放課後2
2 / 14 / 16:20 / Yuji Toyota
「祐司先輩、正門の見張りは追い払ってあります。そこから出ましょう!」
「わかった!」
尾賀の情報に、特別教室棟の一階の窓から飛び出た祐司は、足を正門に向けた。
もう体力の温存も考える必要は無い。
全力で脚を動かし、腕を振り、腹の底から声を絞り出した。
今も自分の隣で乙女隊を警戒している尾賀に、一度は裏切りながらも最大の窮地には助けに来てくれた山畠に、祐司に道を作ってくれたイケメンに、その他多くの男達のために。
「みんな、ありがとぉぉおおおおおお!」
最大級の感謝を叫んだ。
しかし、それでもまだ足りない。
本当に彼らの厚意に報いるには、必ず生き延びなければならない。
生きて正門を抜けなければならない。
特別教室棟から教室棟の脇を通り、遂に校庭が見えた。
祐司の脳裏にはその瞬間、去年の光景が浮かんだ。
「去年のバレンタインも、そういえばここを通ってから正門を抜けたんだったな」
あの時はすぐ後ろをアキラが追いかけてきて、こう言っていたはずだ。
「覚悟しろ豊田祐司! このアタシから逃げられると思わないことだ!」
記憶の中の声と、現在の声がシンクロした。
慌てて振り返る祐司。
「ちっ、今年も来やがったか!」
アキラがチーターのようにしなやかかつ、力強い走りで追ってきていた。
祐司とアキラの距離は十メートルも無かった。
正門までは五十メートル以上ある。アキラは祐司よりも足が速く、このままでは捕まってしまうのは確実だった。
「どうすれば……」
「ははは、簡単ですよ」
隣の尾賀がからからと笑う。
「俺が止めれば良いんです」
言うや否や尾賀は足を止め、祐司の背後で両腕を広げた。
「行ってください祐司先輩。先輩の勝利は、俺達みんなの勝利です」
「お、尾賀……」
祐司は引き戻しそうな脚を叩き、まっすぐに正門を睨んだ。もう振り返らないと心に決める。
祐司は勝利を手にすべく、自分でも限界だと思っていた速度をさらに超えて走った。
2 / 14 / 16:22 / Akira Natsume
祐司を助けようと集まった男子の数は、スカート捲りと度重なる戦闘により疲弊していた乙女隊の数を上回っていた。訓練で培ったチームワークで邪魔をしてくる者は追い払っていったが、それに伴い、第一戦闘部隊の人員も削られていった。教室棟の窓から出る時、残っていたのはもはやアキラ一人であった。
仲間の思いを背負い祐司を追うアキラの前に、一年生の男子が立ちはだかる。
「どけろ! 貴様に用は無い!」
「そんなこと言わないでくださいよ。俺だってまだ生き残ってるんですから」
男子は飄々としながらも、道を譲る気はないようだ。そもそも、一言「どけ」と言われて従うような男であれば、こうして立ちはだかったりしない。そんなことはアキラも承知の上だ。
ならば、
「排除するまで!」
最高速の勢いそのままに跳躍。両足を揃え、体は地面と水平に倒す。完璧なフォームでドロップキックを放った。
「吹っ飛べ!」
風でスカートがはためくが、アキラはブルマを着用済みだ。いくら丸出しになっても、ブルマなら恥ずかしくない。
そう思っていた。
アキラの足が男子の腹に突き刺さる。砲弾のごときアキラの攻撃に男子の足も宙に浮き、しばし二人で空を泳ぐ。
勢いが減衰するのを感じたアキラは、着地するために腹を地面の方に向ける。
渾身の一撃に、苦悶の表情を浮かべているだろうと思っていたアキラだったが、男子の顔を見た瞬間に怖気が走った。
「うっ、キモ……!」
男子の表情は痛みに眉を寄せるどころか、恍惚に緩みきっていた。目も口もとろけて落ちそうな顔をして、男子は飛びながらアキラに抱きついてきた。そのせいで着地体勢がとれず、男子もろとも無様に落ちて地面を滑る。
「……っ痛、何をする! 離せ、変態が!」
もがくアキラに、男子はなおさらきつくしがみつく。
「先輩、世の中には蹴られ、罵られる度に強くなる人間もいるんですよ! それに、俺はブルマも大好きですから、今は百人力です! ……はあ、はあ」
アキラは慌てて捲れ上がったスカートを直した。
「い、息を荒げるな! 気持ち悪い! ひゃっ、どこを触っている!」
「どうです? こんな俺、無視なんかできないでしょう? チョコ渡してやろうって気になりません?」
「変態に渡すチョコなんか無い! これは祐司に渡すためにがんばって……」
アキラは地面から正門を睨んだ。
「ふはは、俺の、俺達の勝ちだ!」
祐司は既に正門というゴールを抜けるために、マラソンランナーがするように胸を張って、両腕を広げていた。
「嫌だ……」
アキラの口から、そんな言葉が漏れた。
負けたくない負けたくない負けたくない。
必死に祈った。
神様、祐司を止めて!
強くそう思った時、アキラの祈りが届いた。
「きゃっ!」
門柱の陰から小柄な女子が出てきて、祐司の行く手を塞いだ。
2 / 14 / 16:23 / Yuji Toyota
祐司は砂埃を上げて急停止する。
後はもう正門を抜けるだけだった。しかし、そのゴールまでの三歩を進むことができない。
「ふあぁ……、えっと、その……」
正門の真ん中に、最後の障害が現れた。
「正門の見張りは追い払ったんじゃなかったのかよ」
祐司は、ぎりっと奥歯を噛み締めて、自らの前に立ちはだかる者を睨み付けた。
「まさか、最後の敵が沙世ちゃんとは……」
「でかしたぞ! 絶対に祐司を外に出すな!」
背後でアキラが叫んでいる。
これが乙女隊と祐司の最後の戦いなのだ。
祐司は軽く息を吐き、とん、とんと体を揺するように軽く跳ぶ。
意識を沙世の動きにだけ集中させる。
アキラの声も、風の音も、音という音が遠ざかっていく。
沙世はチョコが入っているのだろう箱を両手で持ち、まっすぐに祐司を見つめている。
リズムよく跳ねる祐司とは対象に、沙世は意地でも通さないという意志を示すかのようにぴくりとも動かない。
祐司は心の中でカウントダウンを刻む。
八……、七……、六……
跳ねる度に減っていく数字。それとは反比例して、祐司のボルテージは上がっていった。
五……、四……、三……
深く空気を吸い込む。
二……、一……、
「っしゃあ!」
ゼロカウントと同時に祐司は右に跳んだ。右足の着地と同時に左へ跳躍。
「あ、あわわ……!」
沙世の目が祐司の動きに付いてこれずに遅れていく。さらに祐司はもう一度右へ跳んで見せ、着地した右足を深く曲げた。
「ふっ!」
溜めた力を解放して再び左へ――と見せかけた。
跳ぶふりをして左足を伸ばしたが、重心はまだ右足に残ったままだ。沙世の目が祐司とは逆を向いていることを確認しながら、もう一度軽く右膝を軽く曲げて前へ大きく踏み出す。
沙世の姿が視界の左端に流れていく。
勝った!




