藤原さん
藤原さん
よく天才とバカは紙一重だというが、彼女、藤原さんは超真面目と非常識的思考のはざまにいる、そんな女性だ。最初に容姿に惹かれる男性の多くもこの思考についていけずに、だいたいが去っていく。しかし、彼女自身はそのことに気が付いてはいるものの、あまり気にしておらず、のんきなものだ。
そして、僕、矢口は彼女のそばにいる、ごくまれな男子である。僕と仲良くなるついでに彼女とも仲良くなろうとする奴もいるのだが、最終的には僕に同情して去っていくのが、定番だ。僕は別に無理に彼女といるわけではない。ただ単に、僕にとって彼女は面白い思考をしているだけだ。
「世の中、不公平よね。どうして、死にたい人と亡くなる人が一致しないのかしら。」
さっきまで、サンドイッチのチーズの部分が少ないと嘆いていた人とは思えないほど、話がひどく変わる。しかし、一応、付き合いが長いせいか、比較的これには慣れている。
「そりゃあ、死にたくないと思っただけで長生きしたら、人口が増えすぎるだろ。」
「ポイントはそこじゃないのよ。」
藤原は左手の人差指を振った。
「じゃ、ポイントはどこだ?」
「死にたいと思った人を殺害してくれる機械でもあればいいのに、って思うのよ。」
「それ、殺人……マシンじゃないか。」
「でも、本人の希望よ。」
「なんで殺されなきゃいけないんだよ。」
「自殺だと保険金は下りないし、電車とかだと賠償がかかるし……。選べるといいよね。」「選べる?死に方を?」
さすがに、僕も目を丸くした。
「そう。いま、選べるとしたら、延命を希望するかどうかと、植物人間になったら、と、あと何?」
「知らん。お前、なんでそんなこと考えたんだ?」
「今日、朝から人身事故があって、電車が遅れたの。その間に携帯で、事故のニュースを見てたの。人身事故の女性は死のうとして、生きた。事故のほうは、死ぬ気なんかなかったのに、亡くなった。なんだかなぁって思うのよ。」
「藤原。」
「なに?」
「世の中、不公平だな。」
「まったくよ。」
彼女は、真顔のまま、サンドイッチにかぶりつく。僕は、とりあえずそんな機械で藤原が死なないといいなぁとのんびり思った。