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黒箱  作者: 真弥
6/7

父の墓参り

 十月になると、父の事を思い出す。


 もう、あの父が死んで5年になる。高校生だった私も、今年から社会人だ。


 父の死は新聞にも大きく取り上げられ、私も母親も苦しんだ。


『男子高校生殺害の容疑者、自宅にて自殺』


 私は人殺しの娘として周りから非難の目を浴びていた。


 父がどんな思いで人を殺したかも、皆、知らない。

 

 その事件から3ヵ月後、母も追うように死んでいった。


 ストレスにより心身共に衰弱しきって、死んでいった。

 


 今日は父の命日だ。

 


 誰からも恨まれて死んでいった父の命日など覚えているのは、きっと親戚中探しても私だけだろう。


 私は、父の娘として、父の命日には毎年墓参りに来ている。

 

 昼まで降っていた雨も止み、曇った空が、私の心と比例しているかのように暗かった。

 

 近くの花屋で見繕った花を抱え、階段を登ると、父の墓が見えてきた。

 

 毎年変わらない季節、風景、空気。ただ一つだけ違うことがあった。

 


 父の墓に訪問者がいた。



 セーラー服に身を包み、墓の前にかがみ、手を会わせ、


 目を瞑っている少女の姿が、私の目に焼きつきそうになるほど違和感を醸し出していた。

 

 暫く少女を見て立ち尽くしていた私は、ゆっくり父の墓に近付き、少女に声を掛けることにした。


「父の……お知り合いですか?」


 私の問い掛けに、ゆっくりと目を開き、私を見た少女は、微笑むと、小さく頷いた。


 漆黒色のセーラー服に、赤いリボンのセーラー服が、少女の真っ白な肌を強調させていた。


「ええ……お礼を言いにきました」


 そう言って、彼女は立ち上がった。


 そして、横に置いてあったバケツから、白い布を取り出し、絞ると、父の墓を拭い始めた。


「父にお礼ですか……失礼ですが、人違いではありませんか? だって……父は……」


「いいえ、間違っていません」


 私の言葉を遮り、少女は言った。


「こんな話、聞いた事ありませんか?」


 父の墓を磨きながら、少女は続けた。



「ある所に、活発な高校生の男の子がいました。


 彼はスポーツ万能で、部活は野球部に所属。


 1年生の頃からレギュラーに入り、3年生になるとキャプテンとして、


 部を甲子園まで導きました。


 性格は温厚で、誰からも好かれていました」

 

 私は少女の言葉で、ある高校生を思い出した。


 しかし、少女が何を言おうとしているのかは、不明だった。


「そんな彼が、ある日、殺されたのです。


 ニュースにもなりました。


 警察は、殺害現場から見つかった凶器であるナイフの指紋から、


 ある男性が犯人だと行き着きました」

 

 私は背筋が凍るような寒気を感じた。


 目の前の少女が語る事件……。5年前に起きたあの事件を、私は思い出すほか無かった。


「その男性は、自分が容疑者になった事を知り、恐怖の余り自殺した。


 そう、ニュースでは結論付けました。でも、本当は違ったんです」

 

 少女の手が止まった。


 私は全身から噴出す冷や汗を感じた。


「本当は、その高校生を殺した犯人は別にいたんです。


 高校生を殺した少女は、その男性に全ての罪を擦り付け、殺されたんです」

 

 私は自分の口を塞いだ。信じられない。


 まさか、私の目の前にいる少女は……。


「だから、ありがとうって言いに来たんです」

 

 そう言うと、少女は私に近付いてきた。私は足が震えて動かなかった。

 

 とんっと、少女が私の懐にぶつかってきた。


 ゆっくり顔をあげた少女は、私を見て微笑んだ。




「ありがとう……真実を言わずに、死んでくれてって……


 私に復讐の機会をくれて……」

 


 少女が私から離れた。少女が持つナイフが赤く染まっているのが見えた後、


 私の意識は朦朧としてきた。

 

 


 一人バスに乗った少女は、鞄から一枚の写真を取り出すと、微笑んで語りだした。


「お兄ちゃん。やったよ」

 

 窓の外を見ると、先程までいた墓地が遠ざかっていくのが見える。


「何も情報が無かったから、ここまで調べるのに、5年も経っちゃったけど……やっと見つけたよ」

 

 写真に写る高校生の顔を摩りながら、少女はまた笑った。


「お兄ちゃんにフラれたからって、お兄ちゃんを殺したんだもん。


 それに、自分の罪を父親に擦り付けて、実の父も殺すんだもん。殺されて当然だよね」



 暗い曇り空と反比例するかのように、少女の心は晴れ晴れとしていた。

 

 



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