飲み会
週末、仕事が終わっていよいよ飲み会《合コン》へ。
男性残り二名は、メールレスポンスの早さで選抜された赤池さんと緑川さんだ。
二人とも青井さんと同じ年なので、今日の飲み会は先輩ばかりになる。
ちょっぴりぼっち。
ただ、赤池さんも緑川さんも青井さんつながりで今まで何度か一緒させてもらったことがあるので、特に問題ない。
二人とも気さくで明るい人たちだ。
ちなみに赤池さんと緑川さんは二人とも営業部なので、喋りに関しては天才的。
話題も豊富で、気遣いも抜群。
喋りと気遣いに関しては、青井さんも負けていない。
だから、赤池さんと緑川さんはことあるごとに、青井さんを営業部に誘っている。
青井さんはずっと断っているけど。
会社の前で待ち合わせ。
まもなく全員集合した。
女性側はリバーシの二人と新入社員二名。
部署が違うから、全然知らない。
しかし、二人とも結構かわいい。
新入社員紹介で、挨拶しただろうけど、覚えていない。
「紹介しておくよ。茶谷と桃村だ」
黒川さんが簡単に紹介。
どうも、この二人の新人は、男性陣ではなくリバーシの二人と一緒にいたくて参加した感じだった。
全くこのお二方の人気は、老若男女問いませんな。
青井さんの案内で、歩いて十分くらいの店に到着。
創作料理のお店だ。
「では、始めましょうか。みなさん、よろしく~!」
青井さんが音頭を取って飲み会はスタートした。
基本、先輩の三人が話題を提供して、女性陣がそれに応答する感じ。
俺は、フンフンと話を聞くだけ。
あ、ときどき「ホウ」と小さな発見した感じのリアクションも混ぜたけど。
それにしてもレスポンススピード選抜を勝ち抜いた二人、いつも感心するけど、本当に話題に事欠かない上にかなり面白い。
ありとあらゆるジャンルから、ニーズに合いそうな話題を湯水のようにジャンジャン出してくる。
それだけのスキルを持ちながら、三人とも彼女なし(多分)ってどういうことだ?
話の流れが、どうしても図抜けて目立ってしまうリバーシに集中するのかと思いきや、やはりその辺は先輩方、きちんと気を遣って均等に話が振られていく様子はもはや名人技といった感じだ。
宴も酣。青井さんが二次会を提案した。
場所はカラオケ。
ま、テンプレ通りというわけね。
それほど遅い時間でもなかったので、全員が参加。
移動中、赤池さんが駐車場の自転車を見事に六台ほどドミノ倒ししたけど、笑いながらみんなで直したりしながらの和やかムード。
緑川さんから『最悪人間ドミノくん』と命名されていたけど、後輩である俺は笑うわけにいかない。
そのストレートすぎるネーミングがツボってしまい、正直つらかった。
女性陣は、白石さん以外は二つ折れになって笑っていた。
白石さんは「そんな……、笑ったりしたら失礼ですよ……」って他の人を諭していたけど、女性陣の場合は、ここは笑っておく方が赤池さんも救われるって話だ。
当の本人の赤池さんは、自分のことなのに一番笑っていたかもしれない。
明るくていい人だな、赤池さん。
歩きだしてしばらくすると、ひょいと白石さんが隣に来た。
「枝草さんって休日とかって何されて過ごしていらっしゃいますか?」
小首をかしげて質問してくるしぐさが、ありえないほど可愛い。
とりあえず落ち着いた対応を心がけねば……。
「ああ、ネットくらいかな。特にこれといった趣味もないし」
「そうですか。ブログとかつけてたりします?」
ん? まあね……公には言っていないけど。
しかし、ブログしているって言ったら、絶対に『どんなことを書いているんですか?』って返ってきそうだな……。
「あ、読む方かな」
咄嗟に嘘をついてしまった。いや、必ずしも嘘ではない。人のブログもよく読む方だし。
「そうですか。じゃあ、『エースパイロット』ってブログご存じですか?」
……俺のサイトじゃん。
「飛行機とかのサイト?」
とりあえずとぼけておいた。
「ちょっと関係ありますね。ブログを書いている人の『脳内撃墜』の記録を書いているんです」
……常連さんなのね。
「私、最近そのブログにハマっているんですよ」
「面白いの?」
聞いてみた。純粋に白石さんみたいなタイプの人が、俺のブログを読んだらどんな感想を持つんだろう……。
「ん……、すごく参考になる部分が多いです。でも、一番面白いのは、毎日の生活の中で、よくそれだけいろんなことを発見できるなぁって」
「発見?」
「そうです。通勤途中にこれだけいろんなことがあるんだなぁって。困っている人も結構たくさんいるんだなぁって。私が注意して見ていないから、気づいていいないだけなんだって思うんです」
「それは、単純に白石さんがそう言う状況に遭遇する機会が少ないってことじゃなくって?」
「ええ、そうかもしれません。でも、最近思ったんです。ちょっと悪口みたいになるので言いにくいのですが、今年の新任者研修、黒川先輩のお手伝いをさせていただいてのですが、本当に気づかない子っているんですよ。気づかないっていうより、気づけないっていうか……。もう信じられないくらいに」
ああ、何となくわかるな……。いるいる。
両目にトイレットペーパの芯を二本くっつけているのかってくらい周り見れていないのがいるな。
「でも、去年は私も同じだったと思うんです。今年だって黒川先輩から見たら、もっと気づくべきことがいっぱいあると思うんです。自分自身に対しても、人に対しても……」
……真面目ないい子だな。本当に。
「そのサイトは女性の査定が主な内容なので、最初はちょっと抵抗があったのですが、読んでいる内にその人の『気づき』ってすごいなぁって思い始めて……。あっ、すみません。私ばっかり一方的に話してばっかりで……」
「いや、全然問題ないよ。面白い話だし。じゃあ、俺も一度読んでみようかな……」
何を無責任なことを言って、自ら死地へ飛び込んでいるのかな? 俺。
「じゃあ、アドレス送りますから、メアド教えてもらえますか?」
何だ? このスムースかつ必然性を兼ねそなえた見事な流れは?
