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黒箱  作者: 真弥
7/7

脚本家のとある一日

 その喫茶店は小さく、席数も多くは無かった。


 しかしお昼過ぎという事もあり、お客様も疎らだった。

 

 そんな喫茶店の端の席に座っている原田憲次は、腕時計に目をやると、出入り口に目をやった。


「そろそろ……か」


 そう呟き、原田はテーブルに置いたパソコンを開くと、ワードで作成したデータを開いた。


「いらっしゃいませ」


 店員の声が聞こえた。


 それに気が付き、原田が出入り口を見ると、少女が一人、店内を見回していた。


「こっちこっち」


 原田は手を振りながら、その少女に声を掛けた。少女は原田に気が付くと、笑顔で近付いてきた。


 サングラスとマスクで顔を隠したその少女は、黒髪ストレートヘアで白いパーカーを着ていた。


 スカートは黒いミニスカート。グレーのニーハイソックスを身に着けていた。


 背は150cm程で、黒いエナメル生地のバックを肩に掛けていた。


「お待たせしました」


 原田の目の前に座ると、少女はサングラスとマスクを外すと、バックにしまった。


「真理ちゃん、顔隠さなくていいの?」


 原田は辺りを慌てた様子で伺いながら、少女に呟いた。


「大丈夫ですよ。お客さん少ないし」


 そう言って、少女は笑った。


 少女の名は、石野真理。14歳、中学生。


 実はジュニアアイドルとして、最近テレビドラマの子役として引っ張りだこの女優だった。


 女優と呼ぶに相応しいほどの演技力を持ち、純粋な少女を演じる事の多い真理は、


 女性を中心に人気が高かった。

 

 原田はというと、業界では有名な脚本家で、巷で人気のドラマなどの脚本を手掛ける作家だった。

 

 今日は、今度真理が主演を務めるドラマの打ち合わせをこの喫茶店ですることになっていた。


「マネージャーはどうしたの?」


「車置きに行ってます。近くに駐車場無いみたいで」


 原田が聞くと、真理はメニューを見ながら、答えた。


 テーブルの上のチャイムを押すと、若い女性店員がメニューを聞きに来た。


 真理はショートケーキとオレンジジュースを頼む。


 女性定員はメニューを繰り返しながら、真理の顔をチラチラ確認する。


 きっと、少女が石野真理だと気が付いた事だろう。

 

 女性店員が店の奥に行くのを、原田は目で追った。


 女性店員は奥にいる別の店員に声を掛けると、ヒソヒソと何かを話す。


 その話を聞いた店員は、驚いたように原田と真理の席を覗く。


 そうして、店の奥へ消えていった。


「原田さん。ドラマどうですか?」


 真理が質問をした。


 原田は目の前にあったパソコンの画面を真理にも見えるように移動させると、マウスを操作した。


「もうほとんど出来てるよ。まぁ、真理ちゃんの演技力なら朝飯前だと思うよ」


 暫く黙って画面を食い入るように見る真理。


 時折、驚いたように目を見開いたり、安堵の顔を見せたり、


 表情豊かに画面に書かれた文章を見つめた。


「すごい……やっぱり原田さんって、天才ですよね!」


 輝いた目で原田を見つめる真理。


 原田は少し照れたように口元を手で摩ると、腕を組み、椅子の背もたれに身体を預けた。


「まぁ、これで飯を食ってるからね」


 真理はその後も暫くパソコンを見つめた後、原田に質問した。


「原田さんって、どうやってドラマの脚本とか思いつくんですか?」


 真理の質問に、原田は眉間に皺を寄せながら、暫く考えた。


「そうだな……日常生活で起きた面白い事、不思議な事なんか見て、


 思いついたらメモに残して……そんな中からアイデアを見つける……それぐらいかな?」


 真理は原田の話を食い入るように聞いていた。


「じゃあ、この喫茶店! この喫茶店をテーマに、何かドラマを作るとしたら!?」


 真理は興奮しながら原田に質問した。


 声が大きくなったからか、少し離れた席に座っていた女性二人がこちらを見ていた。


 真理に気が付いたのか、先程の店員と同じように密談している。


「……喫茶店かぁ。こんな喫茶店だと事件も起きないだろうし、イメージがわかないな……」


 そう原田が話していると、先程の女性店員が真理の注文したケーキとジュースをお盆に乗せ、


 それを運んできた。


「お待たせ致しました」


 そう言って、女性店員が真理の前に品を置いていく。


 原田は女性店員の顔を目だけで見た。


 やはり、この店員は、少女が石野真理だとわかっている。


 机に品を置きながらも、真理の顔を見ている。


「?」


 暫く店員の顔を見ていた原田は、異変に気が付いた。


 店員の手が止まり、真理の方を直視したまま動かない。


 何をしているんだ? と、原田が思った、刹那だった。




《パンッ!》




 強烈な破裂音が、原田の鼓膜を揺さ振った。


 それと同時に、女性店員の身体が、文字通り崩れた。


 何が起こったのかわからず、恐怖からか身動きが取れない原田は、


 ゆっくりと目で、床に倒れた店員を見た。


 頭部が破壊され、床に血を流す女性店員は、ピクリとも動かなかった。

 

 ゆっくり目を戻す。


 離れた席に座っていた女性二人も、口を開いたまま、女性店員を見ていた。


 原田は、首を水平に動かし、目の前に座る真理に目をやった。


 無表情の真理は、冷たい目で女性店員を見たまま、握り締めた拳銃を、


 ゆっくりとバックにしまった。

 

 原田の視線に気が付いたのか、笑顔に戻ると、真理はテーブルに手を付け、


 身を乗り出すように原田に顔を近付けると、無邪気な表情で言った。



「事件起きたよ! ねぇ! どんなドラマの脚本が出来る?」

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