妹が美しいから逆に疑わしいと血縁証明魔法を作ってみたら王家に保護され父とは親子で唯一の実子だったけれど縁切り済みなのですがってこないでくださいね
妹に毎日毎日ものを取られてうんざりだ。そう思った日から少しずつ少しずつ罠にかけることにした。
まずは己の婚約者に手を出しているので、妹の婚約者に教えたのだ。とても共感できないけど、あの子の婚約者は妹を好きすぎる。
あんな性根のあり得ない子を好きとか、もうわけがわからない。なんでも、人をいじめる時の優越感のある顔がいいらしい。
いや、勝手にしてよと言いたくなる。ただ、妹の首輪はきっちり持っておいてほしいところだ。
出ないと放し飼いにした末路を与えることになる。少し、彼と妹に忠告しようかなと思っているけれど、なににしようか?
「ちょっといい?顔を貸して」
「え?うん」
すごく不機嫌な義理姉に、驚いた男。
ほらやっぱり、彼は妹の手綱を操れていない。最悪だ。
「あのね」
彼を誰もいない死角に連れていく。このまま頭を打ちつけたら、この苛立ちが紛れるのだろうか?事情を説明すると彼は「また?」と言う。そう、まただ。悪い癖が再発した。
「手綱が緩いんじゃない?」
「そうかも、ね。ああ、いやいや、話し合ってみるよ」
「あまりに酷いなら私も本気でやるから。その時は、あなたがなにもできなかったと諦めてね?逆恨みなんて見当違いなこと思わないで。こんなことを一々事前に話すことすら、馬鹿馬鹿しいほど切実と言うことを覚えていて」
「わかった」
こちらの本気を感じ取ったらしい。ごくりと喉を鳴らすのが見えた。フンと息を吐く。今頃緊張しても手遅れだ。印象は最悪にまで落ち、突き抜けている。
マイナス点なんてどころではない。彼らが結婚してもうちの後ろ盾をやるつもりはないし、新規事業があっても噛ませるわけがない。恩恵というのは、両者の信頼の積み重ねがあってこそ。
「わかってる?あなたの婚約者が私の婚約を壊す意味。この時点での将来を」
「ああ。わかってる」
「私があの子を締め出したらあなただけで支えなきゃならないんだから。姉だから妹の面倒を見る、そんな絵空ごとを押し付けてこないでね」
「わかってる。君が妹を嫌悪しているのはちゃんと理解してるから、だから、彼女を平民にだけにはしないでくれ。頼む」
彼がこんなに懇願するのは、妹が貴族ではなくなれば貴族の妻になれないから。平民に共に落ちれば?
意地悪で言っているのではなく、憎いから言ってるのだ。なにも間違っていることは言ってない。だからこそ、彼は恐れているのだ。平民として生きていけるわけがないと理解しているから貴族のままがいいのだろう。
これ以上リキュリアの未来設計を邪魔するのならば、絶対にもう見逃さない。婚約者がいるくせに人の婚約者に近づくところが悪質なのだ。許せない。たくさん男性がいるのによりにもよって、自分の婚約者に粉をかけるところがもうイライラしてしまう。
舐められているとわかっているのでこちらも反撃を試みることにした。とっておきの魔法があるのだ。ニヤリと笑う。魔法で罠を貼っており起動理由も細かく設定したし準備は出来ていた。
なんという完璧な配陣。自分で自画自賛する。欲しいならば欲しがる気を無くさせればいいのだ。我慢するなんてアホらしい。
どうして好き勝手させていたのか自分でもわからないが、今回でそれもなくなるのでニコニコにもなる。機嫌がいいことなど誰も気にしないので、遠慮なく笑みを浮かべる。
妹第一の我が家になって久しい。姉の己には無関心だ。妹にあんなに入れ込むのも謎だが。リキュリアは実は疑っていることがある。美しく可愛いと評判の妹が本当に父と血が繋がっているのかということを。まだ血縁などを証明する方法が確立されておらずなんともモダモダしている貴族たちも多いことだろう。
