟子だと思ったが?」

「犬猫の方がまだ愛嬌があっていいと思いますが?」

 あ、あすたぁぁぁっ!!

 入ってきた相手が王子だと気が付いた私は、心の中で絶叫した。敬語を使っているものの、その態度は流石にマズイ。かといって子供である私が咎めるのもおかしい。

 ただし椅子に座ったままというのは良くないという常識は残っていたらしくアスタやエンドが立ち上がった。それを見て私も椅子から立ち上がると、アスタの後ろに隠れる。

 今の会話だけでもアスタを前面に出すのは危険だと思うが、第一王子を見た瞬間逃げなければととっさに思ってしまったのだ。トラウマは根深い。

「ぼくが会いにきたのに、なんでかくれるんだ?」

 第一王子でも、カミュでもなさそうな、幼さを感じる舌足らずな声に、私はそっとアスタの足の後ろから相手を覗き見た。

 そこには、第一王子とカミュに挟まれるような位置に、ちんまりとした子供の姿があった。

 第一王子のような深緑色の髪に、カミュのようなキャベツ色――もとい、黄緑色の瞳をした、兄弟なんですと主張するような色彩の子供だ。

 彼は誰だとこの世界の私の記憶に触れれば、どうやら第三王子、つまりカミュの弟らしい事が分かった。そう言えば、現王家の正室の子は全部で4人で、側室を含めれば6人いると、カミュに教えてもらった事があったなと思う。社会の勉強は苦手なので、全員の名前は言えないが、カミュは兄と姉、それに弟が居ると教えてくれた。つまり、この気が強そうな子供はカミュの弟の可能性が高い。


「オクトさんは怖がりだからね。ミカがイジメるからだよ」

「いじめてなんてないよ! ぼくはカミュとはちがってしんしなんだ!」

 ぷくっと頬を膨らませた少年は、何というか、カミュとも第一王子とも違うタイプに思えた。感情表現がかなり真っ直ぐというか歪んでないというか……。

 もしかしたら今後成長する過程で彼もカミュ達のような腹黒に成長していくのかもしれない。どちらにしろ俺様タイプや腹黒は苦手だし、さらに王子という厄介な立場という事もあって、私は出来るだけ彼にも関わりたくないと思った。

「オクトさんは魔法の勉強したがってたのに、ミカが王宮中を連れまわしたと聞いたよ?」

「だって、べんきょーなんてつまんないし。たんけんの方がぜったいたのしいって」

 王宮中を連れまわし?

 その言葉にさぁぁぁぁっと血の気が引く。ミカさん、王子様だからって、何て事してるんですか。

 

 この時期の私は、まだ魔法を使いこなしてはいない。【混ぜモノ】は暴走する可能性が高いから危険というのは常識で、アスタの職場に居られるのはアスタを含めた職場の皆さんが、優秀な魔術師だからだ。

 それなのに、魔力コントロールもまだまだできてきないような、危険な生き物を檻から解き放ってどうするんですか。

 かなり私の世界とはずれてしまったが、これだけは分かる。絶対この世界の私も、王宮の探検を楽しめなかっただろうと。きっとハラハラして胃の痛い思いをしたに違いない。

「私は勉強します」

 再び連れ出される事がないように、そう宣言しアスタの足にしがみつく。危険な生き物があえて檻に入りたいと言っているのだから、大人しく檻に入れておいてほしい。


「勉強熱心だな。そんなに早く魔術師になりたいのか?」

「いえ……。ただ私は未熟モノですので」

 第一王子の視線が注がれているのが分かり、私は顔を下に向けたまま答える。うぅぅぅ。怖い。怖いけど逃げ出せる場所がどこにもない。

「そうそう。魔術師といえば。実はオクトさんもそろそろ魔法学校に興味があるかなと思って、色々資料を持ってきたんだよ」

 カミュの言葉に私は顔を上げた。

「魔法学校?」

「そう。今僕と、ライが通っている場所だよ。大体10歳ぐらいから入学するから、色々気になっているんじゃないかなと思ってね」

 もちろんだ。

 元々の私の時間だったら、7歳の時点で既に入学の為に色々準備をし始めていた。今思うと、流石に8歳から入学する必要はなかったかと思うが、成長が極端に遅い特殊種族を除けば、大抵は10歳ぐらいで入学が普通なのだし、私もそれぐらいには入学をしておきたい。


