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偽サイト

「これは酷いな……」

 青井さんに教えてもらった偽サイトを見て思わず言葉がこぼれた……。さっき青井さんは、かなり感情を抑えて言ってくれていたんだと思った。自分の知り合いがネットでこれほど暴言を吐きまくっていたら、普通怒るか無視するだろってレベルだ。ちょっと調べれば、撃墜された人を特定できるんじゃないかってあたりまで書かれていて、しかも、写真とかまでアップしてある。声をかけてもいない人を手当たり次第に撃墜……。何だこれ? ルールもなにもあったもんじゃない。


 しかも、デザインも俺のサイトとかなり似ている。明らかに俺のサイトを意識して作っているのがわかる。不思議なのはこのサイトの管理人が何を目的として、こんなことをしているのかということだ。


 単純に人への誹謗中傷が趣味なのか、俺のサイトのあり方を勘違いして捕らえたのか。はたまた……、俺への嫌がらせ? ちょっと信じ難い話ではあるが、可能性はゼロではない。何せ『引っ越ししました』って思い切り書いているものな……。以前は検索しても俺のサイトしかヒットしなかったはず。でも、どうして嫌がらせ? 俺何かしたか?


 いろいろ考えていても仕方がない。もう一度俺がサイトを立ち上げることで、本家がこっちだと証明すればいい。俺への嫌がらせは構わないが、応援してくれていた人を裏切るような結果にはしたくはないしな。


 家に帰ったら、もう一度ブログをアップしよう。念のためにとっておいたバックアップがあってよかった。そこに書いてやる。『類似サイトにご注意!』って。


 仕事が終わり、いつものようにスーパーヤスヤスで半額弁当を購入し、帰宅。弁当を暖めている間にパソコンの電源を入れる。ブログのバックアップからのインポートはそれほど時間もかからないはず。とりあえず、ブログを復旧させて、飯を食ってから新しい記事を書くことにする。それについても、オフラインの自分の日記に少しだがネタはある。何だ? 俺、全然このサイトやめてなかったんじゃないのか?


 とりあえずパソコンは立ち上がったので、ブログサイトにログインして、今までの記事をインポート。数分の作業だった。それからはとりあえず飯! 腹が減ってはどうにもならん。レンジから出してきた弁当を食べた。


 食後再びパソコンの前に座り、作業開始。とりあえずはオフラインにつけていた日記からネタを一つアップ。それから偽サイトについての説明をちょいちょい……と。気付いてくれるといいけどな。


 とりあえず、このくらいにしておく。あと、偽サイトをちょっと全部読ませてもらうことにしよう。


 そして、俺は一時間不愉快な思いをして、全部の記事とコメントに目を通した。コメントは、最初こそ『おかえり』ムードがあったが、程なくこの管理人の誹謗中傷を増長させるような煽りコメントが多くなっている。昨日の記事なんか、お年寄りが切符買うのをモタツいたことを撃墜していやがる。コメントも老人に対して、『年寄りは電車に乗るな!』とか『乳母捨て山作るべき!』といった、人間のクズが集まるサイトになっている。


 これは、偽サイトであることを暴くだけでは気が済まなくなってきた……。どうしてやろうか!


 段々苛ついてきたが、こんなクズの為に苛つくのも時間の無駄だ。もうこんなことは忘れて寝ることにしよう! 目の前に置いていたビール(スーパーヤスヤスオリジナル発泡酒)を一気に飲み干して、俺は寝る……。あ、風呂入ってねぇ……。渋々起きて風呂、で、テレビ……、あ、意外と面白い……。気がついたら二時半……。寝る。



 次の日。いつも通り出勤。

 青井さんが話しかけてきた。

「枝草、昨日サイト再稼働したんだな」

 青井さんは親指を立てた。それ、あいかわらずウザいっす……。

「ええ、それにしてもあの偽サイト、ちょっと許せない感じですね……」

 青井さんは、小さく頷いてから俺に言った。


「枝草、あのサイトの管理人、撃墜しないか?」


 驚いた俺は聞き返した。

「そんなこと出来るんですか?」


「それが出来るんだな……、但し条件がある」

 青井さんは人差し指を立ててそう言ったので、多分条件は一つなんだろう……。


「条件ですか?」

「そう、社内の人間で、もう一人だけ枝草が元々のサイトの管理人だと言うことを知ることになる」


 青井さんは俺に問うように言った。


 俺も少し考えたけど、別に悪いことをしていたわけでもないし、それ以上広がらないのであれば特に問題無い。


「別に問題ありませんよ」

 俺は答えた。

「よし、じゃあ実行に移すことにする」


 え? プランはもう出来ていたのね? 素晴らしいな青井さん。『完全ノープラン宣言』もそこそこ素晴らしいけど……。想多メロンの……。


「何が始まるんですか?」

 俺は聞いた。

「枝草は、赤池のことは知っているよな?」

「ええ、何度か一緒に飲みに行きましたから」

「奴に動いてもらう」


 赤池さん? あの『最悪人間ドミノ君』の?