そんな悩みを解決しようとリキュリアが自ら論文を発表して、血縁関係証明ができる魔法をこの度できるようにしたのだ。この論文を発表してから母が妙にソワソワしているのも知っている。
多分、話しかけようとしているらしい。妹が生まれてからこれみよがしに差別して態度を変えてきた母が今になってこっちを見る意味を考えると、証明云々以前の話になったなと笑みを深くした。
母のソワソワにも気付かず托卵されている疑惑の父は呑気にリキュリアを同じく差別しているので、馬鹿だなあと思う。もちろん、証明される前に縁を切るので、父の直系として家を継ぐことはありえない。
他の女と再婚でもしてまた産んで貰えばいい。リキュリアが父の子でない確率もあるが、顔は父似寄りなのであんまりそうではないのかもしれない予感はある。妹は父と母の子にしては色味がちょっと怪しいのだ。
父はきっと酷く絶望し打ちひしがれながらもリキュリアに縋りついてくるかもしれないが、知るものか。今更父がお前が私の子供だったと言ったところで、情なんてないもんでね。生まれていない上に父だって己を愛しているから言うことでもないとわかっているから、余計に穢らわしい。
理論を組み立てて、四六時中やっていると図書館に制服を着た男がやってきた。内密で話したいと言うのでカフェで会うと「血縁関係を証明する魔法を作るあなたの身を守るために派遣されました」と言うではないか。
驚いて凝視していると、この論文を目にした都合の悪い人たちの動きが怪しいと言うのだ。確かに言われてみれば妹にダメージを与えるつもりだったのだが、他の人にも影響がありすぎる魔法だなと今になって自覚していく。
彼は王の近衛として働いている補佐なのだという。まだ見習いのような立場なので気負わなくていいと言われて頷くしかない。名前はディークと名乗った。
母親の不貞の末に生まれたものの、母親は置いて行きどこかへ行ってしまったと聞いたのは魔法が出来上がりかけているときだった。一年以上かかったものの、身の安全が保障されている状態にしては早めだろう。
リキュリアは妹と父の関係が怪しいと話してだからこそこの魔法を完成させるのだと伝えたら、深く頷いた。彼もこの魔法に希望を感じているらしい。
仮に父親と血の繋がりがあると知ったとして嬉しいの?と禁断の問いかけをする。彼はクスクス笑って仄暗い瞳で首を振った。父親がどんな態度になろうと自分は拒否すると。
リキュリアも同じだ。父親の娘が自身だけだろうが、受け入れるなどするはずがない。親子や家族の繋がりは血の濃さなのではないと二人ともよくよく理解していたのだ。
妹用に貼った罠はうまいこと起動してくれたらしく、リキュリアのために作られたドレスがパーティ中に破れるトラブルがあり大恥をかいたらしい。
「うわああ!お姉様のせいよおお!」
リキュリアはいなかったのでアリバイはある。
「お父様、お姉様を叱って!罰を下して!」
ゆえに父親は妹が姉のせいと言い張っても距離的に無理であると告げれば悔しげに歯噛みしていた。
「はあ」
「っ、なんだその顔は、さっさと出ていけ!部屋に居ろ!」
理由があってもこちらをそんな顔で見る父を見ていると、やはりこの人とは親子じゃないなとストンと胸に納得が湧く。妹の部屋に行ったこともないのに、まるで近寄るような言い草だ。
「リキュリア!あなたっ、妹にっ」
呆れて部屋に戻る道中、母がこちらにやってきて徐に手をあげると頬を叩いた。二度叩かれて、こちらも負けじと叩き返す。
「きゃあああ!なに、す!」
何か怒鳴ろうとした母に向かって花瓶を掴んで振りかぶると壁に叩きつけた。
「ひゃあああああああ!!!」
人は自分より恐ろしい目に遭うと途端に被害者ぶる。冷えた目で見下ろすと鼻で笑って通り過ぎた。使用人たちは母の癇癪を察して出てこない。大した忠誠心だ。
