スーパー銭湯
濃厚麺道ですっかりお腹が満たされた後、青井さん達と分かれた。
俺は近所なので、歩いて帰ることに。
帰り道、コンビニの前で、地べたに座って大笑いしながら一人で話をしているおじさんがいた。
よく聞こえなかったが、たこの足を一本切ると二本生えてくるから、それを続けたら永久にたこを食べることができるとか何とか……。
帰ったら調べてみよ。本当かな。
そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられた。
「京ちゃん! さっきはごめん! 変な雰囲気にしちゃって……」
龍ちゃんはちょっと泣きそうな顔をしている。
元が美人なので、泣きそうな顔もすごく様になっている。
「いいよ、いいよ。結局、『仲いいんだなぁ』って話で収まったし。まあ、俺も龍ちゃんとは仲良くしたいっていつも思っているから……」
まあ、本音だ。
龍ちゃんは、ちょっとあっけにとられたような顔をした。
「本気で気付かなかったの?」
一転して呆れ顔に……。
「何が?」
なんか変なこと言ったか? 俺。
「いや、いい。とにかくさっきのことだけ謝りたかったの。私、店に戻るね。ほったらかしにして出てきたし」
そう言って、帰っていった。
帰りにスーパーヤスヤスでも寄って帰ろうかな。
でも、満腹の時に行っても、何買っていいかわからなくなるんだよな。
逆に腹ぺこの時は買いすぎちゃうし……。
難しいんだよな。
向こうで、誰かが手を振っている。
「こんばんはッス」
千だ。
「枝草さん、今帰りッスか?」
「うん、千は今からバイト?」
「はい、修行してきます」
とガッツポーズを取る千。
「ところでさ、俺と黒川さんが店に行った日の翌日、俺の先輩、店に来ただろ?」
ジト目で千を見る。
「あ、青井さんッスね。はい、来られました。赤池さんって人と来てたんですけど、枝草さんの話ばっかりしてらっしゃいましたよ。枝草さん、男にもモテるんすね」
全然気にしている様子はなく、話す千。
「青井さんが……?」
「ええ、枝草さんのことが可愛くって仕方がないみたいでしたよ」
それは光栄だな……って今はそうじゃなくって!
「で、俺と姉ちゃんのこと喋ったのか?」
「あ、まずかったッスか? 姉ちゃんの話と言うより、姉ちゃんが連れていってもらったラーメン屋の話が俺的にはメインだったんスけど……。一度行ってみたいなぁって」
ああ、濃厚麺道のことか……。
「ああ、その店なら、この先だよ」
さっき龍ちゃんが帰っていった方向を指さした。
「え? そんな近所だったんスか? まだバイトには時間があるし……。俺、今から行ってきます! あんまりうまかったら、次はそのラーメン屋でバイトしているかもッス」
「店主の龍ちゃんは、白石さんと仲いいから、弟だって言えば話は通じると思うよ。俺たちもさっきまでそこで食べてたし」
「マジッスか? 姉ちゃん一回も連れていってくれたことないッス。ひでぇ! 俺を連れていくの恥だと思ってるんすかね? とにかく今から行ってきます」
そう言って、足早に店の方向へ向かっていった。
すごいバイタリティだな。
白石さんもそうだけど、常に前向き、上向きの姿勢を崩さないな、この兄弟。
ちょっとは見習わなければいけないかもしれない。
一応スーパーヤスヤスに来た。
お腹いっぱいなので、惣菜は見ただけで気持ち悪い。
ちょっといろいろみてたけど、どうもかごに入れる気がしない。店内をうろうろしていると、ある女性が段ボールと格闘していた。
よく見ると、ビールをケース買いしたいようだ。
ところが、上に段ボールの封が開いたものが乗っているので、それが重しになって引っこ抜けないでいる。
生憎近くに店員もいない。
仕方がないので声をかけた。
「一ケースでいいのか?」
「あ、はい……」
だるま落としの要領で、素早く下の段ボール箱を引っこ抜く。
そして、カートの足下に乗せた。
「どうもありがとうございます」
何度もお辞儀をしてお礼を言ってくれた。
素朴な感じだが、顔立ちは結構端正だ。
シトラス系の香水が爽やかで好感をを持てる。
その後、彼女は鮮魚のリーチインにカゴの中の一つを戻してレジに向かった。
何気なくリーチインを見ると、さっき戻した商品があった。
何だ? あの女。鮮魚のリーチインにミンチ(国産豚肉)戻して行きやがった!
丁寧にお礼言う割には、こういう非常識なことをする。
単純に表面いいだけじゃないのか?
……撃墜!
仕方がないので、ミンチを元の場所に戻して、晩酌の焼酎だけを買って店を出た。
遠くで、ロケット花火の音が聞こえる。
そう言えば、最近知ったけど、手持ち花火の先のペラペラって、『ふた』なんだよな。
あれをちぎってから点火するのが正しいんだよな。
この年になってから知っても、花火する機会なんてあるのかな……。
そんなことを考えているうちに自宅へ。
ブログを更新。
『一時雨』の女性については、若干同情というか、『私もそう思っていました』といったコメントがあって驚いた。
きっとこいつら、『大津波警報』も滋賀県の一部が波立っていると考えるのかな。琵琶湖の波は穏やかだと思うが……何の警報だ?
