モノ達の日常
僕らの日常を紹介します。え、僕らって誰かって?
いやだなぁ僕らは僕らだ、それ以外の何でもないよ。見ての通り、読んだ通りのお楽しみ。
ただ――――すっごい平凡だけど、ね。
僕の片割れは高飛車だ。
隣でぎゃんぎゃんと騒ぐ彼女を見ながらふと思う。あれ、高飛車で合ってるよね? 僕は彼女と違って語彙も優秀な頭脳もないから間違ってるか正しいかもわからないんだ。
「ちょっと聞いてるの!?」
「うん聞いてるよ。君が主人に愛されているって話だろう?」
「そうよっ私の方がアンタより何十倍も何百倍も御主人様に愛されてるのよ! いつも手放してくれないしどんな時でも傍に居てくれるんだから! どう? 悔しいなら悔しいって言ってみれば?」
「いや別に」
主人の役に立てて良かったじゃない、そう呟く僕に何か言いたそうにした彼女は、でもその高すぎるプライドに障ったのか何も言わずに僕から視線を外した。
僕としては危険な外を連れ回される方が怖いんだけど、よくそんな事で愛されてるって思えるよね。まあ主人の役に立つ為に生まれた彼女だからこそそう思えるのかもしれない。彼女の為にいる僕としてはそんなの関係ないけど。
言っておくけど、別に僕は主人を嫌っているとか反発しているとか、とりあえず世間一般の反抗期なわけじゃないんだよ。ただ単に彼女ほど主人への思い入れがないだけさ。
よく主人がつけっぱなしにするテレビを眺めて思う。「そーごりかい」の差って意外に激しくて難しい。難しい言葉を使ってみたけど、意味は知らないんだって言ったら彼女はきっと怒るんだろうなぁ。勉強しろ!って。
優秀な彼女はそういうのが許せないらしい。でも見てよ、こんな僕のどこに知識をつめこめるスペースがあると思う? 無茶な事を自覚しているだけマシじゃないかなぁ。
「それで、主人が君に頼んでいた事とやらは終わったのかい?」
「! あ、当たり前じゃないっ私を誰だと思ってるの!? このハイスペックな私にかかれば出来ない事なんてないわ!」
「そうだねぇ、僕と違って君に出来ない事はないんだろうね」
「……っアンタねぇ……いっつもいっつもそうやって捻てばっかり! いい加減にしなさいよっ!」
「うん、とりあえず落ちつこうよ。僕は捻てない、ただ捻じれているなぁとは思うけど」
窓に反射した自分を見て頷く。うん、そこは僕にはどうしようもないからなぁ。
「~~~っもう知らないっバカ!」
緑の目でキッと睨んでそっぽを向いた彼女を眺める。
すらりとした体で体育座りって何それ可愛いとか思ったのは内緒だ。有能なんだけど仕種はいちいち子供っぽいんだよなぁ、まあ僕達は若いからそれも当然なんだけど。
ちょくちょく変わるその髪色やファッションにメイク。それを彼女に施す主人はお洒落さんだと思うよ。基本としてすっぴんでも綺麗な彼女にそれらは似合っているし、それを着こなして自分のものにしている彼女はモデルさんみたいだ。
うん、片割れとしては誇らしいよ。僕は飾りようがないしね。
ただ細くて長いだけ、まるで日陰で成長しすぎたモヤシのような自分を見て思う。うん、まあ僕は彼女ほど有能じゃない。器用な方でもないから、出来る事は一つだけでいい。
疲れてへとへとになって帰ってくる彼女を癒してあげる。僕がするのはただそれだけだ。
戻ってきた主人が彼女を連れていく姿を見て、今日もガンバレーと呟いた。
そして今日も主人がつけっぱなしにしていったテレビで時間を潰していたら、気付けば深夜、シンデレラだってもうとっくに舞台から退場した時間。僕のお姫様はヤバいかもなぁ、とのほほんとしていたら主人が帰ってきた。なんだかくたびれているけど、そっちはいつもの事だから気にしない。
僕の隣にやってきた彼女はペタンと座りこむ。その目が赤くなっているのを見て、あぁやっぱりかぁと自分の想像通りな姿に苦笑した。
「う~~……」
「おかえり。お疲れだね、というよりは死にかけだね」
「うるさぁい。御主人様が困らないようにするのが私の仕事なんだから、これぐらい……」
「はいはい、どーってことないわけないでしょ。ほらおいで、ぎゅーしてあげる」
手を差し出した僕とそれでも動こうとしないお姫様。あれ、どうしたんだろう。
その目が真っ赤になるほど働いて疲れすぎているだろうに、一体何を意地はっているんだい?
「……私はまだ、今朝の事許してないんだからぁ」
「うん、そうかい。とりあえず話は君が回復してからにしようよ」
「私の話聞きなさいよー……」
「いつも聞いてるよ、そしてこれもいつも通りの会話じゃないか。でもきっと僕らは明日もこんな会話をするんだろうねぇ」
問答無用でその体を抱き上げてぎゅーっと抱き締める。途端にホッとする彼女がすり、と甘えてきて、やっぱり僕の片割れは可愛いなぁと笑った。
高飛車なのはその実力あってのことだから僕は気にしてないんだけど、でも僕がいないとその実力を出せないところが何か放っておけないというか、うん、ひごよく? っていうのかな。
僕に構ってほしくて嫉妬させようとする彼女と、それを見て「あぁ可愛いなぁ」と思いながら流す僕。彼女が僕以外ではどうしようもない事にかこつけてそんな意地悪をしてるんだって知られたら嫌われちゃうかな?
でも彼女が主人に外へ連れだされる度に嫉妬して、でも僕は家で待っているしかできないんだよ? これぐらい構わないと思わない?
うーん……ほどほどにしないとダメかなぁ、嫌われるのは嫌だし。
その目の充血がとれていつも通りの緑になるまではまだまだ時間がかかる。
彼女をへとへとにさせる主人は悪いとは思ってないんだろう、だから僕は主人への思い入れも尊敬もないんだよ。これで僕達を離れ離れにしたり、外で彼女を置き去りにしてきたら嫌いになるけど。
「あぁ、でもやっぱり明日も今日と同じような会話で喧嘩するんだろうなぁ」
僕の腕の中で眠る彼女が明日も元気に囀ってくれるように、その存在意義を果たす為に働けるように、僕はぎゅーっとする腕に力を入れた。
うん、僕も何か満たされる気がする。これが「じゅうでんちゅー」ってやつかなぁ、つまり彼女不足なんだろうね。
願わくば――――彼女が壊れたりいなくなった時には僕も一緒に捨ててほしいな、主人。
だって僕は彼女だけの専用なんだから。
これが僕らの日常さ。何の変哲もなくてくだらないだろう?
僕達が「ナニか」わかったかな?
わかった人もわからなかった人も、お付き合いいただいてありがとね。
寝起きの勢いで書き上げたので、少しテンションのヤバさが反映された一品です。
彼らが何かわかりました? 彼女の容姿や目の色の変化が最大のヒントですよね、これ。あれ? ヒントになってない?
定番モノを書きあげて涼羽自体は満足していますが、もし「わかりにくいよ!」などの感想がありましたら直す所存ですので御一報ください。
読んでくださった方、ありがとうございました!