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「一の五と三の七。これ、座席の場所じゃないかな?」
「座席の場所?」
教室の机は横六列の縦八列。一と五、三と七が十分収まる数だ。
志郎の考えを聞いた二人は、ケンカを止めてその机の元へ小走りで向かった。久美子が右端の列の五番目の席へ。弥彦が右から三列目七番目の席へ。すぐに机の中を見るが空っぽで何もない。イスを除けて机を下から覗き込んでも何もなかった。
「ないぞ」
「こっちもないよ。もしかして左から?」
「……座席と思ったんだけど、そもそも机の中は僕が調べて何もなかったんだよね」
教室の中に沈黙が流れる。
「ごめん」
志郎がボソリと謝った。
「うーん。座席っていうのはけっこうしっくりきたんだけどな」
しゃがんでいた久美子が、膝の上に頬杖をつき嘆息する。
「もう分かんねえよ」
弥彦もため息を吐き、除けていたイスにどさりと勢いよく座った。すると、白い紙がするりと弥彦の足元に落ちてくる。
「ん? 何だこれ?」
一と書かれたその紙を拾ってひっくり返すと、そこには文章がかかれていた。
「あった!」
久美子と志郎が驚きながら弥彦を見る。
「どこにあったの?」
「分かんねえ。イスに座ったら落ちてきた」
「イス? そういえば机の中は全部見たけどイスは調べてなかった」
久美子が慌ててイスを調べる。
「あったあった!」
イスを倒すと、板の裏の部分に紙が貼り付けてあった。こちらには二と書かれており、張り付け方が甘いのか、紙は簡単に剥がれた。
紙を持って、三人はまた黒板の前に集まる。
『二つの答えを掛け合わせ全てを開けば終わりが訪れる』
二つの紙には横書きでそう書かれていた。その文章の下に、答えを導き出す問題が記されている。
「これ! 終わりって書いてある!」
興奮気味に久美子が文章を指差した。
「もしかして出られるのか?」
弥彦もその言葉に色めき立つ。
「考えよう。答えを」
志郎の力強い声に、三人は頷き合った。
一と書かれた紙には、二の紙と共通の文章の下に、アルファベットが書かれていた。
一段目には『JTQTLZ』
二段目には『□□□□□□』
三段目には『LVSVNB』
「たぶん二段目が答えになるんだよね」
久美子が確認する。
「そうだとは思うけど、この英単語? はなんだろう?」
志郎は眼鏡を人差し指で上げ直して、問題をじっと見た。口の中で読み上げようとしているが、英単語として口から出ることはなかった。
「うーん。私も出てこない」
志郎と久美子は腕を組んで頭を悩ませた。お互いに英単語を出していくが、当てはまるスペルはない。
「これさ。TとVが同じだな」
英単語の出し合いに参加していなかった弥彦が、何とはなしに言う。二人は喋るのを止め、キョトンとして弥彦を見た。弥彦は二人のじっと見つめる視線を避けるように、目をそらしながら続ける。
「いや、最初から英語が出来ないのか記憶喪失のせいで英単語が出てこないのかは分からんが、英語にうといせいで今の俺には全く英単語に見えないんだよな。これ。で、紙を眺めていたら一段目のTと三段目のVが同じ位置で二つ出ているな、と思ってさ」
志郎と久美子が紙を見直す。確かに一段目と三段目には共通点があった。
「英単語ではなく、この二つは何か法則性のある並びってことか」
「なるほど。普通に読んでちゃダメなのね」
志郎と久美子は改めて問題に向き合う。
「TとVが共通しているなら、横よりも縦に考えた方がいいのかな」
「縦?」
「そう。横書きだからつい横で考えてしまったけど、縦に法則性があるとか」
「縦か……」
二人はまた考え込む。三文字の単語かそれとも何かの略称か。二人があーでもないこーでもないと話し合っていると、また弥彦がポロリと言葉をこぼした。
「アルファベット順」
「え?」
「アルファベット順になってないか?これ」
弥彦の言う通りに問題を先頭から見ていく。Jの次にKが入りLに続く。Tの次はUが入りVに続く。確かにアルファベット順になっていた。
「凄い! 全部埋まっていくよ!」
「KにU。RにU。MにA。KURUMA。車か!」
「やった! 解けた!」
久美子が拍手をする。その顔は喜びに溢れていた。弥彦と志郎も目が合うとニッと笑い合い、片手を上げてお互いの手のひらをぶつけ、喜びを表した。
「あともう一枚だな」
横に除けていた二と書かれた紙を、弥彦が教卓の中央に置く。
『1、5、□、50、100、500』
二の紙の問題には、横書きでそう書かれていた。