「赤外線で送ってください」
いや、そんなの使ったことないんだけど……。
一応スマホを出したが、よくわからないでいると、白石さんは言った。
「あ、かしてください、私やりますから」
白石さんは俺のスマホを取って、何やら操作した。
「これで大丈夫です」
どうも俺のスマホには赤外線機能があったようだ。しかもアプリも……入れた覚えはないのだが。
買ったときから入っていたんだろうな。
俺のサイトだと言うきっかけを完全になくしてしまったんだどうしたもんだろ。
一人でこっそり楽しんでいる趣味だし、あまり人に言いたくない。
白石さんは好意を持ってくれているが、それはそれでいいんじゃないか?
とりあえず、バレるまでは、このまま隠し通しておくことにしよう。
うん、それが最善だろうな。
それにしても、白石さんが「脳内撃墜」と言ったことに関して、何らその意味を聞き返さなかったのは、不自然ではなかっただろうか。
普通、ピンとくる言葉ではないのだが……。
とはいうものの、今更聞けないし……。
いろいろ考えながら、白石さんメアド登録した画面を見ていると、スマホがスリープに入り、画面には俺のちょっとニヤケている顔が写っていた。キモすぎる! 十秒だけ死ね! 俺!
そうこうしている間にカラオケに到着。
男性陣の先輩三人と新入社員二人はマイクを離さないタイプのようだ。
次から次へと曲を入れまくっている。
黒川さんと白石さんはニコニコ笑って手拍子している。
俺も一緒に手拍子。
歌はあんまり得意じゃないから、正直助かる。
そう言えば、今回のカラオケで、発見したことがあった。
緑川さんの選曲で、銭形平次がブギだったんだと初めて知った。
赤池さんの選曲で、水戸黄門がボレロだったんだと初めて知った。
青井さんの選曲で、妖怪人間ベムはジャズだったんだと初めて知った。
緑川さんの銭型平次で九五点の高得点を叩き出した。緑川さん、「アイ アム 長州!」って叫んでいた。正しくは蝶野だけど、訂正しなかった。
長州だけに、『ギスギス』しちゃいけないし。(届くか? この面白さ……)
新入社員の二人もテンション上げまくりではしゃいでいた。
茶谷と桃村だっけ。
次あったときの為に名前くらいは覚えておこう。
茶谷はちっちゃい。桃村は丸い。そんな覚え方でいいのか? 俺。
だって、この二人とほとんど話してないし、わかんねぇよ。
あ、二人ともあんまり歌は得意じゃないようだ。
正直、しんどかった。人のこといえないけど。
二次会も終わり、家へ向かう。
帰りのバスで、いつも同じバス停で降りる女性が熟睡していたので、肩をたたいて起こしてやった。
「最寄りのバス停についたよ」
「あ、ありがとうございます……」
寝ぼけながらも何とか降りようと動き出したのは良かったが、まだ寝ぼけているようでカバンからパンを取り出してカード読み取り機に乗せている。運転手も大変だ。
優しく教えていたけど、笑いこらえるの大変だっただろうな、周りのお客さんも。
う~ん、よくわかんないけど……撃墜!
その時俺のスマホがブルルと震えた。
『約束のアドレスです。今日は枝草さんと話せて良かったです。ぜひまた誘ってくださいね http://~~』
記念すべき白石さんからの初メール!
ただ、女子からのメールで、絵文字が全くなのをもらったのは黒川さん依頼だ。
家に帰って今日の撃墜結果をブログにアップ。一応、これで白石さんとの約束も果たしたことになる。
書いた以上、読んだ。
ひょっとして、白石さん、俺のサイトを黒川さんも言ったのかな?
社内で広がったらちょっと面倒なことになりそうだな。内容が内容だし・・・・・・。
まあ、このブログを書いているのが俺だってばれなければ何ら問題ないのだけど。
やっぱり今日は白石さんに黙っていて正解だったな。
そう言えば、今日、ほとんど黒川さんと話ができなかったな。久しぶりだったのに。残念。