母は叩く行為で己の血縁魔法をやめるように言うつもりだったのかもしれない。眉唾なことをするのはやめなさいとか、淑女が男のようなことをするなとか。それらしいことを言って、父も丸め込んでやめさせようとしている気配は察していたから。
花瓶を叩きつけた件は誰も証人がいないので母の犯行になった。妹が姉に罪を着せようとしてありえないと父が分かってすぐのことなので、母も同じようなことをして処罰されないから濡れ衣を着せようとしたと判断したらしい。
血縁魔法が完成したと伝えるとディークは頷き、王へ直接リキュリアを案内した。王と王子は確認し合い嬉しさに顔を綻ばせると礼を言われる。妹と父の血縁関係が疑わしいので作っただけと伝えると深く頷かれる。
泊まるように言われると頷く他なく従う。父の部屋に行った時、縁を切ってあげてもいいと笑みを浮かべて書類を差し出すと父はポカンとした顔を浮かべて、本当に切るのかと聞きながら次期当主を妹にできる喜びを隠せていなかったのでサラサラと書かれた。
母に花瓶を放っても無視されたのはそんな理由もあったのだろう。トラブルを起こして縁を切ったことを無かったことにされるかもしれないと思ったのかもしれない。もっと近寄りたくなくなるのが普通なのだが、彼らには普通の感覚が備わっていないのだろう。
王や城の関係者たちが何度も試して実は血縁があったり、なかったりという騒ぎを起こして行われる実験。ディークもやったと言って、見事父親との血縁の有無を証明できたのだと言う。
「血縁はあったよ」
「よかったですね」
王からは妻を追い詰めて正当な血筋を不当に貶めた罪で降格と罰を与えられたんだと、喜びに溢れた報告を受ける。
「ありがとう。やっと、あの男に罰を下せた」
ディークは血のつながりを感じていたが、勘に頼っていた感覚が間違いではなかったと震えている。
「そっちは?」
「私の時は大きな、血縁魔法発表の時に」
「どちらに転んでも君の父親は後悔するね」
「たとえ、血の繋がりがなくても快挙ですからね」
爵位を渡したいと打診されて頷いた。父の爵位を継がない意思を言ったから考えたのだろう。父も血筋を貶めて血筋でないものを優遇した罰を受けるのだ。
本来なら、知らなかったから無罪放免になるのだが、リキュリアが褒美をもらえると聞いた時に罰してもらいたいと家族丸ごとの罪を告白した。お家乗っ乗りである。お家乗っ取りではない可能性もあるが、それはあまりにも妹の顔が美し過ぎる。
それに、調べたのだ。妹が生まれる一年前に遠い国の王弟がこちらの国に来て当時顔が綺麗で持て囃されたのだと。母の一時的なロマンスだったとしても、我が家にとっては醜態以外の何者でもない。
顔も調べたが似ていた。当時を知る人たちもいるだろうが何年も前の顔で、男ではなく女なので知られるリスクはない。男ならあの時の国を盛り上げた王弟なのではと言われるかもしれないが、美しい女となれば候補は絞れない。
が、どうにも妹の世代に何人か髪色は違うが似た顔立ちの美しさを持つ男女の子供がちらほらいるらしい。ちょっとだけよかったりして、妹ほど遺伝子が強く出たりしないだけなのではと。
非常に疑わしい。実は母は美しい顔が生まれて周りにマウントを取って愉悦に思っているのではと疑惑が浮上している。普通は夫にバレるのではと生きた心地がしないはずなのだが、疑うべき対象が妻娘をメロメロに溺愛しているのだから、警戒することなくもう一人の娘を冷遇したのだ。
夫がアホでよかったと胸を撫で下ろしているのだろうが、ここに来てもう一人の娘がそれを覆そうしているのだから焦っているのだろう。
家に帰ってきたらどうだと母から手紙が来たと聞いた時に笑ってしまいそうだった。偽の家に届いたそれは愛しい娘と書かれていた。