「オクトにはまだ早い」

「そうだ。彼女はエルフの子供。今は遊ぶのが仕事だ」

 確かに私には、成長の遅いエルフの血が1/4流れている。でも混ぜモノだし、成長が早い獣人の血だって混じっているのだ。だから遊ぶのが仕事というのは、流石に甘やかせすぎだと思う。

 やはり、この世界でも自立は中々大変かもしれない。

「カミュ、オクトががっこうにいってしまったら、ぼくとあそべないじゃないか!」

「でもオクトさんは、ミカどころか僕よりも魔力も強いのだし、どこかで一度学校には通わないといけないとおもうんだよね。オクトさんはどう思っている?」

 きっとこのまま勝手に私を抜きにして、皆で好き勝手に話すんだろうと思い、今後どうするかを考えていたら、不意にカミュに話を振られた。

「もちろん、将来的には……」

 将来的には通う事になるだろう。でもどのタイミングがいいかは、今の私が答えるべきことではないと思い答えを濁す。

 それにしても、どうしてそんな言葉をわざわざ私に言わせたのだろう。そう不思議に思ったが、その疑問はすぐに解けた。

「そんな先の事をちゃんと考えているとは……なんて賢いんだ」

「オクトがそう言うなら……」

 何故かエンドが我が子の成長を見る親の様に感動しだしたと思ったら、アスタまで大人しく引き下がった。どうやらこの世界の私は、それなりに発言力があるらしい。

 くっ。何故私の世界ではこんなうまくいかなかったのだろうと、悔やまれてならない。私の時間軸で私の意見なんて、全然聞いてもらえた記憶がないんだけど。


「ええっ。なんでカミュのいうことはきくんだよ!」

「将来的にという事だから、今すぐという話じゃないだろ」

 ぷくぅっと頬をふくらますミカの頭の上に第一王子が手を乗せる。どうやらミカは末っ子でまだ幼いという事もあり、かなり甘やかされているようだ。

「でも、あにうえ! オクトはぼくのおよめさんになるのだから、がっこうなんていくひつようがないとおもうんだ」

 へ? ……嫁?

 無邪気にトンデモない事を言うミカをまじまじと見て、だんだんその言葉の意味を理解する。


 ア、アアアアア、アウトー! アウトー!!

 色んな意味で、駄目、絶対っ!!

 【嫁】という意味を【ずっと一緒にいる相手】と思っている為に出てきた言葉だというのは、IFの私の記憶のおかげで分かった。しかし王子がそんな事言ったら駄目なだけじゃなく、言っていい場所と悪い場所がある。今のアスタは明らかな親馬鹿だ。しかも、俺より強い相手しか認めない的な事を言うほどの。

「わ、私は嫁に行かないから」

 私は無言でミカを睨むアスタのズボンを引っ張り訴える。

 ミカは将来成長した暁には、腹黒になるかもしれない。でも今は切実に腹黒でもいいから、とにかく早く成長して空気を読むスキルを取得してと心の中で悲鳴を上げる。うぅぅぅ。こんな非常事態、私じゃ上手く収められる気がしないというのに、王宮が火の海に沈みかねない危険な状況。最悪だ。


『オクト、盛り上がってるところ悪いが、次に行くのじゃ』

 オロオロとしていると、唐突に頭の中にトキワさんの声が響く。

 盛り上がっていないし、今すぐ戦線離脱したいけれど、このまま放置して良いだろうか。

 しかし意識は体から離れていき、こんな場面で交代するIFの私に対して罪悪感を感じたまま、私の意識はブラックアウトした。

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