「奴はああ見えて、サイバーテロ対策本部にいてもおかしくない人材だ。奴に偽サイトの管理人を特定してもらう。話はそれからだ」


 人は見かけによらないな。いつも笑顔で気遣いのできる優しい人だと思っていたけど、そんな一面も持っているんだな……。


「もう一度聞くが、枝草のことを話していいんだな?」

 青井さんは言った。

「問題なしです。よろしくお願いします」

 俺は返した。


 予定通り、青井さんは親指を立てた。だからそれ、ウザいっす。軽いウインクも両目つむっていますよ。



 昼休み。青井さんは赤池さんと一緒に飯を食っていた。事情を説明していたのだろう。赤池さんは時々頷いている様子だった。


 昼飯を食べ終わって屋上へ。そこに青井さんがやってきた。

「赤池に頼んでみた」

「どうでしたか?」

 俺は聞いた。

「事情を話したら、『わかった』とは言っていたけど……」

 青井さんもちょっと不安なのか?


「青井! これ……」

 後ろから声をかけたのは赤池さん。青井さんに何か紙を渡した。

 それを見た青井さんは、俺に言った。


「枝草、わかったぞ! 犯人は社内にいる」

 いやいや、ちょっと待て! さっき赤池さんに話してたんじゃなかったの?あれから十分位ですが……。恐ろしいな、赤池さん。


「で、次の飲み会はいつするんだよ?」

 赤池さんは青井さんに聞いていた。なるほど、これが餌だったのか……。

「そうせかすな。とりあえず、店主が超美人の中華料理屋に連れていってやる。味も恐ろしいほど旨いぞ!」


「それはいいな……」

 と赤池さんは嬉しそうに言っている。

 赤池さん、飲み会じゃないですよ。話すり替えられていますよ。


「じゃ、また都合のいい日を教えてくれよ」

 そう言って、赤池さんは去った……と思ったら、クルリと振り返って、俺に言った。


「枝草、頑張れよ。俺はお前のサイトが好きだった一人だからな」

 そう言って、今度こそ去った。


「どうも知っていたみたいなんだよ」

 青井さんは言った。

「どうして?」

 俺は聞いた。

「あいつ、気に入ったサイトは全部管理人まで調べあげる癖があってな……。絶対に突き止めるんだよ……。方法は良くわからないんだけど」


 怖すぎるだろ……。赤池さん。

「そんなことより、こいつか……。直接行って文句言ってやろうかな……」

 メモを見て、青井さんは怒っている。


「でも……、俺的にいろいろ疑問があるんですよね」


「疑問?」

 青井さんは言った。

「はい、犯人は、このメモに書いている奴ですよね。今年入った新人だと思いますが……。どこの支社だったかは忘れましたが……」

 確か社内誌で見覚えがある名前だ。


「そうだな。だったら電話でもしてガツンと言ってやる方が早いんじゃないか?」

 青井さんは今すぐにでも電話しそうな勢いだ。


「いや、俺は何故こんなことをしているのかを確かめてからにしたいなと思うんですよ」

 俺は言った。


「それはいいけど、いったいどうやるつもりだ? やはり本人から聞き出さないとわからないと思うんだが……」

 青井さんは返した。


 「彼に接触してみようかと思っています……。今年の合同研修会で」

 それは、再来週に実施される年に一度全社員が集まる集会のことだ。俺の会社は、それほど大きな規模ではないが、支店がいくつもあるので、全員が集まると二百人くらいの規模になる。毎年、どこかのホテルの一室を借りて開催される。途中、食事もあれば、終わってから飲み会もある。狙い撃ちをすれば、接触はいくらでもチャンスがある。


「それまではどうするんだ?」

 青井さんは言った。

「とりあえず、今まで通り俺はサイトを続けます。ネタはまだ残っていますし……。とりあえず、同じ名前のサイトが二つあることを発信する予定です」

 俺は言った。

「じゃあ、俺は暫く静観することにする。何か行動を起こすときは声をかけてくれよ」

「了解です」


 本当に面倒見がいいというか、人の話に飛び込んできて一番楽しむのがうまいっていうか……。この間の屋台も一番楽しんでいたものな。あの明るい性格、本当にいいなぁ。


 仕事も終わり、帰宅途中。

 最寄りの駅に降りたら、駅前のターミナルに汚い女子高生が五人ほど地べたに座って談笑中……。まあ、青春なんだろうな……。そこに警官が歩み寄った。

「君たち、こっちにベンチがあるんだから、そんな地べたに座らないで、ベンチに座りなさい」

 ま、そりゃそうだ。そうすると、その中の一人、恐らく切り込み隊長気取っている子だろう、『あ、おまわりさんだ!』とわざとらしく大声。寒すぎて死ぬかと思ったが、とりあえず続きも気になる。俺は立ち止まって見ていた。すると、次の一人が大声で歌を歌いだした……。

『迷子の迷子の子猫ちゃん~』

 マジか? 寒いのは極寒ではあるが、俺が言いたいのはそこではない! その歌、『おまわりさん』が出てくるの、かなり終盤だぞ? 分かっているのか? 最後まで歌いきるのか? 出来るのか? いや、するのか?


 俺の期待はマックス。ところが、その女の子、事態に気付いたのか『えへへ』とか笑って歌を中断。さっさとベンチに移動して座ってしまった……。


 なんだよぉ! 散々期待させておいて、そんなのってないんじゃないかぁ? そこは、君たちの大好きな『気合い』とかで乗り切るんじゃないのか? がっかりだよ!

 

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