何を作ったのか、完成したのか知りたくて冷や汗がドバドバしていることだろう。考えただけで今日のご飯も美味しくなる。そうして過ごしていたら漸く大掛かりなパーティが開かれることになった。
「此度、画期的な魔法が開発された」
王が立ち上がり王子と共に手をかざす。玉が光る。それを見て貴族たちはざわざわとなり、これは血縁を示す玉だと説明されていく。
名前を呼ばれていく人たちは高位貴族。彼らが率先して証明していくと、他の人たちは拒否できないという方法だ。
次にリキュリアの元家族たちが呼ばれる。母が物凄く引け腰で動くのが遅いものの、無情にも父と妹の手がかざされる。
──シーン
血の繋がりがない場合は光らないとパフォーマンスを事前にしているので、光らない意味がわからない人間などこの場にいない。
「嘘ですわ!」
母がワッと妹を抱きしめたが王は無視してリキュリアを呼び、リキュリアがここにいることを知らなかった親子たちは驚いて呆然と見つめる。
「リキュリア嬢、手を」
「はい」
「貴様も手を当てろ。今まで何をしてきたのか思い知るがいい」
「え……え、な、にが」
父は王の低い声に戸惑い、妹と血が繋がっていなかった事実を飲み込めないまま無理矢理玉に手を乱暴に乗せられる。ちゃんと光り輝いて親子の証明がされた。
「親子と証明されましたが、縁を切ったのでお忘れなきように。話しかけないでくださいね。元……お父様」
「は……え、そ……!?」
父は今起こったことも理解しないまま、混乱した顔で兵士たちに公衆へ押し込まれる。次が立て込んでいるので立っているのが邪魔なのだ。しかし、実の娘を追い出して実の娘じゃない托卵の娘を可愛がっていることなど、すぐに知れ渡るだろう。
現に今もヒソッと笑う貴族たちの馬鹿にする声が囁かれている。そんな声など聞く余裕もなさそうだが。気付いた時には何もかも失っている男など、恰好のよい遊び道具。
「お前のせいで!」
泣き喚く妹のところからこちらへやってきた母がリキュリアに飛びかかってきたが、ドレスが思いっきり破れて下着姿になったのでそちらに気を取られて兵士たちに捕まった。
どうやらリキュリアのドレスをリメイクしたのは母も、だったらしい。最後の最後に用意していた罠が発動してびっくりしたけど、良い思い出になった。
「大丈夫ですか?」
ディークが話しかけてきて頷く。
「うまくいってよかったですね」
爵位なんていらないと呟いたリキュリアはならば、自分と結婚すればいいと持ちかけた。ディークの爵位は父親のものを取り上げたもので、こちらも別にいらないと思っている。リキュリアもいらないのなら二人で切り盛りしていかないかと。
平民になるつもりだった二人なので貴族かどうかなど関係ないことにお互い気づき、婚約を約束している。王にも伝えてあり、めでたいと祝ってもらっているお墨付き。リキュリアの父がシャシャリ出てきても跳ね返せる爵位持ちなので、二度と煩わされることはないだろう。
母は縁を切ったとはいえ、子供に王城の中で危害を加えようとしたから今頃牢屋の中だろう。妹はまだ泣き喚いている。父は妹に近寄りもしない。
娘として溺愛していたくせに、実の子じゃないと知ればこうもあっさり放り出す。そんな人だとはすでに理解していたから不思議じゃないけれど。
元婚約者も妹の現在の婚約者もこの場にいるが自分が家を出て行った後に婚約した、と聞いていたのだが妹にかけ寄りもせず。平民に落としてない上にまだ貴族のままなのだが、どうやらそんなものは関係なくなったみたい。絶望に顔色を染める面々を見てスッキリした。
「休もうか」
ディークに手を取られて妹の欲しいという声を聞かずに済む人生に満足しながら、二人で静かな廊下を歩いた。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。血縁証明って本当にいい魔法ですよね!




