ただの少女の話。
車は走り続けた。高速を乗ったり下りたりしながらどんどん住み慣れた街から離れていく。
「なぁ、」
啓太の声などまるで聞こえないとでも言うかのように少女…否、静香は窓の外をぼーっと見ていた。
一週間静香と過ごしたせいかこんなふうに無視されることに啓太は慣れていた。だから気にせず話を進める。聞いてないフリをしていても静香はちゃんと聞いているのだから。
「お前、なんでこんなことしてんの?」
「…さぁ、なんでかしらね。」
「茶化すなよ。」
「知った所で貴方には関係ないわよ。」
「あるさ、共犯なんだろ?」
啓太がそう言うと静香は小さく舌打ちをして、窓から目を逸らすことなく話を始めた。
ある家には女の子とその両親が仲良く住んでいました。
しかし、ある時父親が多額の借金を残して蒸発してしまったのです。
父を愛していた母は置いていかれたことと借金に対するショックが大きくて狂ってしまいました。
それでも母は私のために働いてくれました。
しかし少女は中学生だったため母を助けることができません。
そして母は呪いを呟き始めました。
『あなたがいなければ私も楽になれたのに。』
「私やっと見つけたのよ。お母さんのために私が出来ること。」
狂ったのはきっと母親だけではない。
少女も狂っていた。
それは母親への美しき愛情か、はたまた醜い少女の自己満足か。
どちらにしても啓太の知ったことでは無かったのだが、啓太は酷く単純で、この話を聞いて静香に協力をしようと思ったのだ。
「僕、お前に最後まで付き合うよ。」
「…いきなりどうしたのよ。同情はやめてよね。」
「同情じゃない。ただ、何と無くだけどお前…」
啓太は静香の顔を見て言うのを躊躇った。けれど言った方がいいと判断したからには啓太はそれを口にする。
「お前、死ぬつもりだろ?」
静香の動きが一瞬ぴたりと止まる。それから静香はにっこり笑うと、
「その通りだけど?」
と言った。