『骨なしチキンプレミアム』の件に関しては、撃墜はしていない。ネタとして掲載しただけだったが、けっこうな反響があった。
あのコンビニの『つゆだくおでん』に関しても、つゆだくじゃないおでんが存在するのか? といったコメントが。なるほど、確かにそうだ。
他にも『やわらかいなり』も『柔らか稲荷』と表記しないとコロ助がなんか言っているように思う、といった意見や、電子レンジで暖めるうどんがぬるすぎる、といった意見、ざるそばセットの稲荷のご飯が少なすぎるとか、続々新発売されるカラフルな肉まんが気持ち悪すぎるとか、もはや撃墜とは関係のない、コンビニへの不平不満がオンパレードになっていた。
とりあえず、特に問題なさそうなものは、管理者の許可をクリック。
世の人は、これだけコンビニに興味関心があるのかとちょっと驚いた。
そういえば、大学生の時、一時コンビニでバイトしたことがあったな。
毎朝、必ず竹輪と牛乳買っていくおっちゃんがいて、バイト仲間から『ししまる』とかあだ名付けられていたな。
後、応援団長みたいな大男が、牛乳とフルー○ェだけ買って帰ったのは、何だか可愛らしく見えた。
土曜日の昼前にずっと不自然に首を抑えながら、タバコを買っていった女の人……ちょっと色っぽかった。何隠していたんだろ……。
あの頃は楽しかった。
今から考えると、バイトは気楽だったな。
当時は一生懸命頑張っているつもりだったけど、社会にでてみたら、『ほんのお手伝い』程度のことしかしてなかったんだなぁ。
さてと、今日のミンチ女の記録もアップしたし、酒でも飲もう……。
買ってきた焼酎をロックで頂く。
明日は、休み。ゆっくり飲むとしますか。
次の日の朝。
俺は、またもや早起きしてしまった。
顔を洗って、歯を磨いていると、ボサボサの髪の自分が鏡に写っている。
……散髪でも行こうかな。
駅前にスーパー銭湯がある。
いつもそこで散髪して、ついでに風呂に入って帰る。
毎日アパートのシャワーだと、時々ゆっくり湯に浸かりたくなる。
中の散髪屋は、頭を洗わない分、値段も安い。
俺にとっちゃ一石二鳥というわけだ。
早速風呂の支度をして、家を出た。
銭湯までは一〇分かからない。
……久しぶりだな。のんびり過ごすことにしよう。
朝一番ということで、空いている。
散髪も一番のりだったようで、あっという間に完了。
順番待ちの漫画雑誌読むのをちょっと楽しみにしていたので、ちょっと残念。
日頃、漫画雑誌を購入することは無いが、こういうところで読む漫画雑誌は何故か面白い。
週刊誌なんかは、前後を全く知らないのでよくわからないが、わからないなりに読むのが面白い。共感を得ることが出来るかどうかは微妙だけど。
いい加減なゴシップばっかりの週刊誌も結構面白い。
ブログを書く立場から言わせると、新聞とかより文章力のある人が多いような気がする。
髪がすっきりしたところで、風呂へ。
中には常連の爺ちゃん数名と、これまた常連の外国人が。
言葉は交わしたことがないが、来る度に見つけるから、覚えてしまった。
しかし、この外国人、本当に風呂好きだなぁ。
昼過ぎに来ても見かけるけど。
朝からずっと入っているのかな。
露天風呂のある外の中庭みたいなところでは、植え込みの石を利用して、爺ちゃんが踏み台昇降している。
俺は、露天風呂に浸かった。
ちょっとぬるめなのが心地いい。
その内踏み台昇降していた爺ちゃんがラジオ体操を始めた。
こらこら、俺に背を向けて前屈をするんじゃないよ!
見苦しいだろ!
申し分け程度にタオルを巻いて入るが、後ろからは丸見え。
なんとか視線を外してやり過ごす。
爺ちゃんのラジオ体操も佳境に入り、今度はこっちを向いてジャンプ! ジャンプ!
見苦しすぎる! もはや、タオルは何の役にも立っていない。何で露天風呂に浸かりながら、爺ちゃんの暴れまわっているナニを見なきゃいかんのだ!
しかも、露天風呂に浸かっている関係上、水平な高さで暴れまわっているので、嫌でも目に入る。
耐え切れず、俺は露天風呂を後にした。
次にサウナでしっかり汗を流し、ジェットバスでがっつりほぐし……、もう一度外に出て、畳敷きのごろ寝スペースで、ぐっすり寝てしまった。
目が覚めたのは三〇分後。
外が暑かったせいで、体中汗まみれ。
また、サウナ入って、ジェットバス入って……。
がっつり三時間近く入ってしまった。
外国人のこと笑える立場じゃなくなった。
スーパー銭湯を出たのは昼前。
どこかで昼飯でも食べようか……。
濃厚麺道は昨日いったばかりだし。
どうしようかな……。
結局家に戻ってサンカバ定食(秋刀魚の蒲焼の缶詰+レンジごはん+徳用インスタント味噌汁+漬物)を食するいつものパターン。
その後、うっかり動画サイトでなつかしいアニメを見つけてしまって、全十二話をコンプリートしてお休みは終わってしまった。