赤い花は鬱血として
「その通りだけど?」
あまりにあっさりと静香はそれを肯定した。俺はやっぱりなと思っただけで驚くことはしなかった。
「それ、言ってよかったのか?」
俺は静香の方に目を向ける事なく言った。静香も静香で俺の方などきっと見向きもしていないのだろう。
「貴方が聞いたんじゃない。」
静香は当たり前の返答をした。けれど静香はわかってるはずだった。
「俺はお前を止めるぞ。」
車内が静まりかえる。静香は暫く口を閉じたまま、俺はそんな静香の様子を伺った。
「貴方は、止められないわ」
「何を…」
「貴方は私を殺すわ…妹さんの時みたいに。」
俺はブレーキを強く踏んだキィィとタイヤと地面が擦れて音が響く。
静香がそれに動じることはなくて、ただ冷ややかな目で俺を見た。
「何してるの。信号は青よ。」
冷たい目だ。犯罪者を嫌悪する目。
母親の目、だ。
「見るなよ…っ!俺を…そんな目でっ」
クラクションの音なんて気にならない。
俺は目の前の少女の細い首に手を当てた。
「また、殺すんでしょ?」
(花を、殺すの…?)
手に力をこめる。
「うるさいっ…うるさいっ…!」
「っ…ほ、ら…あ、なた…はっ…たしを、ころ…すっで、しょ…?」
その声にはっとする。慌てて手を放すと細くて白い静香の首には赤く俺の指の後が残った。
静香は横で息を整える。別に似ている訳ではないけれど、その姿が俺の記憶の彼女を蘇らせた。
「っ…花っ…!」
俺はただ目の前の少女を抱きしめた。
今はただ、彼女に似た体温を確かめたかったのだ。