入学式
学園島は、日本列島の北側にある無人島を開発して造られたものだ。かなりの敷地面積を有しており、青藍高校は巨大な国立大学並みの広さがある。体育館だけでも一から六号館まであるのだ。さらに、洒落たカフェや巨大なショッピングモールやコンビニまであって、高校生活では全く苦労しない。
学生の数は千人弱。そのすべてが特殊な力を持った人たちだ。いや、実際俺の住む日常では特殊でもなんでもなく当たり前なのだった。
『入学式は第一体育館で行いますので八時三十分までに遅れないようお集まりください。くりかえします……』
どこから出しているのかわからない男性の声が耳に届く。港から第一体育館まではバスで行かなければならない。港には大量のバスが並んでいた。バスに乗る順は決まっていない。俺は一番近くにあったバスに乗り込む。
俺の後ろについて雪乃も同じバスに乗る。俺が真ん中あたりの窓際の座席に座ると、その隣に雪乃が座った。
「お前なあ。俺と一緒にいるとどうなるか、わかってんのか?」
俺は小声で雪乃に言う。それにならって雪乃も小声で答えた。
「わかってるわよ。でも、知り合いの顔はここにはないし。それに、実際この方が安全でしょう?」
「安全って……」
「何かあっても、私が助けてあげるわよ。まかせなさい」
それじゃあ、今までの俺と同じじゃないか。そう言おうとしたが、黙っておいた。
入学式は学園島で最も大きな第一体育館で行われる。東京ドーム並みの広さを持った体育館は、千人の生徒を収容するだけでは空きスペースがありすぎる。
俺と雪乃は適当に空いている席に座る。野球場と同じように、観客席のような場所がある。そこに生徒が適当に座るのだ。そして、ドームの中心に茶色いスーツを着た恰幅のいい爺さんが立つ。マイクスタンドの前に立って、背中で腕を組んでいる。
あの威厳。こんなに遠くにいるのにそれが伝わってくる。騒がしかった観客席が一気に静まり返った。ここには新入生だけでなく二年生も三年生もいる。彼らまでが、校長先生の威厳によって黙らされたのだ。校長先生は、静かに笑っている。それが肌で感じられた。
校長先生は黙って首だけを動かし、全体が静かになったのを確認して声を上げた。
「新入生の諸君。入学、おめでとう」
全生徒は黙ったまま。校長先生は続ける。
「君たちは数多の強豪たちを抑えてこの学校への入学を果たした。一般教養科目の国数英理社の五教科の成績をトップクラスで収めた。そしてさらに特殊科目の魔導筆記試験もトップの成績を収めた。そして……魔術実技試験にも合格した。ここに至るまでに様々な苦労があったであろう。様々な挫折があったであろう。しかし、君らの努力は今報われた。我々は君たちを歓迎する。この世界で埋もれぬよう、最新で高度な技術を君たちに提供する。できるものはすべて用意してある。あとは、君たち次第だ。この学校を活かすも殺すも君たち次第! 共に切磋琢磨しあい、共に高みを目指そうではないか!」
誰もが立ち上がり、歓喜の声を上げた。本当に野球のスタジアムに来たのではないかと思うくらいの歓声。
驚いた。これが青藍学園高等学校。
これが、魔術の世界――。